会社を売ったら社長の個人保証は外れるか|経営者保証の解除と2026年開設の国の相談窓口
記事中のモデルケースは、理解を助けるための架空の例です。 当社の成約実績ではありません。
株式譲渡で会社を売っても、金融機関からの借入は会社に残り、社長個人の保証は自動では外れません。外れるのは、保証を受けている金融機関が解除に応じたときだけです。国の「中小M&Aガイドライン」(第3版)は、保証の解除を買い手の義務として最終契約に書き、クロージング(代金と株式を引き換える実行日)の条件にすることを検討すべきだとしています。
たとえば、売却の最終契約書の案が届いた夜に、社長が引き出しから信用金庫の保証書の控えを探しているとします。株式譲渡契約書の案には、売買代金も、表明保証も、社長が会社に残る期間も書いてある。ところが、自分の保証がどうなるかを書いた条文が、どこにも見当たらない。国の指針は、保証の扱いを、M&Aの成立後に大きなトラブルへ発展しうる論点として挙げています。
保証を外す相手は、買い手でも仲介者でもありません。お金を貸している金融機関です。
株式を売っても、保証契約の当事者は変わらない
保証は、社長個人と金融機関のあいだの契約です。民法は、保証人は主たる債務者(借りている会社)が履行しないときにその責任を負うと定め(446条1項)、書面で結ばなければ効力を生じないとしています(同条2項)。株式譲渡で替わるのは会社の持ち主だけで、借りている会社も、保証している社長も、貸している金融機関も、契約の当事者のまま残ります。手元の保証書に、株主が替われば保証が消えるという定めがあるかどうかは、控えを読めば分かります。
事業譲渡でも、自動では外れません。借入を買い手に移すなら、債務を引き受ける契約(免責的債務引受)になり、民法上は、金融機関が引受人と契約するか、承諾をする形になります(472条2項・3項)。借入を移さずに売った会社へ残すなら、借入も保証もそのままです。
| 売り方 | 借入の行き先 | 社長の保証 | 話をつける相手 |
|---|---|---|---|
| 株式譲渡 | 会社に残る | 契約はそのまま残る。外すには解除か、買い手側への移行 | 保証を受けている金融機関 |
| 事業譲渡(借入を買い手に移す) | 買い手が引き受ける | 引き受けの契約・承諾の段階で、金融機関との話が必要 | 金融機関(債権者として契約に関わる) |
| 事業譲渡(借入は会社に残す) | 売った会社に残る | 借入が残るあいだは続く | 返済を終えるまで、会社と金融機関 |
借入のある会社に値段がつくかどうかは別の問題で、入門ガイドの借入5,000万円の会社は、売れますで扱っています。保証は、値段が決まったあとも残る契約です。
代表者が交代した先で、旧経営者の保証が残った例は4割を超える
新しい融資の側では、保証に頼らない流れが進んでいます。金融庁の集計では、民間金融機関の新規融資のうち、無保証融資や代替的な手法を使った融資など「経営者保証に依存しない融資」の割合は、2025年度に55.7%でした(2024年度は52.9%)。
ところが、代表者が替わった先の既存の保証は、同じようには動いていません。金融庁は、民間金融機関529機関に、旧経営者が保証を出していた先で代表者交代を把握したときの対応を集計させています。2025年度(2025年4月〜2026年3月)の4区分を、旧経営者の保証が解除されたかどうかで当社が合算し直しました。
金融庁「『経営者保証に関するガイドライン』等の活用実績(2025年度)」の4区分(合計40,170件)を、当社が解除の有無で合算。割合は件数から再計算した。M&Aに限らない、代表者交代全体の集計。
この表は、親族への承継も社内昇格も含む代表者交代の全体です。M&Aだけを取り出した数字は、この資料にありません。「M&Aで売った社長の4割超に保証が残る」とは読めません。読めるのは、代表者が替わっても旧経営者の保証が残る例が、全体で相当数ある、というところまでです。2024年度の同じ項目を当社で合算すると42.2%で、1年のあいだにほとんど動いていません。
表の注は、この件数を、金融機関が代表者の交代を把握したときにとった対応としています。その後に解除された例が入っているかどうかは、表から分かりません。
「解除された」は、「誰の保証もなくなった」と同じ意味ではありません。
解除された23,014件のうち、新しい経営者が保証を結んだのは16,304件で、約7割(70.8%、当社計算)にあたります。保証が消えたとは限らず、後任の保証に置き換わった例が約7割を占めます。国のM&Aガイドラインは、「解除」と並べて「譲り受け側への移行」を書いています。売る側にとっては、自分が外れれば結果は同じです。ただし移行の場合は、移った先の買い手の信用力が審査されます。
外す根拠は、法律ではなく、金融機関と中小企業団体がつくったガイドラインにある
解除を求めるときの拠り所になる文書は、四つあります。
| 文書 | 決まった時期 | 保証について書いてあること |
|---|---|---|
| 経営者保証に関するガイドライン | 2013年12月策定、2014年2月1日適用 | 保証を求めない可能性を検討する条件。既存の保証の見直し |
| 事業承継時の特則 | 2019年12月策定、2020年4月1日適用 | 前経営者と後継者の二重の保証は原則求めない。前経営者は第三者に当たりうる |
| 中小M&Aガイドライン(第3版) | 2024年8月30日改訂 | 最終契約での保証の扱い。金融機関への事前相談 |
| 金融機関向けの監督指針(改正) | 2026年2月20日公表、4月1日施行 | M&A時の事前相談と、最終契約に向けた調整・支援の態勢を、監督上の着眼点に |
一番上のガイドラインには、法的拘束力がありません。文書自身が、中小企業団体と金融機関団体の関係者が専門家と協議してつくったもので、法的拘束力はないが、借り手、保証人、金融機関が自発的に尊重し遵守することが期待される、と書いています。守るかどうかを金融機関が最後に決める以上、「ガイドラインにこう書いてある」は、交渉の根拠にはなっても、命令にはなりません。
特則が決めた中身は、三つです。事業承継では、前経営者と後継者の双方から二重に保証を求めないことを原則とすること。後継者に、前経営者の保証を当然に引き継がせないこと。前経営者は、実質的な経営権・支配権を持っているといった特別の事情がない限り、第三者に当たる可能性があるので、保証の解除に向けて見直すこと。
二重徴求の定義には、見落とされやすい限定があります。特則の注は、代表者交代前の既存の借入は前経営者の保証のまま、交代後の新規の借入は後継者だけに保証を求める場合を、二重徴求に当たらないとしています。新社長が新しい借入で保証を求められることと、前社長の古い保証が残ることは、別の話です。
売ったあとも社長が代表や株主として残ると、解除の判断が変わりうる
前経営者の保証を求め続けるかどうかを、金融機関は何を見て判断するのか。特則とM&Aガイドラインが挙げる材料は、前経営者の株式保有の状況(議決権の過半数を持つか)、代表権の有無、実質的な経営権・支配権の有無、既存債権の保全の状況、法人の資産と収益力による返済能力です。取締役などの役員でもなく、議決権の過半数も持たない前経営者に、やむを得ず保証の継続を求める場合には、より慎重な検討が求められるとも書いています。
売却のあとも、社長が引継ぎのために代表のまま残る、取締役に残る、株の一部を持ち続ける、という形はありえます。そのとき上の材料のどれかに触れるかどうかは、文書を読むだけでは決まりません。引継ぎ期間を何か月にするか、どの肩書きで残るかは、保証を外す時期と同時に決める項目です。金融機関がどう見るかは、事前に聞くしかありません。
建設業許可を持つ電気工事会社には、もう一つ事情があります。経営業務の管理責任者の要件を満たす人が社長一人の会社で、社長が退任して基準を欠けば、2週間以内の届出が要り、満たせないままなら許可は取り消されます。後任の体制が整うまで社長が役員に残る設計をとる場合があり、その形は、上の材料にある役員・代表権の項目に触れます。許可の面からは社長に残ってほしく、保証の面からは早く外れてほしい、という二つの要請を、同じ時間軸に並べて考えることになります。許可側の要件は経営業務の管理責任者に書いています。
金融機関が保証を外すか考えるときに見る条件は5つある
経営者保証に関するガイドラインは、保証を求めない可能性を検討する条件として、次の5つを挙げています。これらが将来にわたって満たされると見込まれるとき、金融機関は、経営状況、資金の使い道、回収の見込みを総合して、保証を求めない可能性を検討します。5つそろえば自動的に外れる、という書き方ではありません。
| ガイドラインの条件 | 手元で確かめる場所 |
|---|---|
| 法人と経営者の資産・経理が明確に分かれている | 会社の経費に社長個人の支出が混ざっていないか。会社名義の資産を社長が私的に使っていないか |
| 法人と経営者のあいだの資金のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えない | 決算書の貸借対照表にある役員貸付金・役員借入金・仮払金。役員報酬、賞与、配当の水準 |
| 法人のみの資産・収益力で返済できると判断できる | 社長の保証や個人資産を除いて、会社の決算書だけで、年間の返済額をまかなえているか |
| 法人から適時適切に財務情報が提供されている | 決算書を含む申告書一式、試算表、資金繰り表を、金融機関の求めに応じて出せているか |
| 経営者等から十分な物的担保の提供がある | 不動産などの担保がすでに付いているか。保全が足りている借入はどれか |
後継者の側については、特則が別の扱いを書いています。要件の多くを満たしていなくても、保証を求めると事業承継が頓挫しうることを考えて、求めない対応ができないかを真摯かつ柔軟に検討するよう、金融機関に求めています。国のM&Aガイドラインも、買い手の信用力を踏まえて、保証を解除するか買い手側へ移す前提でM&Aを進める場合を想定しています。売り手の会社が5つの条件で弱い部分を抱えていても、この道は残されています。
この5条件は、売ると決める前から使えます。ガイドラインは、借り手が既存の保証の解除を申し入れる場面も想定しています(6項)。国のM&Aガイドラインも、解除が売却の主な動機なら、売る前に自分で解除に取り組む選択肢を挙げ、中小企業活性化協議会への相談も有用だとしています。売らずに外れるなら、それも同じ重さの選択肢です。
最終契約には、保証の解除を買い手の義務、クロージング条件、不履行時の措置として書く
国の指針は、最終契約で取り決める主要な内容の一つに、経営者保証の扱いを挙げています。買い手による解除または引継ぎの義務と、それがなされず、保証に基づく請求が来たときの契約解除や補償です。第3版が改訂された理由にも、保証を買い手に移す想定だったのに移さない買い手の存在が指摘されたことが入っています。
| 契約に書くこと | 国のM&Aガイドラインが挙げる内容 |
|---|---|
| 買い手の義務 | 保証の解除または移行を、買い手の義務として位置づける |
| クロージング条件 | (a)最終契約後・クロージング前に、買い手が金融機関から、解除または移行ができるかの組織的な意向表明を取る。(b)進められるなら、必要書類を金融機関に出し、代表者の変更登記の書類も作っておく |
| 外れなかったとき | 契約解除条項、補償条項など |
| 確実に外す手段 | クロージング時に、買い手の資力で借入を返済し、買い手が別途借り換える |
| 実行日の手順 | 万全を期すなら、実行日に代表者の変更登記と、保証の解除・移行の手続を同時に行う(必要なら金融機関の同席で) |
(a)の意向表明を契約の前に取る理由は、手順にあります。正式な解除や移行は、クロージングを経て、登記簿上で代表者が変わった後にしかできません。秘密を守るために、金融機関への相談がクロージングの後になる案件もあります。その場合は、実行のあとに金融機関が審査することになり、買い手の信用力が著しく低ければ円滑に進まない、とガイドラインは書いています。買い手に解除や移行をする意思が薄ければ、金融機関への相談そのものが滞るおそれもあります。
事前相談にも、費用がかかります。金融機関に相談した時点で、M&Aを検討していることが成立前に伝わります。相談しても、保証の扱いが確定するとは限りません。国の指針は、こうした点を了解したうえで、相談先と秘密保持契約を結んでから相談することが望ましいとしています。もう一つ、仲介契約や買い手との契約にある秘密保持条項から、金融機関、弁護士、事業承継・引継ぎ支援センターなどの相談先を除いておく必要があります。買い手は、売り手からこの相談の申し出があれば拒むべきではない、とも書かれています。
契約に入れる期限には、国の指針に数字がありません。M&A支援機関協会が基準に使っているのは、実行日から60営業日です。期限を考えるときの目安の一つにはなりますが、金融機関の審査がその日数で終わることを保証する数字ではありません。
契約で合意しておくと、業界団体の基準にも乗る
M&A支援機関協会は、2024年10月1日から「特定事業者リスト」を運用しています。不適切な譲り受け側(買い手)の情報を関係者間で共有する制度です。保証に関する登録事由は三つあります。
- 譲り渡し側の関係者の保証債務や、抵当権などの担保の解除が最終契約までに合意された(努力義務としての合意も含む)のに、M&Aの実行日から60営業日を過ぎても解除されていない。
- 解除の合意があったのに、実行日から10営業日を過ぎても、買い手が金融機関へ解除に向けた具体的な申し入れをしない(挨拶や日程調整は、ここに含まれません)。
- 金融機関が解除できないと判断したか、解除に条件を付けた場合に、そこから20営業日以内に、買い手が借換や一括弁済などで自ら解除しない。
営業日は、土日祝日と12月31日〜1月3日を除いた日です。
登録されると、社名、法人番号、代表者名、役員名、登録日、登録事由などが、最低でも10年間掲載されます。リストの利用者は、2026年10月8日時点で136社です。
これは、買い手の名前が関係者に共有される仕組みです。売り手の保証が外れる仕組みではなく、売り手に補償を出す仕組みとも書かれていません。協会の会員や利用者でない業者が関わる案件で、この基準がどう働くかは、公開されている資料から分かりません。一つ言えるのは、最初の事由が「最終契約までに合意された」ことを条件にしている点です。合意がなければ、リストの対象にもなりません。努力義務の形でも合意に数えられるので、口頭の約束で済ませず契約に書いておく理由の一つになります。
2026年に、国は相談窓口と金融機関への監督を動かした
金融庁の「経営者保証情報ネットワーク」が5月1日に開設された
金融庁は2026年5月1日に、「M&A・事業承継時における経営者保証情報ネットワーク」を開設しました。経営者や後継者が、所定の相談シートをメールで提出すると、関係省庁を経由して、保証契約を結んでいる金融機関や信用保証協会に、M&A・事業承継の状況が共有されます。相談できるのは、M&Aを検討中・実施中の経営者と後継者に加えて、実施後に保証が残っている旧経営者です。金融機関にすでに相談したかどうかは問われません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 使える人 | M&Aを検討中・実施中の経営者と後継者。実施後に保証が残っている旧経営者と、保証を負っている後継者。金融機関への相談の有無は問われない |
| 起きること | 相談シートをメールで出すと、関係省庁を経由して、保証契約を結んでいる金融機関と信用保証協会に状況が共有される |
| 金融庁が挙げる相談例 | 「解除できない旨だけ伝えられ、理由の説明がない」「実施後も旧経営者に保証が残り、金融機関が対応してくれない」 |
| しないこと | 個別案件のあっせん・仲介・調停。保証の解除などの個別対応の確約 |
| 条件と注意 | 共有までに時間がかかることがある。必要な関係者の承諾が要り、守秘義務の期間内かどうかなどで、承諾が必要な相手が変わる |
M&Aの前の段階で使うときは、最後の行に気をつけてください。買い手との契約に秘密保持条項があれば、買い手の承諾が要る場面が考えられます。M&Aに限らない経営者保証の相談先としては、同じページが「経営者保証ホットライン」を案内しています。
金融機関は4月から、事前相談の推奨と最終契約への調整が監督上の着眼点になった
金融庁は2026年2月20日に監督指針を改正し、4月1日に施行しました。2024年の改正で、M&A・事業承継のときに経営者保証を見直す枠組みはできていました。今回の改正は、金融機関が、M&Aの成立前に経営者保証の取扱いを相談するよう顧客に勧め、相談があれば丁寧に対応する態勢を持つことを、監督上の着眼点にしました。前経営者の保証の解除や後継者への移行がされる場合は、最終契約でクロージング条件を明確に設けることや、解除・移行がされなかった場合の条項を置くことに向けた調整・支援の態勢も、見る点に加わっています。
あわせて、2023年3月以前に結んだ個別の保証契約についても、保証が必要な理由と、解除の可能性が高まる条件を説明し、記録することが、着眼点として明確になりました。金融機関が態勢を整えているかを金融庁が見る項目であって、個別の保証の解除を命じる規定ではありません。
信用保証協会の保証が付いた借入では、保証料の上乗せで保証を外す選択が示されている
2022年12月の「経営者保証改革プログラム」は、信用保証付きの融資について、ガイドラインの要件をすべて満たしていなくても、保証料の上乗せ負担によって経営者保証を外す選択ができる信用保証制度をつくるとしました。例として挙げた要件は、法人から代表者への貸付等がないこと、決算書類等を金融機関に定期的に提出していること、などです。上乗せの幅は、事業者の経営状態に応じて変わるとされています。現在の取扱い条件と上乗せ幅は、信用保証協会か取引金融機関で確かめてください。
事業承継の場面には、2020年4月に始まった「事業承継特別保証制度」もあります。経営者保証が付いた借入を借り換えて無保証にするしくみで、特則の注が説明しています。中小企業庁のページは、2023年4月以降、保証料率の軽減が、中小企業活性化協議会や事業承継・引継ぎ支援センターの確認を受けた場合に変わった、としています。いまの取扱いは、信用保証協会に確認が要ります。
社員が継ぐときも、同じ指針が使える
社員が会社を継ぐときは、買う側が個人になります。特則は、後継者に保証を当然に引き継がせず、保証の必要性を改めて検討するよう、金融機関に求めています。保証を求めることが「やむを得ない」と判断された場合でも、特則は、検討すべき対応を挙げています。資金の使い道に応じて保証の必要性や金額を絞ること。条件を満たすと保証が効力を失う契約にすること。一定の要件を満たす中小企業が、経営者を含めて保証人を求めない信用保証制度を使うこと。日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」のような政府系の融資制度を、後継者が希望するなら尊重すること。
社員が継ぐ場合の株の買い方や価格は、従業員承継(社員に会社を譲る)に書いています。
家族が保証人になっているなら、保証書の名前から確かめる
保証人の欄に、社長以外の名前が入っている会社があります。経営者保証に関するガイドラインは、経営者と一緒に事業に従事する配偶者が保証人になっている場合や、経営者の健康上の理由で事業承継予定者が保証人になっている場合を、適用の対象に含めています。奥さまや後継候補の名前が保証書にあるなら、解除を話し合うテーブルにも、その人が入ります。
社長が亡くなった場合に保証がどうなるかは、売却とは別の手順と期限で動きます。社長が亡くなったとき、家族が最初にすることにまとめています。
保証が外れる保証はなく、金融機関ごとに運用の差が残る
国のM&Aガイドラインは、解除や移行の実施は最終的には金融機関の判断によるものだと、はっきり書いています。特則は、金融機関に、社内規程やマニュアルを整えて職員に周知するよう求めています。判断の物差しを各金融機関が自分でつくる以上、同じ会社でも、取引先の金融機関が違えば、返ってくる答えが違うことは、仕組みの上で起こりえます。
条文が整い、窓口が開き、監督が強まっても、解除を約束した文書はない。
だからこそ、外れなかった場合の道を、先に決めておきます。
- 買い手の資力で、いったん返済する。 クロージング時に、買い手が借入を返済し、別に借り換える方法を、国の指針は確実に外す手段として挙げています。
- 契約を解除できるようにする。 外れなかったときの契約解除条項と、保証に基づく請求が来たときの補償条項は、最終契約に入れておく必要があります。
- 保証債務の整理を使う。 返済が難しくなった局面では、ガイドラインに基づいて保証債務を整理すると、一定期間の生計費に相当する額や、華美でない自宅などを手元に残せる場合があると、特則も国のM&Aガイドラインも説明しています。個別の可否は、弁護士の領域です。
- 売らずに続ける。 保証の見直しは、売却と関係なく申し入れられます。続けるあいだに5つの条件を整えておくことは、後で売るときにも、売らずに引退するときにも役に立ちます。
契約書の案に保証の条文がないとき、翌朝にすることは4つある
冒頭の夜に戻ります。契約書の案に、保証の条文がなかったとします。翌朝、社長が手を動かすのは、次の4つです。
- 保証の一覧をつくる。金融機関ごとに、借入の種類と残高、保証人の名前(社長以外にいないか)、信用保証協会付きかどうか、特定の借入だけの保証か将来の借入まで含む根保証か、を並べます。個人の根保証は、極度額を定めなければ効力を生じないと民法が定めている(465条の2)ので、保証書に極度額が書かれています。
- 取引金融機関に、説明を求める。保証が必要とされるのは、どの点が足りないからか。何を改善すれば、変更や解除の可能性が高まるか。金融庁のアンケートでは、個人保証を出している企業が全体の49.5%で、そのうち27.2%が、保証締結時の説明について「申し出がなかったため、説明を受けていない」と答えています(2026年1月調査)。聞かなければ説明を受けないまま、という回答が、4分の1を超えています。
- 秘密保持条項を確かめる。仲介契約や買い手との契約が、金融機関と弁護士への相談を禁じていないか。禁じていれば、相談先を除く手続きを、仲介者と買い手に頼みます。
- 契約書の案に、保証の扱いを書き込めるか尋ねる。買い手の義務、クロージング条件、外れなかったときの措置の3点が入るかどうかを、仲介者に聞きます。仲介者の支援は基本的に実行の時点で終わり、実行後の紛争には弁護士に支援を求めることを検討するよう、国の指針も書いています。条文の書き方は、署名の前に、契約書の案を第二の目で見てもらうのが安全です。
どの順番で、どこまで進めるかは、会社ごとに違います。保証の個別の扱いは取引金融機関に、契約の文言は弁護士に、税は税理士に確かめてください。会社を売るのが、唯一の道でもありません。親族や社員に継ぐ、自分で続ける、静かにたたむ、のどれを選んでも、保証がどう扱われるかは、最初に確かめる項目です。
参照した一次資料
- 金融庁「『経営者保証に関するガイドライン』等の活用実績(2025年度)」(民間金融機関529機関の集計) (2026年6月26日公表)
- 経営者保証に関するガイドライン研究会「経営者保証に関するガイドライン」(全国銀行協会掲載) (2013年12月策定・2014年2月1日適用)
- 経営者保証に関するガイドライン研究会「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」(全国銀行協会掲載) (2019年12月策定・2020年4月1日適用)
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」本文(最終契約における経営者保証の扱い、金融機関・弁護士の役割) (2024年8月30日改訂)
- 金融庁「M&A・事業承継時における経営者保証情報ネットワーク」の開設について (2026年5月1日)
- 金融庁「『地域金融力強化プラン』を踏まえた監督指針の一部改正」(概要と新旧対照表) (2026年2月20日公表・4月1日施行)
- 経済産業省・金融庁・財務省「経営者保証改革プログラム」 (2022年12月23日)
- M&A支援機関協会「特定事業者リスト」 (2026年10月8日時点の利用者数を確認)
- 金融庁「企業アンケート調査の結果」(経営者保証に関する質問) (2026年1月調査・6月30日公表)
- e-Gov法令検索「民法」(第446条・第465条の2・第472条) (2026年10月14日に現行版を確認)
- e-Gov法令検索「建設業法」(第11条第4項・第5項、第29条第1項第1号。経営業務の管理体制の基準を欠いたときの届出と許可の取消し) (2025年12月12日施行版)
- 中小企業庁「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策」(事業承継特別保証制度) (2023年4月更新の掲載内容を確認)
よくあるご質問
会社を売ったら、社長の個人保証は自動で外れますか。
M&Aで個人保証を外すには、何から始めればよいですか。
株式譲渡のあとに保証が残っていたら、どこに相談できますか。
保証が外れなかったら、売却をやめられますか。
社員に会社を譲る場合、社員も個人保証を背負いますか。
知りたかったことは分かりましたか
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)