みなし登録電気工事業者とは|会社を売る・合併・相続のときの届出
みなし登録電気工事業者とは、建設業許可を受けて電気工事業を営む会社のことです。電気工事業法第34条は、この会社に登録の章を当てはめず、登録電気工事業者とみなして残りの規定を適用します。会社を売る場面で効いてくるのは、その裏側です。登録電気工事業者には、事業譲渡・合併・相続で地位を引き継ぐ定め(第9条)がありますが、みなし登録の会社にはそれが適用されません。
たとえば、許可を持つ電気工事会社の社長が、会社を売ると決めたとします。買い手の行政書士に「電気工事業の登録証を見せてください」と言われて、書類棚を探します。見つかるのは建設業の許可通知書で、電気工事業の登録証はありません。みなし登録の会社が持っているのは登録証ではなく、開始届を出したときの受理の通知書だからです。
みなし登録は、建設業許可に付いてくる電気工事業法上の扱いである
電気工事業を営むには、原則として都道府県知事(営業所が2以上の都道府県にあれば経済産業大臣)の登録が要ります(第3条第1項)。建設業許可を受けた建設業者は、この登録の章(第二章)が適用されず(第34条第1項)、登録電気工事業者とみなして他の規定が当てはめられます(同条第2項)。許可の業種は問いません。条文は「建設業者」とだけ書き、建設業法はこれを、許可を受けて建設業を営む者と定義しています(建設業法第2条第3項)。
業務の章は適用されたままです。営業所ごとの主任電気工事士の設置(第19条)、器具の備え付け、標識の掲示がそれに当たります。主任電気工事士が欠けたときの2週間の期限は、主任電気工事士がいない・退職したらに書きました。
電気工事業者は、建設業許可の有無と工事の種類で四つに分かれます(栃木県の手引きの区分表)。
| 建設業許可なし | 建設業許可あり | |
|---|---|---|
| 一般用電気工事を含む | 登録電気工事業者(登録、5年ごとに更新) | みなし登録電気工事業者(開始届) |
| 自家用電気工事のみ | 通知電気工事業者(開始の10日前までに通知) | みなし通知電気工事業者(遅滞なく通知) |
この記事の対象は右上の欄。キュービクルなど自家用の工事だけの会社は、右下のみなし通知になる。
自家用の工事だけを請ける会社の通知は、登録とは別の制度です(第17条の2、第34条第5項)。主任電気工事士を置く義務もありません。一般用の範囲が太陽光の工事まで及びうる点は、主任電気工事士の記事に書いたとおりです。
開始・変更・廃止の届出は、期限が「遅滞なく」と書かれている
みなし登録の届出は三つあります。条文は、登録電気工事業者の30日と書き分けて、期限を「遅滞なく」としています。
| 登録電気工事業者 | みなし登録電気工事業者 | |
|---|---|---|
| 始めるとき | 登録申請(第3条・第4条) | 開始届(第34条第4項、規則第24条) |
| 変更したとき | 変更の日から30日以内(第10条第1項) | 遅滞なく(第34条第4項、規則第25条第1項) |
| やめるとき | 廃止の日から30日以内(第11条)。登録は効力を失う(第13条第3項) | 遅滞なく(規則第25条第2項) |
| 更新 | 登録は5年(第3条第2項) | 登録の更新はない。許可の更新ごとに変更届 |
| 手元の書類 | 登録証 | 届出の受理通知書 |
日数は条文に書かれていません。福島県は、開始届の提出時期を業務を開始してから概ね30日以内と案内しています。届出をしなかったり、虚偽の届出をしたりした者には、2万円以下の罰金の定めがあり(第40条第1号)、行為者のほか法人にも罰金が科されます(第41条)。
開始届に書く事項は、施行規則第24条第1項の五つです。氏名または名称と住所(法人は代表者の氏名)、建設業許可の年月日と番号、電気工事業を開始した年月日、営業所の名称と所在地と電気工事の種類、主任電気工事士等の氏名と免状の種類・番号。このうち開始の年月日を除く四つが、変わったときの変更届の対象です(同規則第25条第1項)。
届出事項に入っているのは代表者の氏名で、役員の氏名ではない。
登録電気工事業者では、役員の氏名が登録事項で、変わると30日以内に変更届が要ります(第4条第1項第3号、第10条第1項)。みなし登録の条文には、この役員の欄がありません。栃木県の手引きにある法人の変更届の一覧にも、役員の項目は見当たりません。株式を売って取締役が総入れ替えになっても、代表者、営業所、主任電気工事士が同じなら、電気工事業法の変更届の対象にはならないと読めます。建設業法のほうの役員変更の届出は、別に残ります。
もう一つ、見落とされやすい項目があります。建設業許可の年月日と番号です。
建設業許可を更新するたびに、電気工事業法の変更届が1本増える。
許可を更新すれば年月日が変わるので、届出事項が変わります。熊本県は「建設業許可の期限更新を行った場合も、みなし電気工事業の変更届が必要です」と案内し、変更届出書と建設業許可の写し、届出受理通知書の写しの提出を求めています。5年に一度の書類なので、前回出したかどうかは社長の記憶に残りにくい部分です。
登録電気工事業者が建設業許可を取ると、従前の登録は効力を失う
電気工事業の登録を受けていた会社が、その後に建設業許可を取ることがあります。第34条第6項は、登録電気工事業者が建設業者になったとき、その登録は効力を失うと定めています。
許可を取った日に登録が失効するので、棚に登録証が残っていても、有効なものとは限りません。福島県の案内では、許可を取った会社は登録証返納届出書を出し(概ね30日以内、手数料なし)、これとは別に、みなし登録の開始届を出します。熊本県の案内も、許可を取った時点で登録電気工事業者からみなし登録電気工事業者になるとし、遅滞なく開始届を出すよう求めています。
売買の場面では、届出受理通知書の日付が許可を取った日のあとになっているか、見ておく価値があります。登録のまま許可を取り、開始届を出さずに数年が過ぎている会社があれば、第34条第4項の届出がされていない状態です。
建設業許可が消えると、みなし登録の土台も消える
みなし登録は、許可を受けて営む「建設業者」であることを前提にしています。許可の期限が切れたとき、熊本県は「みなし登録電気工事業者ではなくなりますので、引き続き電気工事業はできません」と案内しています。廃業して許可を返す場合や、許可が取り消された場合も、建設業者でなくなる点は同じなので、同様に読めます。
電気工事を続けるなら、道は二つです。許可を取り直して開始届を出すか、許可を受けずに登録電気工事業者として登録を受けるか。建設業の許可が要らない小さな工事だけを請け続ける場合でも、電気工事業の登録は金額にかかわらず要ります。許可の廃業届と電気工事業の廃止届の違いは、廃業届・廃止届を出す前にで整理しています。
許可の中身が変わる場合もあります。許可換えで許可の行政庁が変われば、許可の番号と年月日が変わります。この二つは届出事項なので、変更届の対象になると読めます。
会社を売る方法ごとに、みなし登録の届出は分かれる
承継の条文は、みなし登録の会社に適用されない章の中にあります。
承継の条文(第9条)は、みなし登録には適用されない章の中にある。
第9条は第二章(登録等)に置かれ、第34条第1項がその第二章を建設業者から外しています。沖縄県も「みなし登録電気工事業(建設業許可:あり)は他者に承継(譲渡・相続)できません」と案内しています。登録電気工事業者なら、事業の全部を譲り受けた人は地位を承継し、承継の日(相続は相続の開始を知った日)から30日以内に届け出ます(第9条第1項・第3項)。事前の認可は要りません。
建設業法側には、事前に認可を受ける承継の仕組みがあります。令和7年度に認可された承継は全国で1,092件、うち譲渡及び譲受けが954件、合併79件、分割33件、相続26件でした(業種別の内訳は公表されていません)。この認可を受けると、譲受人は許可の地位を引き継ぎますが、電気工事業法の側に同じ仕組みはありません。
売り方ごとに並べると、次のようになります。右の列は条文からの整理で、国や県の文書が直接述べたものではありません。
| 方法 | 建設業法(許可) | 電気工事業法(みなし登録) |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 許可は会社に付いたまま。承継の認可は要らず、役員等の変更は30日以内の届出 | 会社が同じなので、みなし登録も続く。代表者、営業所、主任などが変わるなら変更届 |
| 事業譲渡 | 事前の認可を受けると、譲受人が建設業者の地位を承継(第17条の2第1項) | 承継の条文はない。受け手が開始届(すでに営んでいれば変更届)、出し手が廃止届と読める |
| 合併・分割 | 事前の認可(第17条の2第2項・第3項) | 同上。消滅する会社の廃止届を誰が出すかは条文にない |
| 相続(個人事業) | 死亡後30日以内に認可を申請。申請中は許可が相続人にされたものとみなされる(第17条の3) | 承継の条文はない。相続人が自分で開始届と読める |
株式譲渡は届出事項が動いたら変更届、事業譲渡・合併・相続は受け手が自分の届出。
株式譲渡は、会社が同じなので届出事項だけを見る
株式を売っても、許可を持つ法人は変わりません。承継認可は要らず、役員などの氏名が変われば建設業法の変更届を30日以内に出します。電気工事業法のほうは、先に見たとおり、動くのは代表者の氏名、営業所、主任電気工事士の三つです。
社長が主任電気工事士を兼ねている会社では、売却後に社長が退く日が、主任が欠ける日になります。その日から2週間で後任を選任し、遅滞なく変更届を出します。後任の候補を買い手側に用意してもらえるかどうかは、契約の条件に入れて話しておく部分です。
事業譲渡・合併・分割は、受け手が自分の名前で届出をする
許可を認可で引き継いだ受け手は、建設業者としてみなし登録の扱いを受けます。まだ電気工事業を営んでいなければ開始届、すでにみなし登録の会社で、営業所や主任電気工事士が増えるなら変更届、という整理になります(規則第24条・第25条)。譲渡した側は、電気工事業をやめるなら廃止届です。許可についても、認可を受けて譲渡したときは廃業届は要りません(建設業法第12条第5号のかっこ書き)。
条文が答えを書いていない場面もあります。受け手が許可を持たず登録電気工事業者である場合や、登録電気工事業者の事業を許可のある会社が譲り受ける場合の届出は、確認できた範囲の条文と県の資料には明記がありません。受け手の届出の種類は都道府県の運用に左右されるので、契約を結ぶ前に、届出先の窓口に確かめてください。
相続は、個人事業主の許可と届出が別々に動く
個人事業の社長が亡くなったとき、建設業許可は、相続人が30日以内に認可を申請すると、認可の判断が出るまで相続人にされたものとみなされます。電気工事業法の側は、みなし登録に承継がないので、相続人が自分の名前で開始届を出す形になると読めます。法人の社長が亡くなった場合は、会社は残るので、社長の交代として代表者と、社長が主任を兼ねていた場合は主任の変更が論点になります。社長が亡くなったとき、家族が最初にすることに、全体の順番をまとめています。
譲渡の前に、手元の書類で確かめることは四つある
| 見る書類 | 確かめること | ずれていたら |
|---|---|---|
| 届出の受理通知書(開始届と各変更届の分) | 記載の許可の年月日・番号が、いまの許可通知書と一致するか | 許可を更新した分の変更届が出ていない可能性。窓口で出し直しを相談 |
| 開始届の日付 | 登録電気工事業者から許可を取った会社なら、許可の日のあとに開始届があるか | 登録証返納届と開始届の控えを探す |
| 営業所ごとの主任電気工事士 | 氏名、免状の種類、社長本人か従業員か | 社長が退くなら、退く日から2週間で後任が要る |
| 許可の維持要件 | 経営業務の管理体制と営業所技術者が、売却後も残るか | 許可が消えれば、みなし登録も消える |
最後の行は、電気工事業法の外の話ですが、みなし登録の存続を左右します。経営業務の管理責任者が社長一人の会社では社長の退任と同時に要件が欠けること、営業所技術者が辞めたときの扱いは営業所技術者が退職したらに書きました。
電材卸が工事部門を持つ場合は、建設業許可の有無で扱いが分かれる
電材卸が、自社の工事部門で電気工事を請けている場合も、電気工事業法の区分は同じです。建設業許可があれば、一般用を含む工事はみなし登録、自家用だけならみなし通知。許可がなければ、登録電気工事業者か通知電気工事業者になります。
電気工事業法の「電気工事」からは、家庭用電気機械器具の販売に付随して行う工事が除かれています(第2条第1項)。除外されるのはその工事に限られ、電材の卸売りに付随する工事全般が外れるとは、条文からは読めません。個別の事情は、営業所のある県の窓口に確かめてください。電材卸を譲り受ける買い手にとっては、工事部門の届出が登録か、みなし登録か、そもそも出ていないのかが、確認の入口になります。業種別の事情は電材卸の事業承継に集めています。
条文で言えないことは、窓口に確かめる
この記事は、電気工事業法、同施行規則、建設業法の条文と、県の公開資料を読んで整理したものです。経済産業省の手引きは確認できていません。特に、事業譲渡・合併・分割で受け手がどの届出を出すか、合併で消える会社の廃止届を誰が出すか、登録電気工事業者の事業を許可のある会社が譲り受けたときの扱いは、条文に明記がなく、運用に左右される部分です。個別の可否は、届出先の窓口と、顧問の行政書士に確認してください。
会社を売るのが、唯一の道ではありません。許可を持ったまま親族や社員に継がせる道も、自分で続ける道も、手続きの重さは売却と別の形で残っています。どの道でも出発点は同じで、許可通知書と届出受理通知書を並べて、いまの届出が許可と合っているかを見ることです。
参照した一次資料
- e-Gov法令検索「電気工事業の業務の適正化に関する法律」(第2条・第3条・第4条・第9条〜第11条・第13条・第17条の2・第19条・第34条・第40条・第41条) (2026年10月14日に現行版を確認)
- e-Gov法令検索「電気工事業の業務の適正化に関する法律施行規則」(第6条・第12条・第24条・第25条) (2026年10月14日に現行版を確認)
- e-Gov法令検索「建設業法」(第2条・第12条・第17条の2・第17条の3) (2025年12月12日施行版)
- 国土交通省「建設業許可業者数調査の結果について(令和8年3月末現在)」(承継認可件数) (2026年5月15日公表)
- 沖縄県「電気工事業を廃止、登録証紛失届、承継届出の場合」 (2025年8月29日更新)
- 熊本県消防保安課「建設業許可を受けても、電気工事業を行う場合は、電気工事業法の届出が必要です」
- 熊本県「登録電気工事業者変更届(みなし変更)」 (2024年4月1日更新)
- 栃木県産業労働観光部工業振興課「電気工事二法の申請手引き」 (令和7年3月)
- 福島県「みなし登録電気工事業者の登録申請(登録電気工事業者が建設業許可を受けた場合ほか)」
- 福島県「みなし登録電気工事業者の事業開始届」
- 宮城県「みなし登録電気工事業者関係 電気工事業廃止届」 (2025年2月20日掲載)
よくあるご質問
みなし登録電気工事業者とは何ですか。登録電気工事業者とどう違いますか。
株式譲渡で社長が代わったら、電気工事業の届出は要りますか。
建設業許可を更新したら、電気工事業の届出も必要ですか。
事業譲渡や合併で建設業許可を引き継ぐと、みなし登録も引き継がれますか。
建設業許可がなくなったあとも、電気工事を続けられますか。
知りたかったことは分かりましたか
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)