計装工事会社の事業承継とM&A
計装工事会社の承継で最初に確かめるのは、どの建設業許可で工事を受けているかです。計装工事業という許可はなく、法律の本文に「計装」の語も出てきません。電気でも管でもない境界の仕事なので、許可の土台が電気か管かで、相性のよい買い手も、社長が退いた日に欠ける要件も変わります。計装士と建設業許可の組み合わせから、会社の値打ちを整理します。
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計装業界の現在地
数字はすべて官公庁・業界団体の一次資料から引用し、出典と年次を明記しています。 他社の記事に流通している出典不明の数値は使いません。
計装の承継で、実際につまずくところ。
許認可と有資格者の整理は、譲渡が成立するかどうかそのものを左右します。 ここを後回しにすると、条件が固まってから話が振り出しに戻ります。
「計装工事業」という建設業許可は存在しない
建設業法の別表第一にある29の業種に、計装工事業はありません。法律の本文に「計装」の語は出てきません。計装工事の会社は、実際の工事の内容に合う許可で受注します。日本計装工業会の正会員要件が挙げる許可は、電気工事業・管工事業・機械器具設置工事業・電気通信工事業の4つです。許可は業種ごとに与えられ(建設業法第3条第2項)、営業所技術者に数えられる資格も業種ごとに決まっています。この整理が曖昧なまま承継すると、譲渡後に受注できない工事や、技術者の足りない業種が出てきます。
直近3年の受注案件を、実際にどの許可で請けたかで分類します。計装の工事を電気の許可で請けているのか、管の許可なのかで、相性のよい買い手も、必要な技術者の資格も変わります。日本計装工業会の正会員の要件(上記4業種のいずれかの許可を受け、計装工事業を営む法人及び個人)も、同業の範囲をつかむ手がかりになります。
経営業務の管理体制を、社長一人で満たしている
建設業許可の基準の一つが、経営業務を適正に管理できる体制です。常勤役員等の一人が、建設業で5年以上の経営業務の管理責任者の経験(または準ずる地位での経験)を持つか、役員経験2年以上を含む常勤役員等に、財務管理・労務管理・業務運営の経験者(許可を受けている会社での5年以上の業務経験が要ります)を直接補佐する者として付けるか、のどちらかです(建設業法施行規則第7条第1号、2020年10月施行)。役員が少ない小さな会社では、満たす人が社長だけ、ということが起こります。その人が退くと要件が欠け、2週間以内の届出が必要で、代わる者や体制がなければ許可は取り消されます。取消しは行政庁の裁量でなく義務です(建設業法第11条第5項・第29条第1項第1号)。
承継の設計の段階で、許可申請書の控えを開き、誰がどちらの形で要件を満たしているかを確かめます。社長だけの場合は、社長が株式譲渡のあとも常勤役員として残るか、経験者を常勤役員に迎えるか、補佐者のルートで社内の経験者を補佐者に置くか、のどれかを選びます。残っていただく期間は、後任が必要な経験を積む年数から逆算するもので、あらかじめ決まった年数はありません。許可が欠けると承継後に請けられる工事が止まるので、買い手が最初に確かめる項目です。
営業所技術者(旧:専任技術者)に、計装士がどう数えられるか
営業所ごとに営業所技術者を専任で置くことが、許可の基準です(建設業法第7条第2号。2024年12月13日施行の改正で、条文上の名称が専任技術者から営業所技術者に変わりました)。1級計装士(登録計装試験の合格者)は、合格後に電気工事または管工事について1年以上の実務経験があれば、その業種の営業所技術者・主任技術者になれます(建設業法施行規則第7条の3)。日本計装工業会は、この実務経験1年で電気工事業と管工事業の両方の技術者になるわけではない、と通知しています。機械器具設置工事業と電気通信工事業には、登録計装試験の合格者の経路が規則にありません。この2業種は、登録計装基幹技能者などの別の経路で数えます。なお、元請として下請に5,000万円以上を出す特定建設業の許可では、電気工事業・管工事業は指定建設業のため、営業所の技術者も現場の監理技術者も1級の国家資格者等に限られます。計装士の資格だけで足りると考えると、ここで行き詰まります。
計装士一人ひとりについて、1級か2級か、登録計装試験の合格日、合格後に電気と管のどちらで実務を積んだかを一覧にします。2級計装士は、規則の営業所技術者の経路に入っていません。この一覧で、営業所ごとに、どの許可の技術者が誰で足りているかが分かります。現場との兼任の運用も確かめます。専任を要する工事(請負代金4,500万円以上など)には、2024年12月13日から、その営業所で契約した1億円未満の工事を1現場に限り兼ねられる特例があります。専任を要さない工事で営業所に近い現場を兼ねる従来の運用も続いていますが、両者の併用はできません。営業所を統廃合する案では、統合後に専任の技術者が残るかを先に検証します。
計装士が社長本人で、他に代わる人がいない
計装士の資格は個人に付き、会社には移りません。社長が計装士で、同じ業種の技術者の要件を満たす人が他にいない場合、社長の退任は、その営業所の技術者の要件が欠けることを意味します。2週間以内の届出が必要で、代わる者がいなければ許可は取り消されます。また計装士は、5年目ごとの技術維持講習の受講が義務で、理由なく拒否すると日本計装工業会の登録が抹消されます。
社長のほかに、同じ業種の技術者の要件を満たす計装士や施工管理技士が営業所にいるかを確かめます。いなければ、社長が残る期間を契約で決めるか、承継の前に有資格者を確保します。1級計装士の受験には、計装工事の設計・施工の実務経験が5年以上必要なので、新たに育てるには年数がかかります。技術維持講習の受講状況も、有資格者の一覧とあわせて確認します。
売り方で、許可の扱いが変わる
株式を譲渡する場合、許可を持つ法人は変わらないので、承継の認可は要りません(役員などに変更があれば30日以内に変更届)。事業譲渡・合併・分割は、あらかじめ許可行政庁の認可を受けると、譲受人が譲渡の日に建設業者の地位を承継し、許可の空白が生じません(建設業法第17条の2)。この認可では、譲受人も経営業務の管理体制と営業所技術者の基準を満たすことが求められます。電気工事業の許可を持ち、電気工事にあたる工事も行っている会社は、建設業許可とは別に、電気工事業法の届出(みなし登録の開始・変更・廃止)も要ります。
許可の業種ごとに、売り方の候補を並べます。買い手が許可を持たない場合、事業譲渡では買い手側に人の要件が要り、株式譲渡では売り手の会社の人が残る必要があります。認可の標準処理期間は、国土交通大臣許可で書類到達からおおむね90日です。知事許可は都道府県ごとに定められているので、営業所のある都道府県で確認し、そこから契約日を逆算します。
ここまで読んで「うちはどうだろう」と思われたら、 そこがご相談のタイミングです。
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許可・登録を、もっと詳しく
決算書に出ない、計装の値打ち。
計装士の在籍人数と、どの業種の技術者に数えられるか
計装士は、1級が国土交通大臣の登録を受けた試験(登録計装試験)、2級が日本計装工業会の技術審査で、いずれも日本計装工業会が実施します。1級は、合格後に電気工事または管工事の実務が1年あれば、その業種の主任技術者・営業所技術者に数えられ、経営事項審査でも技術職員として評点に加わります(1人につき申請できる業種は2つまで)。
1級の受験に実務5年が要るので、有資格者は採用で急に揃えにくい人たちです。その時間を買う目的で、会社ごと取る買い手がいます(東テクが三王機工を子会社化した2025年2月の開示は、技術人員の不足を理由に挙げています)。ただし資格が技術者として数えられるのは電気か管の一方なので、買い手が欲しい業種の許可の技術者になっているかを見ます。
保有している建設業許可の組み合わせ
計装工事は単独の許可業種ではありません。日本計装工業会の正会員要件が挙げる許可は、電気工事業・管工事業・機械器具設置工事業・電気通信工事業の4つです。どの組み合わせを持っているかで、請けられる仕事の幅が決まります。登録計装基幹技能者は、2024年3月25日の告示で、この4業種の登録基幹技能者になりました。
許可は、その業種の工事を請けられる範囲そのものです。買い手が持っていない業種の許可を、技術者ごと補えるなら、それが買収の動機になります。空調のサブコンなら管、盤メーカーなら電気、というように、許可の業種で相性のよい買い手が分かれます。
既設の制御システムと、更新案件の継続性
プラントやビルの自動制御は、機器の寿命と制御方式の世代交代で、更新の時期が来ます。納入先の物件ごとに、制御システムの機種、導入した年、保守契約の有無を並べた台帳があれば、更新時期の早い順に、将来の受注を見通せます。
既設の物件リストは、買い手にとって、確度の高い将来の売上の根拠になります。更新の時期は物件ごとに違うので、物件数が多いほど売上が平らになります。台帳が担当者の記憶にしかないと、その人が辞めた時点で根拠が消えるため、買い手は台帳の有無を先に確かめます。
対応できるメーカー・システムの幅
横河・アズビル・オムロン・三菱などの、どのメーカーのDCS・PLCを扱えるか。メーカーの施工認定やパートナー制度の有無も、受注できる範囲に影響します。
既設のシステムは、機種ごとにエンジニアリングツールと通信方式が違い、触れる会社が限られます。買い手が自社では入れない物件に入れるなら、機種への対応力が、そのまま参入の足がかりになります。
設定値と調整記録の所在
現場ごとの最終的な設定値や調整の履歴が、図面や記録に残っているか。特定の技術者の頭の中だけにあるか。
記録がないと、買い手は引き継げるかどうかを判断できません。記録は売却が決まってからでは間に合わないので、今から残し始めれば形になる準備です。
計装を、誰が買うのか。
売り手の方が最初に知りたいのは価格ではなく、「本当に相手がいるのか」です。 この業種の買い手になりうる会社を、類型ごとに整理しました。
サブコン・設備工事会社
当社の見立てです(公表事例で確かめた対応ではありません)。空調・電気の設備工事会社が、制御まで一貫して請けられる体制を作るために、計装会社を取り込む形が考えられます。空調側は管工事の許可を軸にした計装会社、電気側は電気工事の許可を軸にした計装会社というように、許可の業種で相性が分かれます。
プラントエンジニアリング会社
当社の見立てです。化学・食品・製薬などのプラント案件で、計装の施工力を内製化する狙いが考えられます。プラント機器の据付・調整に強い、機械器具設置工事業の許可を軸にした計装会社が候補になります。
盤メーカー(制御盤製造)
当社の見立てです。盤を作る側が、据付・調整・試運転まで一貫で請けられるようにする統合が考えられます。制御盤・配電盤メーカーの買い手と重なる層で、電気工事業の許可を軸にした計装会社と相性がよい形です。
計装メーカー系列・商社
当社の見立てです。計器メーカーやその販売代理店が、施工まで押さえるケースが考えられます。公表事例として確認できているのは、計装・エネルギー・設備機器販売を営む東テクが、計装工事会社の三王機工を子会社化した例(2025年2月)です。
この業種では、実際に買い手が動いています。
各社の公表情報のまとめであり、当社の成約実績ではありません。
2025年2月
東テク〈9960〉 が 三王機工株式会社 を譲受
計装事業、エネルギー事業、設備機器販売事業を営む会社 → 兵庫県神戸市。計装工事事業とメンテナンス事業。議決権の100%(自社株除く)を取得し、子会社化。取得価額は非公表
開示された目的は、計装業界で技術人員の不足が続くなか、技術人員を多数擁する三王機工をグループに加え、計装工事事業の業容拡大と陣容強化を図ることです。株式譲渡の実行日は2025年4月1日の予定とされていました。技術者の確保を、採用ではなく会社の取得で進めた事例と読めます。
最初の一歩は、匿名の相談で結構です。
- 1
匿名でご相談
社名の入力は任意です。売却をお決めでない段階のご相談を歓迎します。相談に費用はかかりません。
- 2
許認可と有資格者の棚卸し
計装工事の承継で最初に確認すべき許認可・資格の状況を整理します。ここに問題があると後の工程がすべて崩れるため、最優先で行います。
- 3
企業価値の整理と資料づくり
決算書に出ない価値を、買い手に伝わる形の資料に整えます。ここが評価額を最も大きく動かします。
- 4
買い手候補の選定と打診
打診してほしくない先を最初に伺い、候補から外します。秘密保持契約を結ぶまで、社名や所在地は買い手候補に伝えません。
- 5
条件交渉・最終契約・引き継ぎ
価格だけでなく、従業員の雇用、代表者保証の解除、引き継ぎ期間まで含めて条件を設計します。
計装業界の主な団体
- 一般社団法人 日本計装工業会
- 正会員要件は「建設業の規定に基づく電気工事業、管工事業、機械器具設置工事業、及び電気通信工事業の許可を受け、計装工事業を営む法人及び個人」。1級計装士の登録計装試験、2級計装士の技術審査、登録計装基幹技能者講習を実施している
- 計装士会
- 1級・2級計装士の有資格者による任意団体(1997年設立)。日本計装工業会とは別に独立して運営されている
計装の承継について、よくいただく質問。
計装専業ではなく、電気工事も管工事もやっています。対象になりますか。
会社を売ったらすぐ引退したいのですが。
1級計装士は、電気工事業と管工事業の両方の技術者になれますか。
社長が計装士で、辞めたら会社はどうなりますか。
既設物件のリストは出したくないのですが。
川上と川下も、まとめて見ています。
電材卸から電気工事、盤の製造、計装まではひとつの商流です。 だから、業種をまたいで買い手をお探しできます。
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