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公開: 最終更新: 電気機器・産業用機器卸

機器商社の価値は、決算書より先に代理店契約書で決まる

電気機器・産業用機器の商社を譲るとき、決算書より先に確かめるのは、主要メーカーとの代理店契約書です。契約に支配権変動条項(株主や役員が変わったときの承諾・解除を定める条項)が入っているかで、売り方と手順が変わります。入っていない契約もあるので、契約書を開いて確かめるところから始まります。

事業を始めるための許可はない。守るべきものは契約と人にある

電気機器の卸には、建設業許可や電気工事業の登録に当たる、事業を始めるための許可がありません。電気用品を売るときは、所定の表示が付いたものでなければ売ってはならないという規制がありますが(電気用品安全法第27条)、これは扱う商品の規制です。

許可がない業種で、承継のときに守るものは、メーカーとの契約と、人だ。

同じ電設の周辺でも、業種によって「新規に入れない理由」が違います。

業種参入を阻むもの承継で守るもの
電気工事・消防設備建設業許可、有資格者経営業務の管理体制、資格者の残留
計装工事現場で調整できる人設定値の記録、有資格者
盤製造設計できる人図面と原価の見える化
電気機器・産業用機器卸メーカーとの契約と技術営業代理店契約の継続

掛率、支払条件、リベートといった取引条件は、契約と長い取引の実績の上に乗っています。会社の外からは見えず、お金を払っても、すぐには同じものを作れません。

機器卸の値打ちは、在庫や倉庫よりも、メーカーとの契約と、それを回している人に宿りやすい。

代理店契約には、売却に関わる条項が入っていることがある

代理店契約や特約店契約には、支配権変動条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)が入っている場合があります。株主が変わったとき、役員が変わったとき、合併や会社分割があったとき、メーカーが契約を解除できる、あるいは事前に承諾を得る必要がある、という趣旨の条項です。入っているかどうか、どんな言い回しか、契約ごとに違います。

メーカー側の理屈は分かりやすいものです。誰が経営しているかを見て代理店にしている相手が変わるなら、確認したい。

契約を解除できる条項が入っていれば、決算書の数字は、その契約が続くという前提でしか意味を持たない。

契約書を開いたら、次の4点を確かめます。

  • 契約書が手元にあるか
  • 支配権の変動や、株主・役員の変更に関する条項があるか
  • 承諾が「事前」に要るのか、「事後の通知」で足りるのか
  • 契約期間と、自動更新の条件はどうなっているか

契約書が見当たらない、何十年も更新していない、という場合は、それ自体が最初に分かる事実です。

株式譲渡と事業譲渡で、契約の扱いが変わる

譲渡の方式で、メーカーとの契約は別の動きをします。

株式譲渡事業譲渡
契約の当事者売り手の法人のまま変わらない売り手の法人から、買い手の法人へ移す必要がある
代理店契約当事者の法人は同じなので続く。ただし支配権変動条項があれば、その定めに従う契約上の地位を移すには、メーカーの承諾が要る
メーカーの関与条項があれば承諾か通知地位の移転の承諾、または買い手との新規契約
簿外債務買い手が引き継ぐ個別に移したものだけが移る

事業譲渡の列のうち、契約の扱いの根拠になるのは、民法の条文です。

契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。(民法第539条の2)

事業譲渡では、メーカーとの契約は、買い手に自動では移らない。

買い手は、簿外債務を引き継ぐ範囲を選べるため、事業譲渡を希望することがあります。しかし機器卸では、メーカーが承諾しなければ、いちばん欲しいものが付いてきません。

買い手が事業譲渡を希望したとき、代理店権を残すために株式譲渡を選ぶ理由を、契約書の条項で説明できるか。それが交渉で問われる点になる。

メーカーに話を通す順序の考え方

支配権変動条項があるなら、メーカーには、どこかで話が行きます。考えるのは、知られるかどうかより、いつ、誰から、どういう形で伝えるかです。早すぎると、買い手が決まらないうちに情報が広がるおそれがあります。遅すぎると、契約の直前にメーカーが難色を示し、まとまりかけた話が戻ることがあります。

順序の組み立て方は、たとえば次のようになります。

  1. 売上構成から、影響の大きいメーカーを絞り込む
  2. 契約書で、そのメーカーとの条項の中身を確認する
  3. 買い手候補が、そのメーカーから見てどう映るかを、あらかじめ考える
  4. 基本合意の前後に、社長ご本人からメーカーの責任者へ伝える時期を決める
  5. 承諾が要る契約は、承諾を契約の成立条件として書面に入れる

長く取引してきた相手ほど、後から聞かされたと受け取られたときの影響は重くなりやすいはずです。

契約書と並ぶ確認点は、技術のわかる営業の人数と年齢だ

契約書と並ぶもう一つの資産が、人です。産業用機器は、品番を売るだけでは済まない場面があります。客先の設備を理解して代替品を提案し、生産が止まらないように手配する、という判断を担う営業がいる会社では、その人が抜けると、メーカーを同じ数だけ扱っていても、会社の値打ちは変わります。

規模、社長の年齢、価格の幅を、国の統計で見る

業界の規模は小さくありません。令和3年経済センサス-活動調査によると、電気機械器具卸売業の事業所数は25,090、従業者は397,121人(卸売業全体の10.3%)、年間商品販売額は44兆1,875億円(同11.3%)です。販売額は2020年1年間の値で、この分類には家庭用の電気製品を扱う卸も含まれます。

一方で、帝国データバンクの2025年調査では、卸売業の社長の平均年齢は61.5歳です。

電気機械器具卸売業の従業者は約40万人。卸売業の社長の平均年齢は61.5歳。

価格の目安も、ばらつきが大きいのが実情です。中小企業庁のM&A支援機関登録制度が公表した2024年度の集計で、株式譲渡(譲渡側)のEV/EBITDA倍率は次のとおりです。

区分中央値件数第1四分位〜第3四分位
全体7.3倍1,987件3.6〜15.5倍
建設業5.4倍310件2.9〜11.6倍
うち設備工事業6.7倍111件3.3〜12.1倍
機械器具卸売業6.8倍38件3.7〜14.1倍

機械器具卸売業は、産業機械、自動車、電気機械器具などを含む分類で、電気機器の卸だけの数字ではありません。しかも第1四分位と第3四分位は4倍近く開いていて、件数は38件とサンプルが小さいので、目安にとどめてください。

公表されている例では、立花エレテックが数年かけて段階を踏んでいる

買い手が自社サイトに載せている沿革から、段階を追って確かめられる例があります。

立花エレテック(自社サイトで「技術商社」と名乗る)の沿革は、次のとおりです。

相手出資連結子会社化完全子会社化出資から
大電社2006年11月(持分法適用)沿革に記載なし2010年4年
高木商会(現タカギコネクト)2012年(持分法適用)2014年2019年7年

立花エレテックの2件は、出資から完全子会社化まで、4年と7年をかけている。

資本の関わりを、数年かけて段階的に深める形です。売り手の側に時間の余裕があるうちに話を始めれば、こうした形も選択肢に入る、というのが当社の見立てです。

因幡電機産業は、電設資材事業、産業機器事業、自社製品事業を持つ会社で、2013年5月にパトライトを買収しました。パトライトは積層信号灯や表示灯を作るメーカーです。

公表されている案件は、電設業界のM&A事例にまとめました。いずれも公表情報に基づく紹介で、当社が関与した案件ではありません。

電材卸と両方をやっている場合の見せ方

電材と機器の両方を扱う会社では、どちらの軸で買い手を探すかを決めます。

電材卸としての価値は、在庫と物流、地場の工事会社との関係にあります。この論点は電材卸の在庫は、棚卸金額ではなく「年齢」で見られるに、業種ごとの整理は電材卸のページにあります。機器卸としての価値は、ここまでのとおり、メーカーとの契約と技術営業にあります。両方を持っていることが、買い手の価値になる場合もあります。電材だけの商社が機器の契約を求めることも、その逆もありえるからです。売上構成を並べたうえで、どちらの顔で出すかを決めます。誰が買い手になりうるかの全体像は電設インフラの会社を、いま誰が買っているのかにあります。

自社でできる、3つの確認

確認すること見るもの
売上上位3社のメーカーの契約書が手元にあるか契約書の原本、更新の記録
解除、契約上の地位の譲渡、合併・分割、株主・役員の変更に関する条項があるか。承諾は事前か、事後の通知か契約書の該当条項
技術営業を担う人は何人いて、それぞれ何歳か社内の名簿

この三つが書き出せていれば、譲渡の方式を選ぶ前に、選べる道が何本あるかが見えます。契約の個別の解釈は、弁護士に確認してください。

機器商社の代理店契約と譲渡の進め方を相談する

参照した一次資料

よくあるご質問


支配権変動条項が入っているかどうかは、どう確認しますか。
主要メーカーとの代理店契約書・特約店契約書を開いて、契約の解除、契約上の地位の譲渡、合併・会社分割に関する条項を読みます。株主の変動や役員の変更といった言葉があれば、該当する可能性があります。契約書が見当たらない、長く更新していないという場合は、その事実を先に把握しておくことが出発点です。
メーカーに知られずに売却を進められますか。
契約の中身で変わります。支配権の変動に承諾や通知を求める条項があれば、知られずには進められません。条項がなければ、株式譲渡では契約の当事者である法人が変わらないので、法律上は承諾が要りません。事業譲渡では、契約上の地位をメーカーの承諾を得て移すことになります(民法第539条の2)。いずれも、契約書を読んでから決めることです。
事業譲渡だと代理店権は引き継げないのですか。
自動では移りません。契約上の地位は、相手方であるメーカーが承諾したときに第三者へ移ります(民法第539条の2)。承諾を得るか、買い手があらためてメーカーと契約を結ぶ必要があります。代理店権が価値の中心にある会社では、この点が、株式譲渡を選ぶ理由になりえます。
複数メーカーの代理店をしています。全部に話を通す必要がありますか。
契約ごとに確かめます。条項の有無と内容はメーカーごとに違う可能性があります。売上構成の大きいメーカーから、順に契約書を確認して設計するのが現実的です。売上の大半を占めるメーカーと、取引が少ないメーカーを、同じ重さで扱う必要はありません。

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執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)

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