電気工事会社を買う前に確認する12項目|許可・主任電気工事士・経審・名義・未成工事
記事中のモデルケースは、理解を助けるための架空の例です。 当社の成約実績ではありません。
電気工事会社を買う前に確かめるのは、許可、人、数字、労務、名義と契約の12項目です。株式を買えば許可も電気工事業の登録も会社に残ります。ただし、人が辞めた日から動く2週間の期限も、決算書に出ていない債務も、同じ会社に残ります。この記事は、12項目それぞれについて、何を見るか、どの書類で見るか、危険信号、確認できなかったときの扱いを並べたチェック表です。
たとえば、年商3億円で第一種電気工事士が2名、社長が主任電気工事士を兼ねている会社の株を買うとします。決算書は黒字、許可通知書も更新済みです。数字を見るかぎり、買わない理由はありません。ところが、社長が経営業務の管理責任者も営業所技術者も主任も1人で兼ねていて、譲渡の日に退くなら、その日から2週間の期限が動きます。決算書には、この種の事情は出てきません。
当社は、売り手からも買い手からも成功報酬を受け取る立場で、最低額はどちらも300万円です(料率は手数料のページで双方に開示しています)。この記事の12項目は、買い手が自分で、または依頼する専門家と使うための物差しです。
12項目は、許可・人・数字・労務・名義と契約の5つのまとまりで並ぶ
この一覧は、印刷して使えます。右の列は、最初に開く書類です。
| まとまり | 確認すること | 最初に開く書類 |
|---|---|---|
| 許可と登録 | 1. 許可の業種、一般・特定、有効期間 | 許可通知書、国土交通省の企業情報検索システム |
| 許可と登録 | 2. 経営業務の管理体制と営業所技術者の継続性 | 変更届出書の控え、常勤性の資料 |
| 許可と登録 | 3. 電気工事業の登録(みなし登録)と主任電気工事士 | 登録証または届出書の控え、免状の写し |
| 人と取引 | 4. 資格者の年齢と在籍の実態 | 労働者名簿、賃金台帳、工事経歴書 |
| 人と取引 | 5. 経審の評点と処分歴 | 経営事項審査の結果通知書、ネガティブ情報等検索サイト |
| 人と取引 | 6. 元請・下請の構成と特定の元請への依存 | 様式第三号、工事経歴書 |
| 数字 | 7. 未成工事支出金・工事損失引当金・完成工事未収入金 | 決算書、工事台帳、請求書と入金記録 |
| 労務 | 8. 簿外債務・未払残業代・社会保険の加入 | 賃金台帳、36協定、適用事業所の届出控え |
| 労務 | 9. 安全衛生と事故歴 | 労働者死傷病報告の控え、事故報告書 |
| 名義と契約 | 10. 車両・工具・倉庫の名義 | 車検証、測定器の台帳、賃貸借契約書 |
| 名義と契約 | 11. 借入の保証とリース | 借入明細、保証契約書、リース契約書 |
| 名義と契約 | 12. 取引先との契約の承継条項 | 元請との基本契約書、代理店契約書 |
1の許可、5の処分歴、6の一部は、公開されている情報で先に確かめられます。7以降は、売り手の協力がなければ見えません。
許可と登録は、公開情報で先に確かめられる
1. 許可の業種、一般・特定、有効期間は、通知書と検索システムの両方で合わせる
| 見ること | 内容 |
|---|---|
| 何を見るか | 許可を受けている業種(電気工事業、電気通信工事業、消防施設工事業など)に、買う目的の工事が入っているか。一般か特定か。許可年月日と有効期間。許可条件の有無 |
| どの資料で | 許可通知書、変更届出書の控え。外からは、国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」 |
| 危険信号 | 検索結果と通知書で、業種や満了日が合わない。満了日が近いのに更新申請の控えがない。下請に出す額が大きくなる計画なのに一般許可のまま |
| 確認できないとき | 許可行政庁(国土交通大臣許可は地方整備局、知事許可は都道府県)に、許可の状況を確認する。契約書に、許可が有効であることの表明を入れる |
許可は5年ごとに更新しなければ効力を失います(建設業法3条3項)。更新を申請して満了日までに処分が出ないときは、処分が出るまで従前の許可が続きます(同条4項)。
一般か特定かは、買ったあとの商売で決まります。発注者から直接請け負う1件の工事で、下請代金の総額が5,000万円(建築一式は8,000万円)以上になるなら特定建設業の許可が要ります(2025年2月1日から。それ以前は4,500万円・7,000万円)。電気工事業は指定建設業なので、特定建設業の営業所技術者や監理技術者は、1級の国家資格者などに限られます。電気通信工事業は指定建設業ではありません。
検索システムは、許可番号、商号、代表者名、本店所在地、資本金額、許可年月日、許可の有効期間、許可業種、許可条件の有無を出します。処分の記録は出ないと、国土交通省の案内に書かれています。処分歴は5項目目の検索サイトで調べます。
許可の行き先は、株式譲渡、事業譲渡、合併、分割で変わります。承継できるのは許可を受けている建設業の全部で、一部の業種だけの承継はできません。方法ごとの早見表は許可・登録の承継早見表に、買い手の側の条件は許可付きの電気工事会社を引き継ぐ条件に書きました。
2. 経営業務の管理体制と営業所技術者は、誰が何年残るかを日付で聞く
| 見ること | 内容 |
|---|---|
| 何を見るか | 経営業務の管理体制を担う常勤役員等と、営業所ごとの営業所技術者(旧・専任技術者)が誰か。その人の退任・退職の予定。後任の見込み。補佐者を置く体制なら、その補佐者が誰か |
| どの資料で | 許可申請書・変更届出書の控え、常勤性の資料(健康保険・厚生年金被保険者標準報酬決定通知書の写し、住民税特別徴収税額通知書の写し)、役員の登記事項証明書 |
| 危険信号 | 両方とも売り手の社長1人。社長は譲渡の日に退く予定。届出上の人が、他の営業所で専任を要する人や、他の法人の常勤役員になっている |
| 確認できないとき | 前社長が取締役として常勤で残る期間と役割を、最終契約に書く。後任が立つことを、クロージングの前提条件にする |
要件を満たさなくなったとき、許可業者は2週間以内に届け出ます。代わりの人がいるなら、その人の証明書類を2週間以内に出します。要件を満たさなくなった許可は、取り消さなければならないと条文に書かれています。許可行政庁に裁量はありません(建設業法11条4項・5項、29条1項1号)。
常勤かどうかは、書類で確かめる仕組みになっています。国土交通省のガイドラインは、標準報酬決定通知書の写しや住民税特別徴収税額通知書の写しなどで確認するとしています。名前だけ載っていて、給与も社会保険もない人は、この確認に合いません。
営業所技術者の資格の一覧と、辞められたときの届出は専任技術者(営業所技術者)が退職したらに、経営業務の管理体制の入口は経営業務の管理責任者が退任・死亡したら|建設業許可を残す3つの手と2週間の期限にあります。
3. 電気工事業の登録と主任電気工事士は、営業所ごとの届出書と免状で合わせる
| 見ること | 内容 |
|---|---|
| 何を見るか | 一般用電気工事を行う営業所ごとに、主任電気工事士が選任されているか。電気工事業の登録(有効期間5年)か、建設業許可に伴うみなし登録の届出か |
| どの資料で | 登録証、またはみなし登録の届出書の控え。主任電気工事士の免状の写しと、従業員(みなし登録では役員か従業員)であることを示す書面 |
| 危険信号 | 届出上の主任がすでに退職している。主任が社長で、社長が退く。建設業許可はあるのに、みなし登録の届出書の控えがない |
| 確認できないとき | 主任が欠けたあとの2週間以内の選任の見込み(社内の第二種電気工事士で免状から3年の人、外部の第一種、役員への登用)を、買い手の側で確かめる。届出の漏れは、売り手の会社が届け出てから契約する形にする |
主任電気工事士は、第一種電気工事士か、第二種電気工事士免状の交付後3年以上の実務経験がある人から選びます。事業者本人(法人は役員のいずれか)が有資格者で、その営業所の業務に主として従事するなら、別に置く必要はありません。欠けたときは、知った日から2週間以内に選任します(電気工事業法19条)。
登録電気工事業者の登録は5年で、役員や主任の氏名などが変わったら変更の日から30日以内に届け出ます。建設業許可を受けている会社は、電気工事業を営む場合、登録電気工事業者とみなされ、開始や変更の届出は「遅滞なく」です(同法34条)。
選任の細かい要件は主任電気工事士がいない・退職したときに、みなし登録の届出はみなし登録電気工事業者とはにまとめています。
人と取引は、書類の突き合わせで実態が見える
4. 資格者は、免状の枚数より、年齢と常勤の実態を賃金台帳まで突き合わせる
| 見ること | 内容 |
|---|---|
| 何を見るか | 第一種・第二種電気工事士、施工管理技士、消防設備士などの氏名、年齢、入社年、役職。給与が払われ、社会保険に入っているか。消防設備士の講習の期限 |
| どの資料で | 労働者名簿(氏名、生年月日、履歴)、賃金台帳、免状の写し、工事経歴書の「配置技術者」欄、電気工事業法の帳簿(作業者の氏名) |
| 危険信号 | 免状はあるのに賃金台帳に名前がない。工事経歴書の配置技術者が、いつも同じ1〜2人。資格者の年齢が上に偏り、退職の時期が重なる |
| 確認できないとき | 売り手の社長の了承を得てから、資格者本人に残る意向を聞く。意向が分からないまま買う場合は、残らなかったときの影響を価格とクロージングの前提条件に入れる |
労働基準法は、各事業場に労働者名簿(氏名、生年月日、履歴など)と賃金台帳を備えることを使用者に求めています(107条・108条)。免状の数と、この2つの書類の名前を合わせれば、在籍の実態が見えます。
電気工事業法の施行規則は、電気工事ごとの帳簿に、主任電気工事士等と作業者の氏名、配線図、検査結果などを記載し、記載の日から5年間保存することを求めています(13条)。工事経歴書にも、各工事現場に置かれた技術者の氏名と、主任技術者か監理技術者かの別を書く欄があります。免状、賃金台帳、帳簿、工事経歴書の4つで名前が重なる人は、在籍の裏づけが取れた資格者です。重ならない人については、理由を聞きます。
年齢の比較には、国勢調査が使えます。職業「電気工事従事者」は全国505,940人で、平均年齢は47.7歳(全就業者は48.0歳)、65歳以上が約14.1%です(2020年。割合は総務省の表からの当社計算)。会社の資格者の年齢をこの数字に並べると、平均の高さより、辞める時期が何年かに集中していないかが見えてきます。
資格者は、採用で埋まりにくい席です。経済産業省が令和6年度に電気工事業者へ行ったアンケートで、人手が「大いに不足」「やや不足」は7割でした。6割超が採用活動をしていても、8割近くが目標に届いていません。
消防設備士がいる会社は、講習の期限も見ます。免状交付日以後の最初の4月1日から2年以内に最初の講習を受け、その後は講習日以後の最初の4月1日から5年以内ごとに受講します(消防法施行規則33条の17)。
5. 経審は、評点そのものより、いつの決算で誰が点を支えているかを見る
| 見ること | 内容 |
|---|---|
| 何を見るか | 経営事項審査を受けているか。審査基準日。総合評定値と各点(X1、X2、Y、Z、W)。技術職員数。過去の処分 |
| どの資料で | 経営事項審査の結果通知書。処分歴は国土交通省の「ネガティブ情報等検索サイト」(建設業者の検索) |
| 危険信号 | 点を支える技術職員が高齢で、退職が近い。結果通知書の審査基準日が古い。処分の記録がある |
| 確認できないとき | 公共工事を前提に買うなら、通知書が出るまで公共分を価格の根拠から外して考える。民間工事が中心で受審していない会社は、通知書がなくても危険信号ではない |
経営事項審査は、公共性のある施設や工作物の工事を発注者から直接請け負おうとする建設業者が受けなければなりません(建設業法27条の23)。公共工事を請けない会社に、受審の義務はありません。請負契約を結ぶ日の1年7か月前の日の直後の事業年度終了の日以降に受けた審査が要るので、決算期をまたぐ買収では、受け直しの時期を数えておきます(施行規則18条の2)。
総合評定値は、0.25X1(完成工事高)+0.15X2(自己資本額と利払前税引前償却前利益)+0.20Y(経営状況)+0.25Z(技術職員数と元請完成工事高)+0.15W(社会性等)で計算されます。技術職員数が減れば、Zの点は下がります。
経審は、令和8年7月1日以降の申請から、社会保険の加入の有無を点数にしない。
雇用保険・健康保険・厚生年金保険のそれぞれについて、未加入ならマイナス40点という減点項目が、削除されました。国土交通省は理由を、令和2年10月に社会保険の加入が許可の要件になり、令和7年10月以降に経審を受ける会社は要件を満たしているはずだからと説明しています。令和8年7月より前の申請の結果通知書には、この項目がまだ入っています。加入の確認は、許可の要件として、8項目目で別に行います。
承継の方法によって、経審の扱いも変わります。事業譲渡などで建設業者の地位を承継した人は、前の業者が受けた監督処分や経営事項審査の結果も引き継ぎます。株式譲渡は、許可を持つ法人が同じなので、結果も処分歴もそのまま会社に残ります。刑罰は承継されません。入札への影響は経審と入札の記事で扱います。
6. 元請・下請の構成は、様式第三号の3年分で見て、特定の元請への依存は工事経歴書で出す
| 見ること | 内容 |
|---|---|
| 何を見るか | 元請(公共・民間)と下請の金額と比率の3年の動き。上位の注文者1社の割合。許可業種ごとの内訳 |
| どの資料で | 様式第三号(直前3年の各事業年度における工事施工金額)、工事経歴書(様式第二号)、決算変更届の控え。行政庁の閲覧所でも見られる |
| 危険信号 | 元請の公共が急に減っている。下請の比率が上がっている。上位1社が大半を占め、その会社の発注方針が変わりつつある |
| 確認できないとき | 売り手の了承のもとで、注文者別の完成工事高の表を出してもらう。取引先への直接の確認は、売り手が開示してよいと決める時期まで待つ |
様式第三号は、許可を受けた業種ごと、事業年度ごとに、元請(公共・民間)と下請に分けて、完成した工事の請負代金を載せる書式です。「公共」の欄は、国、地方公共団体、法人税法別表第一の公共法人などが注文者である工事の合計です。
工事経歴書には、注文者、元請か下請かの別、工事名、工事現場、配置技術者、請負代金の額、工期が載ります。ただし、全工事の一覧ではありません。経営規模等評価の申請をする会社は、元請の完成工事を請負代金の大きい順に、合計のおおむね7割を超えるところまで書く決まりで、小さい工事は載らないことがあります。
これらの書類は、毎事業年度終了後4か月以内に許可行政庁へ出す決算変更届に入っています(建設業法11条2項)。工事経歴書と工事施工金額の書面は、行政庁が公衆の閲覧に供する書類にも含まれます(同法13条)。売り手に頼む前に、行政庁の閲覧所でも確かめられます。
金額はすべて、手順を示すための架空の例(モデルケース)。許可業種が複数あるときは、買う目的の業種だけで計算する。何%以上が危険かを定めた法令や国の基準はないため、買い手が先に自分の基準を決めておく。
上位1社の依存度は、その1社を失ったときに何割の仕事が消えるかです。その会社との契約書に支配権の変動で解除できる条項があるかは、12項目目で見ます。
数字と労務は、決算書の外にある
7. 未成工事支出金・工事損失引当金・完成工事未収入金は、国の定義に工事台帳を当てて確かめる
| 見ること | 内容 |
|---|---|
| 何を見るか | 未成工事支出金が、期末に完成していない工事の原価の合計と合うか。赤字の見込みの工事に工事損失引当金があるか。完成工事未収入金の相手先別・経過月数別の内訳。未成工事受入金と進捗の整合 |
| どの資料で | 決算書(建設業の様式に組み替えたもの)、工事台帳、請負契約書・注文書、請求書と入金記録、期末の工事別の進捗 |
| 危険信号 | 未成工事支出金が減らずに積み上がる。契約後に材料の価格が動いた工事があるのに、工事損失引当金が毎期ゼロ。長く回収されていない未収入金が流動資産に残っている。決算書が税務用のままで、工事別の原価が出せない |
| 確認できないとき | 修正後の純資産で価格を考え直す。個別の工事の損益見込みを最終契約の別紙にし、表明保証と補償の対象に入れる |
国土交通大臣が定める勘定科目の分類(告示)は、3つの科目をこう定義しています。
- 未成工事支出金:完成工事原価に計上していない工事費、並びに材料の購入及び外注のための前渡金及び手付金等
- 工事損失引当金:工事原価総額等が工事収益総額を上回る場合の超過額から、他の科目に計上された損益の額を控除した額に対する引当金
- 完成工事未収入金:完成工事高に計上した工事の請負代金の未収額。ただし、破産債権、再生債権、更生債権などで、決算期後1年以内に弁済を受けられないことが明らかなものは、投資その他の資産(破産更生債権等)に記載する
つまり、破産・再生・更生債権などで、決算期後1年以内に弁済を受けられないことが明らかな債権は、流動資産の完成工事未収入金に残さず、別の科目に移すのが定義です。流動資産のまま長く残っている金額があれば、相手先と経過月数を聞きます。
材料価格の動きも、この3科目の見方に関係します。国内銅建値(JX金属)の年度平均は、2019年度の681.6千円/トンから2025年度の1,695.4千円/トンへ約2.5倍になり、2026年10月13日付では2,440千円/トンです。請負金額を決めたあとで電線の原価が上がった工事は、原価が収益を上回る場合に当たりえます。どの工事がそうなのかは、銅建値の表では分からず、工事台帳の工事別の収支でしか見えません。
決算書が税務申告用のままの会社は、建設業の様式(貸借対照表は別記様式第十五号)に組み替えると、これらの科目が現れます。許可を持つ会社は、毎事業年度、この様式の財務諸表を許可行政庁に出しています(施行規則10条)。
8. 簿外債務・未払残業代・社会保険は、株式譲渡では会社に残るものとして確かめる
| 見ること | 内容 |
|---|---|
| 何を見るか | 時間外労働の実態と割増賃金の支払。36協定の有無。全営業所の社会保険の適用事業所の届出。工事未払金の内訳。会社が他社の債務を保証していないか |
| どの資料で | 賃金台帳、出退勤の記録(タイムカードや勤怠システム)、36協定の控え、健康保険・厚生年金・雇用保険の適用事業所の届出控え、工事未払金の明細 |
| 危険信号 | 賃金台帳の時間外手当が毎月ほぼ同額で、現場の稼働と合わない。36協定がない、または期限が切れている。届出が済んでいない営業所がある |
| 確認できないとき | 社会保険労務士や弁護士に人事労務の調査を頼む。最終契約に、労務に関する表明保証と補償を入れる。簿外債務を遮断したいときは、事業譲渡への切り替えを検討する |
株式を買うと、許可も続くが、未払残業代も続く。
中小M&Aガイドラインは、株式譲渡は譲り渡し側の法人格に変動がないため、未払残業代のような貸借対照表に数字が出ない簿外債務と、将来発生しうる偶発債務のリスクが比較的高くなりやすく、より詳細なデュー・ディリジェンスが行われる傾向にあると書いています。事業譲渡は承継する財産を選べるので、簿外債務や偶発債務のリスクを比較的遮断しやすい一方で、手続が増えます。建設業では、許可を引き継ぐために、あらかじめ許可行政庁の認可(建設業法17条の2)を受けます。
労働時間の上限は、建設業にも2024年4月から適用されています。原則は月45時間・年360時間で、特別条項を付けても年720時間、単月100時間未満、複数月平均80時間以内です。割増賃金は、時間外が月60時間を超えた部分で5割以上の率です(労働基準法36条・37条)。上限の適用前と同じ働き方が続いていないかを、賃金台帳の時間外手当の推移と、現場ごとの稼働で見比べます。
社会保険は、許可の要件として、健康保険・厚生年金保険・雇用保険の適用事業所にあたる全ての営業所について届出を済ませていることが求められます(施行規則7条2号)。労働者ごとの加入までは許可の要件にしていないので、個々の加入漏れは許可の審査では見えません。賃金台帳に載る人が、標準報酬の記録にもいるかを見ます。
9. 安全衛生と事故歴は、労働者死傷病報告の控えで確かめる
| 見ること | 内容 |
|---|---|
| 何を見るか | 過去数年の休業を伴う労働災害の有無と、その報告。感電、墜落などの事故。元請からの是正の指示。安全衛生の体制 |
| どの資料で | 労働者死傷病報告の控え(電子申請の完了記録)、事故報告書、元請の安全パトロールの指摘書、加入している保険の証券 |
| 危険信号 | 休業した人の話は出るのに、報告の控えがない。事故歴を聞いても「ゼロ」としか返らず、記録が出てこない |
| 確認できないとき | 偶発債務として、最終契約に災害・事故に関する表明保証と補償を入れる。売り手の了承を得て、社会保険労務士や弁護士に調査を頼む |
事業者は、労働者が労働災害などで死亡し、または休業したとき、遅滞なく所轄の労働基準監督署長に報告します。休業が4日に満たないときは、四半期ごとにまとめて報告します(労働安全衛生規則97条)。
この報告をしない、または虚偽の報告をすると、50万円以下の罰金の対象です(労働安全衛生法100条・120条5号)。厚生労働省は、労働災害の発生を隠すために故意に死傷病報告を出さない、または虚偽の内容で出すことを「労災かくし」と呼び、同じ条文に当たるとしています(2003年の発表)。同じ発表は、報告義務違反の全てが労災かくしにあたるわけではなく、隠す意図のない手続違反も多いと注記しています。控えがないことは、隠した証拠ではなく、確認のきっかけです。
事故歴は、決算書に出ない項目です。会社が報告していなければ、外からは見えません。
名義と契約は、株式を買っても自動では動かない
10. 車両・工具・倉庫は、名義が会社にあるかを一覧にして確かめる
| 見ること | 内容 |
|---|---|
| 何を見るか | 営業車・工事車両の登録名義。測定器(絶縁抵抗計、接地抵抗計、回路計など)の所有者と校正。倉庫・事務所の賃貸借の借主と貸主。預かりの資材と自社の在庫の区別 |
| どの資料で | 車検証、測定器の台帳、固定資産台帳、賃貸借契約書、リース契約書 |
| 危険信号 | 経営者個人の名義の車・倉庫・測定器がある。所有権留保が付いている。貸主が社長本人や親族で、賃料の取り決めが書面にない |
| 確認できないとき | 個人名義のものは、株式譲渡とは別の売買や賃貸借で引き継ぐ約束を、最終契約に付ける。引き継げないものは、買い手が調達する費用を価格に反映する |
測定器が社長個人の名義なら、株を買っても、営業所の器具の備付けは会社のものにならない。
電気工事業法は、電気工事業者に、営業所ごとに絶縁抵抗計その他の器具を備えることを求めています(24条)。経済産業省令では、一般用電気工事のみを行う営業所は、絶縁抵抗計、接地抵抗計、抵抗と交流電圧を測れる回路計。自家用電気工事を行う営業所は、これに低圧検電器、高圧検電器、継電器試験装置、絶縁耐力試験装置が加わります(施行規則11条)。建設業許可を受けてみなし登録になっている会社にも、この義務は適用されます(法34条は、第二章と登録の取消しに係る規定を除外するだけです)。
中小M&Aガイドラインは、中小M&Aでは会社の財産と経営者個人の財産が明確に分離されていないケースも多いと書き、事業用資産が第三者の名義である、担保が設定されているといった場合は、譲渡後の事業継続に支障が生じうると注意しています。
登録を受けた自動車の所有権の得喪は、登録を受けなければ第三者に対抗できません(道路運送車両法5条)。車検証には使用者の氏名または名称が載ります(同法58条2項)。所有者が別にいる、またはローン会社が所有者になっている車は、会社の財産として数えません。
11. 借入の保証とリースは、契約書の名義と残期間から、外す手順を逆算する
| 見ること | 内容 |
|---|---|
| 何を見るか | 借入の残高と、社長・家族の個人保証、担保の設定。リース契約の残期間と中途解約の条件。名義が社長個人のままの契約 |
| どの資料で | 借入明細、保証契約書、担保の登記事項証明書、リース契約書 |
| 危険信号 | 保証を外す合意がなく、新社長にも新たに保証を求められそう。リース会社との契約が社長個人名義。貸借対照表のリース債務が、契約書の残額と合わない |
| 確認できないとき | 保証の解除や移行の手順と期限を、最終契約に書く。金融機関やリース会社への相談を、クロージングの前から始める |
金融庁のまとめでは、2025年度に代表者が交代した案件で、旧経営者の保証を解除して新経営者とも結ばなかったのは16.7%、旧を解除して新と結んだのが40.6%、両方に保証が残ったのが3.0%でした。旧経営者の保証を解除しなかったのは、保証が残った3.0%に、新経営者とは結ばなかった39.7%を合わせて、4割を超えます(民間金融機関529機関。M&Aに限らない代表者交代全体の数字。合算は当社計算)。保証の扱いは、金融機関ごとに分かれます。
M&A支援機関協会の「特定事業者リスト」には、保証に関する登録事由があります。解除を最終契約までに合意したのに、実行日から60営業日を過ぎても解除されていないこと。実行日から10営業日以内に、買い手が金融機関へ解除に向けた具体的な申し入れをしないことです。買い手の動き方が、期限つきで見られる制度になっています。
中小M&Aガイドラインは、クロージング前後の作業として、リース契約・賃貸借契約・金銭消費貸借契約などの名義変更や経営者保証の解除、保証人の変更を挙げ、クロージング前にリース会社・賃貸人・金融機関との協議を始めることが多いと書いています。
貸借対照表の「リース債務」は、国の勘定科目の定義ではファイナンス・リース取引のものです。それ以外のリース契約は、決算書からは分からないので、契約書で数えます。保証の外し方と金融庁のネットワークは会社を売ったら社長の個人保証は外れるかに詳しく書いています。
12. 取引先との契約は、支配権の変動で解除できる条項があるかを、株式譲渡でも探す
| 見ること | 内容 |
|---|---|
| 何を見るか | 元請との基本契約、下請・外注との契約、賃貸借、メーカーの代理店・特約店契約、保守契約に、株主の異動や支配権の変動で相手方に解除権が生じる条項があるか。契約書そのものがあるか |
| どの資料で | 契約書一式、基本契約書の解除条項、注文書の約款 |
| 危険信号 | 売上上位の取引先との契約書がなく、口頭の取り決めだけ。条項があり、承諾が要るのに、売り手が取引先に話していない。契約の名義が社長個人 |
| 確認できないとき | 主要な取引先の承諾を、最終契約のクロージングの前提条件に入れる。誰が、いつ、どの順で取引先に伝えるかを、売り手と決める |
中小M&Aガイドラインは、チェンジ・オブ・コントロール条項を、賃貸借契約、取引基本契約、フランチャイズ契約などについて、株主の異動や支配権の変動で相手方に解除権が発生することなどを定める条項と説明しています。株式譲渡では契約の当事者の会社が変わらないので、契約はそのまま続くように見えますが、この条項があれば、相手方が解除できる状況が生まれます。
事業譲渡は逆です。契約上の地位を第三者に譲渡する合意をしても、契約の相手方が承諾して初めて地位が移ります(民法539条の2)。元請との契約は、承諾が得られなければ、新しく結び直す話になります。
電材卸や機器卸の代理店契約は、条項の扱いで価値が残るかどうかが決まります。機器卸・代理店契約の記事に詳しく書きました。
売り手に聞く順番は、公開情報から始めると断られにくい
ここまでの12項目を、買い手の側から一方的に聞くだけの表と読むと、売り手は身構えます。売り手の社長にも、聞かれる側の事情があります。
中小M&Aガイドラインは、中小企業は一見何の問題もなく経営されているようでも、何らかの課題やリスクを抱えていることは少なくなく、譲り渡し側の経営者はその潜在的なリスクを認識できていないケースもあると書いています。調査が十分でないと、最終契約で譲り渡し側が負う表明保証の範囲や補償額・補償期間などの負担が増えうるとも書いています。聞かれて困ることがあるのは、隠しているからとは限りません。調査に応じることが、売り手自身の負担を絞ることにもなります。
売り手が役員や従業員にまだ話していない場合もあります。同じガイドラインは、その場合は、その人たちに悟られずに調査を実施する工夫が必要だとし、売り手・買い手とも専門家の指示に従うよう求めています。
| 場面 | 避けたい聞き方 | 売り手に伝わる聞き方 |
|---|---|---|
| 許可・登録 | 許可通知書と届出書を全部出してください | 検索システムで業種と満了日は確認しました。通知書の原本で、条件の有無だけ見せてください |
| 資格者の在籍 | 資格者の給与を全員分見せてください | 買ったあと2週間の期限が動くので、資格者の方の在籍を、賃金台帳の形で確認させてください。ご本人への声かけは、社長のご判断を待ちます |
| 未成工事 | 赤字の工事はありますか | 期末の工事の一覧と、決算書の金額を並べて見たいです。見方の食い違いがあれば、一緒に直します |
| 労務 | 残業代の未払いはありませんか | 建設業は2024年4月から上限が適用されました。賃金台帳と36協定を拝見して、買い手側の社会保険労務士に見てもらってよいですか |
| 取引先 | 主要取引先に確認させてください | 取引先への話は、社長が話してよいと決めた時期に、順番もご相談して進めます |
聞き方の基本は、4つです。
- 公開されている情報(許可、処分歴、閲覧所の書類)は先に自分で確かめて、売り手に聞く量を減らす。
- 聞く理由を一緒に伝える。「買ったあとに何が動くか」を理由にすると、詮索ではなく準備として受け取られやすい。
- 資料の依頼は、優先順位を付けて数回に分ける。小規模企業は会計帳簿や規程類が整っていないことが多い、とガイドラインも書いている。
- 見つけた問題は、売り手にも返す。ガイドラインは、調査の結果を売り手にも開示して情報共有するよう、仲介者が買い手に働き掛けることが望ましいとしている。
確認できなかった項目は、買わない理由にせず、契約と価格に移す
12項目の全部が、確認できるとは限りません。書類が残っていない、売り手がまだ話せない、時間が足りない。確認できなかった項目は、見ないふりをするのでも、そこで買うのをやめるのでもなく、契約と価格のどこで受けるかを決めます。
| 手段 | 使いどころ | 注意点 |
|---|---|---|
| 表明保証と補償 | 労務、簿外債務、事故、資格者の在籍など、確認しきれない事実 | 期間と上限を決める。ガイドラインは、無期限・無制限の定型的な条項は慎重に検討すべきとしている |
| クロージングの前提条件 | 後任の経営業務の管理体制、主任電気工事士の選任、主要取引先の承諾、保証の解除 | 前提条件が満たされなかった場合の扱いも書いておく |
| 価格への反映 | 名義が会社にない資産の買い直し、引当金の不足、未払残業代の見込み | 問題の影響の大きさが譲渡対価に織り込まれているかを、双方で擦り合わせる |
| 事業譲渡への切り替え | 簿外債務を遮断したいとき | 許可の承継に認可が要り、一部の業種だけの承継はできない |
| 表明保証保険 | 補償の交渉が止まるとき | 引受審査にデュー・ディリジェンスの報告書が要るのが一般的 |
確認の費用をかけられない場合は、調べる範囲を絞ります。ガイドラインも、予算などの制約があっても、検討対象を絞るなどの工夫をして調査の内容を検討することが望ましいとしています。絞るなら、買う目的に直結する項目から選びます。有資格者の確保が目的なら、2、3、4です。工種や地域の拡大が目的なら、1、6、12です。
許可の日程は、承継の方法から逆算する
標準処理期間は補正の期間を含まない。知事許可の期間は各都道府県が定める。国土交通省は、承継の認可申請が見込まれる業者に、なるべく早く申し出て事前の打ち合わせをするよう、地方整備局を指導している。
事業譲渡などで認可を受ける場合は、実行の日から逆算します。認可の申請には、譲渡及び譲受けに関する契約書の写しを添えます(施行規則13条の2)。実行の日を認可のあとに置く契約にすることになります。株式譲渡は、認可の待ち時間がないかわりに、実行の日から期限が始まります。前社長が退く日、後任が就く日、主任を選ぶ日を、契約の前にカレンダーに置いておきます。
承継の認可を受けて地位を引き継いだ場合、承継した許可とすでに持っていた許可の有効期間は、承継の日の翌日から改めて数えます。更新の時期が変わるので、買ったあとの更新の月も控えておきます。
デューデリジェンスは買い手が専門家と行い、双方から報酬を受ける仲介者は自ら実施しない
中小M&Aガイドラインは、両当事者を依頼者とする仲介者は、デュー・ディリジェンスを自ら実施すべきでないとしています。デュー・ディリジェンスは、一方当事者の意向が反映されやすいからです。当社は売り手と買い手の双方から手数料を受け取る仲介の立場なので、この12項目を当社が代わりに調べるものとしては書いていません。買い手が自分で、または公認会計士、弁護士、社会保険労務士、行政書士といった専門家と使うためのチェック表です。
電気工事会社を買う理由が人の確保であるほど、2から4の確認は、価格の交渉より前に済ませておく意味があります。株式を買ったあとに動く期限には、買う前にしか備えられないからです。
買いたい会社の条件(許可の業種、資格者の人数、エリア)の登録は、次のページから進められます。
参照した一次資料
- e-Gov法令検索「建設業法」(第3条、第11条、第13条、第17条の2、第27条の23、第29条) (2026年10月14日に現行版を確認)
- e-Gov法令検索「建設業法施行規則」(第7条、第7条の2、第10条、第18条の2、別記様式第二号・第三号・第十五号) (2026年10月14日に現行版を確認)
- 国土交通省「建設業許可事務ガイドライン」(常勤性の確認、専任の意義) (2025年2月1日最終改正)
- 国土交通省「経営事項審査の主な改正事項(令和8年7月1日施行)」 (令和8年2月6日公布)
- 国土交通省告示「建設業法施行規則別記様式第15号及び第16号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類を定める件」(最終改正 令和4年4月11日 国土交通省告示第473号。全文は建設業情報管理センターが掲載) (令和4年4月11日最終改正)
- 国土交通省 近畿地方整備局「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」
- 国土交通省「ネガティブ情報等検索サイト」
- e-Gov法令検索「電気工事業の業務の適正化に関する法律」(第19条、第24条、第34条) (2026年10月14日に現行版を確認)
- e-Gov法令検索「電気工事業の業務の適正化に関する法律施行規則」(第11条、第13条) (2026年10月14日に現行版を確認)
- e-Gov法令検索「労働基準法」(第36条、第37条、第107条、第108条) (2026年10月14日に現行版を確認)
- e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」(第97条) (2026年10月14日に現行版を確認)
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」(第100条、第120条) (2026年10月14日に現行版を確認)
- 厚生労働省「最近における『労災かくし』事案の送検状況」 (2003年11月20日(定義の確認のみに使用))
- 厚生労働省「建設業等の時間外労働の上限規制」
- e-Gov法令検索「民法」(第539条の2) (2026年10月14日に現行版を確認)
- e-Gov法令検索「道路運送車両法」(第5条、第58条) (2026年10月14日に現行版を確認)
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」 (2024年8月改訂(2025年1月1日適用))
- e-Gov法令検索「消防法施行規則」(第33条の17)
- 総務省「令和2年国勢調査 抽出詳細集計」第9-1表(電気工事従事者) (2020年10月)
- 経済産業省 電気保安制度ワーキンググループ(第16回)資料1-2(電気工事業者へのアンケート) (令和6年度調査(2026年2月公表))
- 日本電線工業会「国内銅建値(月平均)推移表」(出所:JX金属) (2019年度〜2026年10月)
- 金融庁「『経営者保証に関するガイドライン』等の活用実績(2025年度)」 (2025年度(2026年6月26日公表))
- M&A支援機関協会「特定事業者リスト」
よくあるご質問
電気工事会社を買うとき、いちばん先に確認することは何ですか。
株式譲渡なら、建設業許可の承継手続きは要りませんか。
デューデリジェンスは、何を専門家に頼めばよいですか。
売り手が資料を出し渋るときは、どう考えればよいですか。
未成工事支出金は、何を見ればよいのですか。
知りたかったことは分かりましたか
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)