社長が会社に貸したお金は売却時に戻る?役員借入金と、引継ぎ後に残す運転資金
記事中のモデルケースは、理解を助けるための架空の例です。 当社の成約実績ではありません。
資材の支払が先になった月、工事代の入金が遅れた月。そのたびに社長が個人の口座から会社へお金を入れてきたとしたら、引退を考えたときに気になるのは、そのお金の行方でしょう。会社を売る日に返してもらえるのか。提示された売却価格には、返済分も入っているのか。
役員借入金は、売却の話とは別に残高と扱いを確かめる必要があります。全額返済が決まっているものとして引退後の資金計画に入れる前に、誰が、誰へ、何のお金を払うのかを整理しましょう。
社長には貸付金、会社には借入金
社長から会社へ貸したお金は、会社の帳簿では通常「役員借入金」などの負債になります。社長から見ると、会社に返してもらう権利である貸付債権です。逆に、会社から社長へ貸しているものが「役員貸付金」。まず、お金の向きを確かめてください。中小機構のJ-Net21も、この区別と返済義務を説明しています。
社長が株主である場合も、株式の譲渡代金と、会社から受け取る予定の返済額は、別の欄で確認しましょう。
「株を渡す話が決まったから返済も決まった」とは考えず、貸付金についてどのような条件になっているかを契約ごとに見ます。
株式譲渡では何株をいくらで譲るか、事業譲渡ではどの資産・負債をいくらで引き継ぐかを確かめます。日本政策金融公庫の案内でも、これらは譲渡契約の主な項目に挙げられています。社長への返済については、誰が支払う予定なのか、提示された譲渡代金に含めているのかを、別に確認してください。
「社長の分」と呼んでいた残高を確かめる
最初に用意したいのは、最新の決算書だけでなく、役員借入金の内訳と、その後の増減です。次の項目を一つの一覧にする方法を提案します。これは相談準備用で、債権の存在をこの一覧だけで確定するものではありません。
- 貸した人の氏名と、会社が借りた日
- 元金の残高、その残高を確認した日
- 契約書、振込記録、立替の領収書などの所在
- 利息、返済期限、これまでの返済状況
- 帳簿と資料が一致しない部分、確認が必要な部分
たとえば、配偶者の立替や先代の時代の残高をまとめて「社長の分」と呼んでいるとしたら、誰のお金だったかを確かめるところから始めます。
これは確認のための仮定です。現在、誰が返済を受ける権利を持つのか、誰の合意が必要なのかは、資料を基に専門家へ確認してください。
古い書類がないところは、記憶で金額を埋めず、確認できる入出金からたどります。過去の日付の契約書を作って、当時から書類があったように見せる必要はありません。資料が足りない箇所を税理士や弁護士に見せ、何を確認すればよいかを聞くほうが着実です。
返す、譲る、残す。扱いごとに合意する内容が違う
ここでは、会社から決済時に返済を受ける案と、売却後も返済を受ける案を分けて、確認事項を考えます。債権の譲渡など別の提案を受けた場合も、返済と同じ欄にまとめず、条件を見比べます。以下は相談準備のための整理案であり、個別案件で選べる方法や実行条件を確定するものではありません。
会社が決済前や決済日に返す案なら、返済額、支払日、振込先に加え、その資金をどこから用意するのかを明らかにします。買い手が会社へ資金を入れる案であっても、「買い手が用意する予定」のままでは実行条件が決まりません。資金の出し手と会社の間の条件も確認します。
貸付債権を買い手などへ譲る提案を受けた場合は、対象となる債権、譲渡後に返済を受ける予定の人、社長へ支払う対価を確認します。帳簿の残高と提案された対価が同じかどうかも、書面で見比べましょう。必要な契約・手続や税務上の扱いは、実行前に専門家へ確認してください。
売却後も会社から返済を受ける案なら、いつまで、どの条件で受け取るかが残ります。
社長を退いた後の回収について、事業計画だけでなく契約と会社の支払余力を確認します。「いずれ返す」という言葉だけで合意を終えないようにしたいところです。
債権放棄を提案された場合も、帳簿を見やすくするために先に残高を消す、という進め方は避けてください。中小機構の前記案内は、債権放棄に伴う債務免除益にも注意を促しています。会社側・個人側で何を確認すべきか、返済を受ける案とどう違うのかを、税理士や弁護士へ相談しましょう。本稿は個別の課税・損失計上の可否を示すものではありません。
条件がまとまったら、返済についての合意とM&A契約の記載が対応しているかを、専門家と確認します。日本政策金融公庫の前記案内も、最終的に合意した条件を契約書に記載し、専門家の支援を受けることを勧めています。口頭で聞いた条件を、誰が確認し、どの書面へ反映するかまで決めておきましょう。
価格の欄と、返済の欄を別にして読む
買い手から届いた「譲渡価格」の数字を見たら、その計算で役員借入金をどう扱っているかを尋ねてください。返済前の状態を前提にした株式価格なのか。返済後に会社の預金が減る状態を前提にしているのか。貸付債権の譲渡代金まで含めた総額なのか。
この前提が分からないまま、株式価格へ役員借入金の残高を足すと、受取額を見誤るおそれがあります。比較するときは、株式の対価、借入金の返済、債権譲渡の対価について、支払う人、受け取る人、日付を分けてください。税金や手数料も、どの支払に関するものかを確認します。
そのうえで会社側の預金残高を追います。
たとえば、社長へ返済した後に電材仕入、協力会社への外注費、給与の支払が続き、工事代の入金はさらに後になるという場面です。これは資金の順番を考えるための仮定ですが、返済日の残高だけでは見えない問題があります。
確認したいのは、次の支払が集中する日に会社へいくら残るか。将来の入金には、日付と金額が確定したもの、検収待ちなどでまだ決まっていないものを分けて書きます。資金が足りない見通しなら、返済条件や資金調達を決める前に、関係者との調整が必要です。社長への返済とは別に、銀行借入の個人保証についても確認欄を設けましょう。日本政策金融公庫の前記案内では、保証債務や担保権の抹消も譲渡契約の主な項目に挙げられています。
決済日まで、残高の増減を追える状態にする
売却交渉中にも、社長の立替や一部返済が続くことがあります。
最初に確認した残高から何が増減したかを記録し、最終的な清算額に反映する方法を決めておきましょう。金額が合っていても、振込名義や受取人が違えば、確認作業は残ります。
まずは借入の内訳と入出金の資料を集め、承継準備チェックリストと一緒に確認してみてください。全部を整理し終えるまで相談を待つ必要はありません。
社長が会社に貸したお金をどう扱いたいか、その希望から始められます。無料相談では、残高、返済を希望する時期、確認できていない資料を分かる範囲でお伝えください。会社を売るかどうかを決める前に、株式と貸付債権、それぞれの引継ぎ条件を整理する入口になります。
返済と並行して会社に残す資金は、借入がある会社の承継準備も合わせて確認してください。
参照した一次資料
- 中小機構のJ-Net21 (2026年10月19日確認)
- 日本政策金融公庫の案内 (2026年10月19日確認)
知りたかったことは分かりましたか
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)