経営業務の管理責任者が退任・死亡したら|建設業許可を残す3つの手と2週間の期限
経営業務の管理責任者(経管)が退任や死亡で欠けたら、許可を受けた会社は、2週間以内に、代わりの者の書類を出すか、基準を満たさなくなったと届け出ます(建設業法第11条第5項、施行規則第7条の2第2項)。後者になれば、許可行政庁は許可を取り消さなければなりません(法第29条第1項第1号)。ただし、2020年10月から、社長ひとりが経験を積んでいる形だけが基準ではなくなりました。役員経験のある人に、財務・労務・業務運営の補佐者を付ける形でも、基準を満たせます。
たとえば、社長が経管を兼ねてきた電気工事会社が、来年の春で社長が引退すると決めたとします。許可通知書や変更届の控えを開くと、経管の欄にあるのは、社長ご自身の名前です。
経管が欠けたら、2週間以内に書類か届出が要る
| 状況 | 期限と根拠 | 出すもの |
|---|---|---|
| 代わりの者、または代わりの経営体制がある | 2週間以内(施行規則第7条の2第2項) | その者または体制を証する書面。許可申請のときと同じく、イなら別記様式第七号、ロなら第七号の二の証明書と、ロでは補佐者の証明書や組織図など(施行規則第3条第1項第1号) |
| 代わりがいない | 2週間以内(法第11条第5項) | 基準を満たさなくなった旨の届出の書面 |
| 氏名が変わっただけ | 2週間以内(施行規則第7条の2第1項) | 氏名変更の届出 |
期限の数え始めとして施行規則が書くのは、証明された人が「常勤役員等でなくなつた場合」です。社長が代表を譲っても、常勤の役員として残る限り、この条文の期限は動きません。逆に、辞任や死亡で常勤の役員でなくなった日が、2週間の起点になります。書類の数え方や様式は、許可行政庁の窓口で確認してください。
期限が動くのは、辞めた日ではなく、常勤の役員でなくなった日だ。
経管・営業所技術者・主任電気工事士は、別々の席で、別々の期限を持つ
経管、営業所技術者(2024年12月13日から条文上の名称。旧称は専任技術者)、主任電気工事士は、別の制度の席です。社長ひとりが3つの席に座っている会社では、期限が3つ同時に動きます。
| 席 | 根拠 | 欠けたときの期限 | 詳しい記事 |
|---|---|---|---|
| 経営業務の管理責任者 | 建設業法第7条第1号 | 2週間以内(第11条第5項) | この記事 |
| 営業所技術者(旧:専任技術者) | 建設業法第7条第2号 | 2週間以内(第11条第4項・第5項) | 営業所技術者が退職したら |
| 主任電気工事士 | 電気工事業法第19条 | 知った日から2週間以内に選任(第19条第3項) | 主任電気工事士がいない・退職したら |
許可と登録が、会社を売る方法ごとにどこへ行くかは、許可と登録の行き先をまとめたページに一枚にしています。この記事は、経管の席に絞ります。
基準は2020年10月に変わり、社長ひとりが満たす形だけではなくなった
2020年10月1日に施行された基準の見直し前は、条文が、常勤の役員のうち1人が、許可を受けようとする建設業に関して5年以上経営業務の管理責任者としての経験を持つことなどを求めていました。国土交通省の資料は、新しい基準で、建設業の種類ごとの区別をやめ、建設業の経験として統一したと説明しています。
現行の基準(施行規則第7条第1号)は、次のいずれかです。
| ルート | 常勤役員等のうち1人の要件 | 補佐者 |
|---|---|---|
| イ(1) | 建設業に関し5年以上、経営業務の管理責任者としての経験 | 不要 |
| イ(2) | 建設業に関し5年以上、管理責任者に準ずる地位(経営業務を執行する権限の委任を受けた者に限る)として経営業務を管理した経験 | 不要 |
| イ(3) | 建設業に関し6年以上、管理責任者に準ずる地位で、管理責任者を補佐する業務に従事した経験 | 不要 |
| ロ(1) | 建設業に関し2年以上の役員等の経験と、5年以上の役員等、または役員等に次ぐ職制上の地位(財務管理・労務管理・業務運営を担当するものに限る)の経験 | 財務管理・労務管理・業務運営の経験者を、直接の補佐者としてそれぞれ置く |
| ロ(2) | 5年以上の役員等の経験と、建設業に関し2年以上の役員等の経験 | 同上 |
| ハ | 国土交通大臣が、イまたはロと同等以上の経営体制を有すると認定したもの |
ロの補佐者の経験は、許可を受けている会社での5年以上の建設業の業務経験に限られます。外から連れてくる人では数えられません。国土交通省の資料は、補佐者を一人が複数の経験を兼ねてよいとしています。
補佐者は、財務・労務・業務運営の3つの経験を、1人で兼ねられる。
旧基準では、建設業の経営の経験を持つ常勤の役員が1人もいなければ、許可が止まりました。現行基準では、役員経験のある人と、社内の経験者の2人でも成り立ちます。社長が引退する会社にとっては、後任の選び方が増えています。
許可を残す手は、常勤で残る・社内で立てる・補佐者と組むの3つ
社長が常勤役員のまま、期間を決めて残る
経管の席は、常勤の役員等でなくなったときに動きます。株式を譲渡したあとも、前社長が常勤の役員として一定期間残れば、その間は基準が保たれます。譲渡契約の中で、残る期間と役割を決められるので、3つの手の中では設計が早い方法です。ただし、「すぐに引退したい」という希望とは両立しません。
社内の経験者を、常勤の役員に立てる
番頭さんや専務のように、会社の経営を支えてきた人が社内にいる場合、イ(3)が使えるか調べます。建設業に関し6年以上、管理責任者に準ずる地位で管理責任者を補佐する業務に従事した経験を数える基準です。イ(2)は、準ずる地位のうち「経営業務を執行する権限の委任を受けた者」に限られ、イ(3)は、管理責任者を補佐する業務の経験を数えます。経験を何の書類で示せるかは、許可行政庁の窓口で確認します。
基準を満たす人なら、常勤の取締役として登記し、経管として届け出られます。経験の年数は積み直せないので、使えるかどうかは、いまの経歴で決まります。
役員経験者を迎え、補佐者と組んで基準を満たす
ロの形です。常勤役員等のうち1人が、建設業に関して2年以上の役員等の経験と、5年以上の役員等または役員等に次ぐ職制上の地位の経験を持っていれば、財務・労務・業務運営の経験者を補佐者として置くことで、基準を満たせます。
社内に、建設業で5年以上の業務経験を持つ経理担当や総務担当がいれば、その人が補佐者の候補です。株式を譲り受ける側の会社から、役員経験のある人を常勤の役員として送り込む形も、条文の上では成り立ちます。個別の可否は、許可行政庁に確認してください。
名義だけを借りる道は、この3つに入りません。届け出た人と実際に働く人が違えば、許可の取消しの対象です。条文と、人が足りない会社の合法的な道は、名義貸しを考える前にに整理しています。
株式譲渡でも事業譲渡でも、後任の体制は退任の日に間に合わせる
株式譲渡は、許可を持つ法人が変わらないので、承継の認可は要りません。役員等に異動があれば、30日以内に変更届出書を出します(法第11条第1項)。ただし、退任する人が経管だったときは、代わりの体制について、2週間以内に書類を出します。契約の前に、後任の体制を決めておく必要があるのは、このためです(これは条文の構造からの整理で、国土交通省が株式譲渡に直接言及した文書は確認できていません)。
事業譲渡や合併、会社分割は、あらかじめ認可を受けると、譲受人が建設業者の地位を承継します(法第17条の2)。認可の審査は、新規の許可と同じ基準(第7条・第8条)を使います(同条第4項)。譲り受ける側が、経営業務の管理体制を満たしていなければ、認可は出ません。国土交通大臣許可の新規許可の標準処理期間は、書類が届いてからおおむね90日程度で、承継の認可も原則同じです。知事許可の期間は、都道府県が定めます。
許可の行き先と、経営事項審査(経審)の点数の扱いは、経審・入札参加資格の記事に書いています。
取消しになっても再取得はできるが、許可のない期間が空く
経管が欠けたことによる取消しは、第29条第1項第1号です。許可を受けられない5年の期間(第8条第2号)が掛かるのは、第29条第1項第7号と第8号の取消し(不正の手段による許可の取得など)です。第1号は含まれていません。
だから、取り直しは条文の上で止められていません。ただ、新規の許可になるので、許可が出るまでは空白になります。
| 場面 | どうなるか |
|---|---|
| 許可のない期間 | 工事1件の請負代金が500万円以上(建築一式は1,500万円以上)の工事は請け負えない(施行令第1条の2) |
| 取り直しの審査 | 新規の許可と同じ基準。経管の基準も、改めて満たす必要がある |
| 許可が出るまで | 国土交通大臣許可の標準処理期間でおおむね90日程度。知事許可は都道府県による |
取消し前に請け負った工事の扱いは、営業所技術者が退職したときの記事の、許可がない期間の節にまとめています。
個人事業主の許可は、社長の死亡から30日の申請になる
個人事業主の許可は、本人に付いています。経管の席ではなく、許可そのものが本人の死亡で動きます。相続人が事業を続けるなら、死亡後30日以内に、許可行政庁へ認可を申請します(第17条の3第1項)。申請をすれば、認可を受けるまで、または認可をしない旨の通知を受けるまで、被相続人の許可は相続人にしたものとみなされます(同条第2項)。
法人の社長が亡くなったときの期限は、社長が亡くなったとき、会社と許可と借入に何が起きるかに、日付を入れて計算する期限表をつけています。
後継者難倒産の半数は、経営者の病気・死亡が主因である
帝国データバンクの集計では、2026年1〜6月の後継者難倒産は312件で、集計開始以来初めて300件を超え、過去最多でした。このうち157件(50.3%)は、「経営者の病気・死亡」が主因です。建設業は71件でした。
建設業許可を持つ電気工事業者は66,534業者です(国土交通省、令和8年3月末、2026年5月15日公表)。建設業の後継者不在率は57.3%で、全国平均の50.1%を7.2ポイント上回ります(帝国データバンク、2025年)。
経管の席は、社長の引退を決めた会社にだけ関わる問題ではありません。病気や死亡で、予告なしに席が空くことがあります。そのときの2週間を数え始める日は、選べません。
手元の書類で、今日確かめることは5つある
- 許可通知書と変更届の控えで、届出上の経管(常勤役員等)が誰になっているか
- その人が、イ(1)〜(3)、ロのどのルートの経験で証明されているか。証明に使った書類は残っているか
- 補佐者を置いている場合、その人たちが、いまも会社に常勤しているか
- 社長の引退や退任の予定時期から逆算して、後任の候補に、必要な年数の経験があるか
- 営業所技術者と主任電気工事士も、同じ社長ひとりが兼ねていないか
この5つは、売ると決める前でも確かめられます。続ける、引き継ぐ、残す手を探す、いずれの場合も、先に分かっていれば選べる手が増えます。個別の可否は、許可を出した行政庁か、行政書士に確認してください。
参照した一次資料
- e-Gov法令検索「建設業法」(第7条・第8条・第11条・第17条の2・第17条の3・第29条) (2026年10月14日に現行版を確認)
- e-Gov法令検索「建設業法施行規則」(第7条・第7条の2) (2026年10月14日に現行版を確認(令和8年7月1日施行))
- e-Gov法令検索「建設業法施行令」(第1条の2:軽微な建設工事) (2026年10月14日に確認)
- 国土交通省「許可基準の見直しについて(建設業法第7条関係)」(2020年10月1日施行の基準見直し)
- 国土交通省「建設業許可業者数調査の結果について(令和8年3月末現在)」 (2026年5月15日公表)
- 国土交通省「建設業許可の承継の認可の基準及び標準処理期間について」 (令和6年12月13日最終改正)
- 帝国データバンク「倒産集計 2026年上半期報」 (2026年7月8日)
- 帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」 (2025年11月)
よくあるご質問
社長のほかに役員がいます。それなら大丈夫ですか。
対策にはどれくらいの時間がかかりますか。
許可が取り消されても、また取り直せばよいのでは。
補佐者は、誰でもよいのでしょうか。
経管の社長が亡くなったら、許可はどうなりますか。
知りたかったことは分かりましたか
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)