社長が引退すると建設業許可が消える会社がある──経営業務の管理責任者という落とし穴
「会社を売って、そのまま引退したい」
電気工事会社や計装会社の社長から、よくいただくご要望です。長年やってこられたのですから、当然のお気持ちだと思います。
ただ、この希望をそのまま前提にすると、建設業許可が維持できなくなることがあります。
許可が消えれば、買い手にとっての会社の価値は根本から崩れる。
何が起きるのか
建設業許可を維持するには、「経営業務の管理責任者」の要件を満たす人が会社にいなければなりません。これは、建設業に関して役員等として一定期間の経営経験がある人、という意味です。
問題は、小規模な会社ではこの要件を社長しか満たしていないケースが非常に多いことです。
社長が退任した瞬間、要件を満たす人がいなくなります。すると許可が維持できません。許可がなければ、500万円以上の工事(建築一式工事は1,500万円以上)を請けられなくなります。
つまり、買い手から見ると、こういうことになります。
会社は買った。職人も来た。しかし工事が請けられない。
これでは買う意味がありません。
同じことが電気工事業登録にも起きる
建設業許可とは別に、電気工事業法に基づく登録もあります。制度が分かれているため、ここで取り違えが起きやすいところです。
登録電気工事業者は、営業所ごとに主任電気工事士を選任しなければなりません。第一種電気工事士、または第二種電気工事士の免状取得後3年以上の実務経験がある人です。
これが社長本人であるケースも、やはり多いのです。
建設業許可と電気工事業登録は別の制度です。片方だけ手当てしても、もう片方で止まります。
なお、建設業許可(電気工事業)を持っている場合は電気工事業法上の「みなし登録(届出)」が必要です。「建設業許可があるから登録は不要」という誤解を時々見かけますが、これは正しくありません。
だから、値段の話より先に確認します
当社が承継のご相談をお受けするとき、企業価値の話より先に確認するのがここです。順番を間違えると、条件が固まってから話が振り出しに戻るからです。
確認するのは次の3点です。
- 経営業務の管理責任者の要件を、社長以外に満たす人がいるか
- 主任電気工事士は誰か。社長本人か
- 営業所ごとの専任技術者の配置はどうなっているか
企業価値の目安診断にこの設問を入れているのは、そのためです。年商と利益だけを聞く一般的な査定ツールでは、この論点は出てきません。
打てる手は3つ。いずれも時間が要る
1. 社長に一定期間残っていただく
最も現実的な方法です。譲渡後1〜2年、役員として残っていただき、その間に要件を満たす人を育てます。
譲渡契約の中で期間と役割を定めれば設計できるので、比較的すぐに手を打てます。ただし「すぐ引退したい」というご希望とは両立しません。
2. 要件を満たす人材を、承継前に確保する
社内の方に経営経験を積んでいただくか、外部から招く方法です。必要な年数がかかるため、譲渡を考え始めた段階で着手する必要があります。
この手は、売ると決める前にしか打てません。
まだ迷っている段階でご相談いただければ、この選択肢が取れます。
3. 許可が不要な範囲に事業を絞る
500万円未満の工事に限定するという考え方もありますが、事業規模が大きく制約されます。企業価値も下がるため、通常は最後の選択肢です。
譲渡の方式によっても変わる
許可の扱いは、どういう方式で譲渡するかによっても変わります。
| 方式 | 建設業許可の扱い |
|---|---|
| 株式譲渡 | 法人格が変わらないため、原則そのまま維持される |
| 事業譲渡 | 事前の認可を受けない限り引き継げない。空白期間が生じるおそれ |
| 合併・分割 | 同じく事前認可が必要 |
2020年10月の建設業法改正で、事業承継についての事前認可制度が整備されました。事業譲渡や合併を選ぶ場合は、認可申請のスケジュールを逆算して契約日を設計する必要があります。
なお、経営事項審査(経審)の点数も、株式譲渡なら原則維持されますが、合併や事業譲渡では扱いが変わります。公共工事の比率が高い会社ほど、ここの設計が譲渡価格に直結します。
背景にある数字
建設業の後継者不在率は57.3%で、帝国データバンクの2025年調査では全業種で最も高い水準です。全国平均が50.1%ですから、それを7ポイント以上上回っています。
建設業許可を持つ電気工事業者は65,497業者(国土交通省、令和7年3月末)。この多くが小規模事業者です。
つまり、「社長しか要件を満たしていない会社が、後継者不在のまま高齢化している」という状況が、業界全体で相当数あることになります。
早く相談するほど、選べる手が多い
この論点は、対策にどれも時間がかかります。だから当社は「売ると決めてから来てください」とは言いません。
決めていない段階のほうが、打てる手が多い。
「うちは社長しかいないが、どうなるのか」という確認だけでも結構です。費用はかかりませんし、確認した結果「今は続けたほうがいい」とお伝えすることもあります。
参照した一次資料
- 国土交通省「建設業許可業者数調査の結果について(令和7年3月末現在)」 (2025年5月)
- 経済産業省「電気工事業法の手引き」
- 帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」 (2025年11月)
よくあるご質問
うちは社長のほかに役員がいます。それなら大丈夫ですか。
対策にはどれくらいの時間がかかりますか。
許可が切れたら、また取り直せばいいのでは。
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)