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後継者がいない

後継者がいない電気工事会社に残る道は4つ。それぞれが何で止まるか


息子さんは別の道へ。番頭さんは年齢が近い。社員に株を買う資力はない。こうした会社は、建設業で57.3%と多数派です(帝国データバンク、2025年)。残る道を、条件だけでなく、止まりやすい所まで並べます。

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「うちには誰もいない」には、三つの形があります

  • 息子や娘は別の会社に勤めていて、継ぐ意思がない。無理に呼び戻す気にもなれない
  • 現場を任せられる番頭格はいる。ただ、自分と年齢が近い。継いでもらっても、すぐ次の承継が来る
  • 若い社員はいる。ただ、株を買い取る資力はないし、借入の個人保証を背負わせるのは忍びない

自分の責任のように感じる方は、いるでしょう。「もっと早くから育てておけば」と。 数字は、少し違うことを示しています。

後継者がいない会社は、全国の多数派です

全国の後継者不在率は50.1%、半分の会社に後継者がいません。建設業は57.3%で、調査した8業種のうち最も高い数字です(2025年、帝国データバンク)。 電気工事会社も、この建設業に含まれます。 電気工事業だけの不在率は公開資料にありませんが、国土交通省の令和6年度建設業構造実態調査では、後継者問題を経営上の課題に挙げた電気工事業者が38.77%いました。 課題の1位は人材不足の78.92%で、後継者問題は上位5位の最後に入っています。

2025年に代表者が交代した企業の承継の手段は、社内の昇格が36.1%、親族が継ぐ同族承継が32.3%、M&Aなどが20.6%、外部からの招聘が7.6%でした(帝国データバンク)。 「会社は子が継ぐもの」という前提は、実態からすでに外れています。

後継者がいないことは、倒産の理由にもなっています。後継者難を理由にした倒産は、2025年に503件で3年連続の500件超でした。建設業が120件で業種別の最多です。 2026年1〜6月は312件で、集計を始めて以来初めて300件を超えました(帝国データバンク)。

道は4つ。止まる所が、それぞれ違います

道 会社と屋号 気持ちの面 現実に止まるところ
親族内承継 残る いちばん収まりがよく見える 本人に意思がなければ、そもそも始まらない
従業員承継 残る 「あいつなら」と思える相手に渡せる 株を買う資金と、借入の個人保証
第三者承継(M&A) 残せる 「身売り」という言葉が引っかかる 相手が現れるかどうか。探す期間が数か月から1年ほど要る
廃業 消える 誰にも頭を下げずに終われるように見える 従業員と取引先の行き先。費用も先に出る

条件や費用の面は、この会社に残された道は、いくつあると思いますかで、 ひとつの会社を例に最後まで数えています。このページでは、止まる所を順に見ます。

親族と社員は、人はいるのに動かない理由があります

親族内承継は、「継いでほしい」と「継ぎたい」が揃わないところで止まります。 息子さんの「継がない」という返事は、迷った末の結論であることが多いものです。 返事を覆そうとするより、返事を前提に、残りの道を並行して準備するほうが、会社にも親子の関係にも負担が少なくなります。 中小M&Aガイドラインには、後継者候補が承継を拒んだためにM&Aへ移って成立した事例が挙がっています(28ページ)。

従業員承継は、意欲ではなく、株と保証で止まります。 会社を継ぐとは、社長の椅子に座ることではなく、株を持つことです。株には値段が付き、借入には個人保証が付いてきます。 保証については、国の側が動いています。経営者保証ガイドラインの特則は、後継者に当然には保証を求めず、必要性を慎重かつ柔軟に判断することを金融機関に求めます。 金融庁の集計では、民間金融機関の新規融資のうち、経営者保証に依存しない融資の割合は55.7%(2025年度)で、前年度の52.9%から上がりました。 株の渡し方にも注意が要ります。法人版事業承継税制の特例措置は、親族外の後継者も対象ですが、対象は贈与と相続による株の取得で、売却には使えません。 特例承継計画の提出期限は2027年9月30日です。個別の税額と可否は、顧問税理士にご確認ください。

番頭さんの年齢が近い、という悩みについて

「継いでもらっても10年もたない」と、この道を最初から消してしまう方がいます。 ただ、建設業許可の経営業務の管理責任者の要件は、役員としての経験年数で数えます。 番頭さんを早く役員に入れるほど、要件を満たせるまでの年数が短くなり、社長以外にも要件を満たす人がいる状態に近づきます。 継がせない場合でも、第三者に渡す場合の会社の評価を支える一手です。

廃業は、静かに見えて、費用と届出が先に出ていきます

誰にも会社を渡さず、自分の代で始末をつける。責任感の強い方ほど、この道を潔いと感じます。 ただ、廃業には、在庫の処分、原状回復、従業員への解雇の予告、解散と清算の手続き、許可と登録の届出が付いてきます。 清算の官報公告だけで2か月を下回れず、国のガイドラインは、判断が遅れて廃業費用すら出せなくなる場合もあると書いています。 費用の項目と、廃業と譲渡で手元に残る額の計算は会社をたたむか売るかに、 届出の手順は廃業届・廃止届を出す前ににあります。

廃業が合理的な会社はあります。清算して手元に残る額が譲渡を上回る会社や、従業員の行き先が決まっている会社です。 4つの道を並べて比べたうえで選んだ廃業と、1つしか見ずに選んだ廃業は、同じ廃業でも中身が違います。

第三者承継は、親族にも社員にも頼らずに会社を残す道です

第三者承継(M&A。会社の株式などを別の会社に譲り、経営を引き継いでもらうこと)は、4つの道の中で、継がせる相手が社内にいなくても会社を残せる唯一の道です。 株主と経営者だけが替わり、屋号、従業員の雇用、取引は続けられる形があります。条件は最終契約で決めます。

買い手がいるのか、という疑問には、人手の事情が答えになります。 経済産業省が令和6年度に電気工事業者へ行ったアンケートでは、電気工事士などの人手が「大いに不足」か「やや不足」と答えた事業者が7割でした。 6割超が採用活動をしていますが、8割近くが採用の目標に届いていません。 採用市場に出てこない有資格者と職人を、会社ごと引き継げることは、買い手にとって採用の代わりになります。 誰がなぜ買うのかはこの会社を欲しがる会社は、いると思いますかに書きました。

公的な窓口の実績も出ています。事業承継・引継ぎ支援センターの令和7年度の新規相談者は24,030者で、開設以来初めて24,000者を超えました。 第三者承継(M&A)の成約は2,265件で、過去最多です。 相談は無料で秘密厳守と、各県のセンターが案内しています。

後継者人材バンクは、創業を希望する個人に引き継ぐ仕組みです

後継者人材バンクは、後継者不在の会社と、創業を希望する個人とのマッチングです。 中小M&Aガイドライン(第3版)は、対象を「主として個人事業者」と説明しています(62ページ)。 中小機構は、令和7年度の成約を114件で過去最多、新規登録者(創業希望者)を1,472者と公表しています。 法人の電気工事会社が使えるかどうかは、各県のセンターに確かめたうえで、許可と資格者の要件を、創業希望者が満たせるかで決まります。 許可や登録の扱いは許可・登録の承継で確かめてください。

どの道を選ぶ場合も、先に確認しておくこと

建設業許可の経営業務の管理責任者の要件を、社長以外にも満たす人がいますか。 社長だけが満たしている会社では、社長の退任が許可の期限になります。 要件の満たし方は2020年10月に広がっています。制度の中身は 経営業務の管理責任者が退任・死亡したら|建設業許可を残す3つの手と2週間の期限をご覧ください。

どの道を選ぶにしても、数える順番は同じです

まず、自社に何が残っているかを数えます。親族に意思があるか。社内に株と保証を引き受けられる人がいるか。 渡せる価値(許可、有資格者、取引先、仕入口座)が何本あるか。清算したら、いくら残るか。 どれを選ぶかは、数えたあとで決めれば足ります。

数えるための道具は用意してあります。 企業価値の目安を出す診断は、入力内容が送信されず、お名前も不要です。 承継準備チェックリストは、印刷してそのまま社内でお使いいただけます。 電気工事会社に固有の論点は電気工事会社の事業承継とM&Aに、 個人保証の扱いは会社を売ったら社長の個人保証は外れるかにまとめました。 売り手の方からいただく費用は、成約した場合の成功報酬のみです(手数料のページ)。

状況ごとのほかのページは会社を売る・継がせる・たたむに一覧があります。 ご家族に話せていないときは家族に、まだ話せていないへ。 売却をお決めでない段階で結構です。自社に残っている道を数えるところから、ご相談は始められます。

このページの数字の出典

  • 帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」:tdb.co.jp
  • 帝国データバンク「倒産集計 2025年報」「倒産集計 2026年上半期報」:2025年報、2026年上半期報
  • 国土交通省「令和6年度建設業構造実態調査」(表8-1-1):mlit.go.jp
  • 経済産業省 電気保安制度WG(第16回)資料1-2(令和6年度の電気工事業者へのアンケート、2026年2月、23ページ):meti.go.jp
  • 中小機構「令和7年度 事業承継・引継ぎ支援センターの実績について」:smrj.go.jp/各県のセンターの案内:shoukei.smrj.go.jp
  • 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(本文28・47・62ページ):meti.go.jp
  • 金融庁「『経営者保証に関するガイドライン』等の活用実績(2025年度)」:fsa.go.jp/全国銀行協会掲載の特則:zenginkyo.or.jp
  • 中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」:chusho.meti.go.jp

「まだ決めていない」で、かまいません。

話を聞いたからといって、進めなければいけないことはありません。

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