たたむにも、お金と時間がかかります。
長く続けた会社を閉じようかと考え始めたとき、多くの方は譲渡と比べないまま廃業を決めています。廃業はゼロで終わる選択ではありません。決める前に、両方の数字を並べてみませんか。
廃業を考えるのは、無責任ではありません
「もう畳もうか」と考えることに、後ろめたさを感じる方がいます。 従業員に申し訳ない。取引先に迷惑がかかる。親から継いだ会社を、自分の代で終わらせていいのか。
その迷いは、まっとうな感覚です。後継ぎがいない。職人が採れない。自分の体力にも限りがある。 どれも現実で、廃業を視野に入れること自体は、むしろ責任感の表れだと思います。
ただ、決める前にひとつだけ確認していただきたいことがあります。 廃業した場合に手元に残る額と、譲渡できた場合に手元に残る額。 この二つを、並べて見たことはありますか。
多くの方は、片方しか見ないまま決めています。 電気工事業で自主廃業した会社の約半数は黒字だったという調査もあります。 その一件ずつの事情までは分かりません。ただ、比べる前に決めた会社が、この中に含まれていないとは言えないはずです。
廃業は「ゼロで終わる」選択ではありません
「たたむ」という言葉の響きのせいか、廃業は「何もしないで止めるだけ」のように聞こえます。 実際は逆です。廃業は、お金と時間を使って会社を閉じる実行です。
- 在庫・資材・仮設材・工具の処分。産業廃棄物として、費用を払って捨てるものが出ます
- 賃借している事務所・倉庫の原状回復
- 車両・機械の売却。帳簿の値段では売れないことが多い
- 従業員への解雇予告手当と退職金
- 仕掛かり中の仕事の後始末。途中で止められない現場は、誰かに引き継ぐか、赤字で終わらせることになります
- 解散・清算の登記(会社を法的に閉じる手続き)、官報公告、税理士・司法書士への費用
- 借入の返済。返しきれない分は、個人保証を通じて社長個人に残ります
金額は書きません。会社ごとに違いすぎるからです。 ただ、どの項目も手元の資産を減らす方向にしか働きません。 帳簿の純資産がそのまま残ることは、まずありません。
時間も同じです。官報公告には法律で決められた待ち期間があり、 清算の結了(すべての手続きの完了)まで、思い立ってすぐ終えられるものではありません。
譲渡が成立すれば、消えるはずのものが資産に変わります
廃業で消えるもののリストは、そのまま、譲渡で買い手が欲しがるもののリストです。
- 建設業許可や電気工事業の登録。新規に取るには、要件を満たす人と年数が要ります
- 有資格者と職人。採用市場にはほとんど出てきません
- 得意先との取引、仕入口座、施工実績
- 地域で通ってきた屋号
私たちは1950年から電設資材を扱ってきました。資材を納める側から見ていると、 この業界で人と口座と得意先を一から揃えることの難しさがよく分かります。 だから「一から作るより、続けてきた会社ごと引き継ぎたい」という買い手が実在します。 どんな相手なのかはこの会社を欲しがる会社は、いると思いますかに書きました。
従業員の雇用や屋号は、譲渡契約の条件として残す設計ができます。 借入がある場合の扱いは借入があっても売れるかの回で説明しています。
同じ会社が、出口で正反対になります
| 会社にあるもの | 廃業を選ぶと | 譲渡が成立すると |
|---|---|---|
| 建設業許可・登録 | 消滅する | 会社ごと引き継がれる(株式譲渡の場合) |
| 有資格者・職人 | 職を失い、離散する | 雇用ごと引き継ぐ設計ができる |
| 得意先・仕事 | 引き取り先を探すか、途切れる | 取引として続く |
| 屋号 | 消える | 残す条件を契約に盛り込める |
| 在庫・車両・工具 | 費用を払って処分するものが出る | 事業の一部として評価される |
| 事務所・倉庫(賃借) | 原状回復して返す | 契約を引き継げる場合がある |
| お金の流れ | 費用が先に出ていく | 譲渡代金を受け取る側になる |
譲渡の列は、いずれも「買い手が現れ、条件が合えば」という前提付きです。 必ずこうなるという表ではありません。ただ、廃業の列は前提なしにこうなります。
それでも、廃業が合理的なことはあります
ここは正直に書きます。次のような場合、廃業のほうが理にかなっています。
- 清算して手元に残る額が、譲渡で得られる額を上回る場合。不動産を持っていて事業の利益が薄い会社で起こります
- 従業員の行き先がすでに決まっていて、取引先にも代替がある場合
- 事業が社長個人の技能と人脈に完全に依存していて、渡しても続かない場合
ご相談を受けて「たたんだほうがいい」とお伝えすることもあります。 このページの結論は「売るべきだ」ではありません。「比べてから決めたほうがいい」です。 廃業・譲渡を含む選択肢の全体を、 この会社に残された道は、いくつあると思いますかで 例題の会社を使って数えています。
第三の道——両方の見積もりを並べてから決める
「たたむか、売るか」で迷っている状態は、性格や覚悟の問題ではありません。 多くの場合、足りないのは決断力ではなく、二つの数字です。
- 廃業した場合に残る額。 顧問税理士に「いま清算したら、最後にいくら残るか」の試算を頼めます。 在庫や車両の処分、原状回復、従業員への支払いまで含めた数字です。
- 譲渡できた場合に残る額。 企業価値の目安を出す診断で目安が出ます。入力内容は送信されません。 譲渡代金から税金や返済を引いて、最後に手元へ残る額の考え方は 手取りはいくらかの回で最後まで追いかけました。
廃業か譲渡かを先に決めるのではなく、二つの見積もりを先に並べる。 決断はそのあとで十分です。どちらを選んでも、「比べてから決めた」という事実が残ります。 従業員や家族に説明するとき、これほど強い裏付けはありません。
比べた結果、譲渡を検討することになった場合でも、売り手側の費用は成約したときの成功報酬のみです。 相談料・着手金・中間金・月額報酬はいただきません。 見積もりを取ること自体に費用はかからない、ということです。 金額の決まり方は手数料のページに全部書いてあります。
まず、二つの数字を並べるところから
会社を閉じることを口にするのは、勇気の要ることです。 その勇気を、決断の前にもう一歩だけ、数字を集める方向に使ってみてください。
- 企業価値診断 — 譲渡側の目安が出ます。お名前も連絡先も不要です
- 承継準備チェックリスト — 許可や個人保証の状態を確認できます。印刷してそのまま使えます
- 相談する — 「比べ方が分からない」という段階で結構です。廃業のほうが合理的だと思えば、そうお伝えします
売却をお決めでない段階で結構です。 まず、廃業した場合に残る額と、譲渡できた場合に残る額。 この二つの見積もりを並べるところから始めましょう。