承継後、最初の給与はいつ誰が払う?電気工事会社の締め日をまたぐ引継ぎ
記事中のモデルケースは、理解を助けるための架空の例です。 当社の成約実績ではありません。
承継日を11月1日に決めた。従業員への説明も進んだ。では、その4日後の給与は、誰が計算し、誰が支払いを確認するのでしょうか。
工事の引継ぎ日と、給与の締め日・支給日は、同じとは限りません。承継後に来る支給日でも、計算対象は承継前の勤務ということがあります。逆に、一つの給与計算期間が承継日をまたぐこともあります。
ここでは、経理業務全体の引継ぎではなく、最初の給与を正しい対象期間・条件・支給日で支払うための準備に絞ります。会社間のお金の精算と、従業員への給与支払いを混ぜないことが出発点です。
カレンダーには、承継日より先に支給日を書く
次は仕組みを説明するための仮例です。実在する会社の事例ではありません。
給与が「毎月20日締め、翌月5日払い」、承継の実行日が「11月1日」の会社を考えます。支給条件がそのままなら、確認対象は次のように並びます。
| 支給日 | 計算対象の勤務期間 | 承継準備で確認する点 |
|---|---|---|
| 11月5日 | 9月21日〜10月20日 | 承継前の勤務分を、承継後の支給日にどう支払うか |
| 12月5日 | 10月21日〜11月20日 | 一つの計算期間が11月1日をまたぐ |
| 後日の精算が必要な項目 | 項目ごとに確認 | 手当の確定漏れや訂正を誰が処理するか |
この表は支払義務者を決めるものではありません。株式の持ち主が変わる場合と、事業譲渡で雇用主が変わる場合では、確認すべき契約関係が違います。まず、従業員に対する支払義務と、当事会社間の費用負担を、契約・労働条件に沿って専門家と確認します。
「支給日が承継後だから、すべて新会社払い」「承継日で月給を単純に日割り」と先に決めないでください。会社同士で費用をどう負担するかを決めても、それだけで従業員への支払いの扱いが確定するわけではありません。
事業譲渡で労働契約を承継する場合は、個々の従業員の承諾や、労働条件についての説明・協議が必要です。従前の労働条件を変更して承継させる場合には、その変更についても本人の同意が必要です。給与の締め日・支給日などを変更するなら、その内容と移行期の扱いも明確にして説明します。厚生労働省「事業譲渡等指針」
「払う人」を一人決めるだけでは、振込まで届かない
給与の切替えでは、少なくとも次の役割を分けて確認します。
- 従業員に対して賃金の支払義務を負う会社
- 勤怠・手当の情報を集め、給与を計算する担当者
- 計算結果を確認し、確定する担当者
- 振込手続を行い、その結果を確認する担当者
- 従業員からの問い合わせや訂正に対応する担当者
同じ人が複数を兼ねても構いません。大切なのは、どの役割を引き受けるのかが双方で一致していることです。「給与は今の担当者が見る」とだけ決めると、計算は済んだものの、振込の承認者が不在という穴が残ります。
外部の給与計算サービスを使っている場合も、承継後に同じ契約・連絡窓口で作業を頼めるか、初回の資料提出期限はいつかを確かめます。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの人事リスクに関するレポートでも、M&A後の初回給与に向けた準備や、既存サービスを暫定的に継続する対応が取り上げられています。同社レポート「人事領域のリスク対応」4頁
ただし、計算業務を旧担当者に頼むことと、誰が法的な支払義務を負うかは別の確認です。依頼範囲や個人情報の取扱いを曖昧にしたまま、以前の担当者の善意に任せる形は避けましょう。
月給、残業代、現場手当を同じ期間だと思い込まない
給与明細の項目には、会社によって異なる締め方・確定時期があります。基本給は当月分、時間外手当は前月の実績分、といった運用なら、明細の合計額だけを承継日で分けると誤りが生じます。
そこで初回給与については、項目ごとに次の四点を並べます。
- どの期間・勤務・支給条件に対応するか
- 根拠になる記録は何か
- 誰が、いつまでに金額を確定するか
- どの支給に反映し、未確定分をどう確認するか
締め日を変更する場合は、勤務日から支給先をたどる確認も役立ちます。仮例として、同じ支給項目について、旧制度の最終対象日が10月25日、新制度の最初の対象日が11月1日なら、10月26日〜31日の勤務をどの給与に含めるか確かめます。逆に、両方の計算に同じ期間が含まれていれば、意図しない二重算入になっていないかを照合します。これは項目別の計算範囲を確認する方法であり、支払義務者や金額を決めるルールではありません。
電気工事会社なら、現場ごとの手当、夜間工事に関する支給、立替精算などが確認候補です。名称だけで賃金か経費精算かを決めず、実際の支給条件を確かめます。また、この作業を機に既存の手当を一方的に整理するのではなく、まず現在のルールで計算を再現できる状態を作ります。
勤怠については、確定した記録を給与担当へ渡す流れと、差異が出たときの確認先を決めます。厚生労働省のガイドラインでは、始業・終業時刻を確認・記録し、原則として客観的な記録などを基礎に把握することが示されています。現場責任者の承認が遅れたことを、そのまま勤務がなかった扱いにしないよう注意が必要です。大阪労働局「労働時間の適正な把握のためのガイドライン」
本番前には、振り込まずに一度計算してみる
引継ぎの確認は、担当者が説明を聞いただけでは終わりません。可能であれば、過去の確定済みの一回分を使い、新担当者が同じ条件で計算してみます。これは照合のための作業であり、再度振り込むための作業ではありません。
確認するのは、総支給額の合計だけでは不十分です。対象者の漏れ、項目別の金額、控除、差引支給額、支給日を見比べ、差が出た理由を一つずつ残します。税・社会保険の切替えや退職・入社の扱いが関係する場合は、自己判断で調整せず、給与計算の専門家と確認してください。
給与ソフトを替えなくても、計算担当者や承認者だけが変わることはあります。新担当者が必要なデータを受け取れるか、給与明細を出せるか、支給前に誰が最終確認するかまで試すと、引継ぎの抜けが具体的になります。口座情報などを含む実データは、担当者と用途を限定して扱います。
そのうえで、本番の資料回収日、計算確定日、振込手続の期限を、支給日から逆算します。銀行やサービスの締切は個別に確認し、「支給日に操作すれば間に合う」とは考えないようにしましょう。
従業員に伝えるのは、次の給与が見通せる情報
賃金には、全額払い、毎月1回以上、一定期日払いなどの原則があります。承継作業が間に合わないから支給を次月へ回す、という前提で予定を組まないことが重要です。厚生労働省「賃金支払いの5原則」
従業員には、次回の支給日と対象期間、明細の受取方法、問い合わせ先を明確にします。雇用主や支給条件が変わる場合は、必要な説明・手続を済ませたうえで、移行期間に空白や重複がないか確認します。承諾の取り方そのものは、事業譲渡と従業員の同意の記事も参照してください。
初回支給後は、振込結果と計算確定分の照合、従業員からの照会、残った訂正事項まで確認して一区切りです。「計算ファイルを渡した」だけでは、給与の引継ぎが終わったとはいえません。
経理全体の担当交代も同時に進めるなら、家族が担う経理の引継ぎについての記事で範囲を広げて整理できます。承継日と支給日の関係から準備を考えたい場合は、現在の締め日・支給日と未確定の点を相談フォームへお寄せください。
※制度・資料の確認日:2026年10月22日。支払義務者、労働条件変更、税・社会保険の取扱いは、個別の契約と事実に基づき専門家へ確認してください。
参照した一次資料
- 厚生労働省「事業譲渡等指針」 (2026年10月23日再確認)
- 同社レポート「人事領域のリスク対応」4頁 (2026年10月23日再確認)
- 大阪労働局「労働時間の適正な把握のためのガイドライン」 (2026年10月23日再確認)
- 厚生労働省「賃金支払いの5原則」 (2026年10月23日再確認)
知りたかったことは分かりましたか
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)