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M&A会社から手紙や電話が来たら|怪しい仲介を見分ける5項目と、角の立たない断り方

M&A会社から手紙や電話が来ても、御社が売りに出たことにはなりません。東京商工リサーチの2025年10月の調査では、回答した企業の82.6%が、仲介業者から何らかのアプローチを受けた経験がありました。同じ調査で、自社の売却を検討していると答えた企業は4.8%です。怪しい相手かどうかは、国への登録の有無、手数料の算定基準が書面で出るか、断ったあとに止まるかの3点で見当がつきます。名乗りと情報の扱いを足すと、確かめる項目は5つになります。

たとえば、請求書の束に混じって白い封筒が1通、代表取締役宛に届く。差出人は聞いたことのない社名で、中身は「資本提携のご提案」。経理を預かる奥さんが、先に開けてしまった。

売る気があって届いた手紙ではありません。それでも、読んでしまった側には「うちは何か見られているのか」という重さが残ります。

手紙が届いたことは、売る意思の証拠にならない

手紙が届くのは、売りたいと言ったからではない。

東京商工リサーチの調査(2025年10月1〜8日、有効回答6,347社)では、仲介業者からのアプローチを受けたことのある企業が82.6%、大企業で77.7%、中小企業で83.0%でした。一方、自社の売却を検討している企業は全体で4.8%、中小企業で5.2%です。受けた経験のある企業の割合に比べ、売る気のある企業の割合はずっと小さい。手紙や電話は、売る意思を確かめる前に出されていると見るのが自然です。

電話や郵送、メールで特定の相手に直接届く広告は、M&A支援機関協会の規程で「特定広告」と呼ばれ、会員向けの独自ルールで規律されています。規制を求める声も強く、M&Aに「規制強化が必要」と答えた企業は、帝国データバンクの2025年1月の調査(有効回答10,935社)で59.4%でした。

確かめる5項目は、どれも公開データか書面で答えが出る

項目確かめ方根拠
1. 登録の有無国の登録制度のデータベースで社名を検索する中小企業庁の登録制度
2. 手数料の基準料率、最低手数料、算定基準額、支払時期を書面で出してもらう中小M&Aガイドライン第3版
3. 名乗り会社名、担当者の実名、誰の依頼で連絡したかを聞くM&A支援機関協会 広告・営業規程
4. 情報の扱い自社の情報をどこまで出すかを、書面で決めてから渡す同規程、個人情報保護法
5. 断ったあと断ったあとに止まるか、即答を迫られないか同規程、国の注意喚起

3つは相手に聞けば足り、2つは国のデータで自分で調べられる。

1. 登録の有無は、国のデータベースで誰でも確認できる

M&A支援機関登録制度のホームページ(ma-shienkikan.go.jp)に、登録支援機関のデータベースがあります。社名で探せて、手数料体系も載っています。中小企業庁の資料は、契約を検討する相手がどこに登録されているかを、このデータベースで確認するよう勧めています。ガイドラインの遵守を宣言した機関には「第3版対応」の表示も付きます。

登録は2026年9月24日時点で3,362件です(法人2,590、個人事業主772。月ごとに変わります)。ただし、登録があれば安心とは言えません。中小企業庁自身が、登録支援機関でも支援の質は異なると書き、データベースは各機関の自己申告をもとにしていると断っています。内訳を見ると、M&A支援の専従者が「1〜2人」の機関が1,687件で全体の約半数、「0人」の機関も828件あります。設立が2020年代の機関は2,077件で、約6割です(割合は当社計算)。

登録は信頼の証明ではなく、確かめる入口にすぎない。

登録がない場合の注意点が一つあります。国の情報提供受付窓口は、情報を寄せられた支援機関が未登録のときは、窓口で対応しにくい場合があると注記しています。つまり、困ったときに国の窓口の守備範囲に入らないことがある相手です。

2. 手数料は、料率より先に算定基準と最低手数料を書面で出させる

「成功報酬は5%」と聞いて安心すると、あとで差が出ます。9月1日の国の公表資料に、そのまま事例が載っています。成功報酬は売却代金の5%と聞いていたのに、最低報酬金額が適用されて、想定より高い手数料になった例です。中小企業庁のチラシは、報酬率のほかに、最低手数料、報酬を算定する基準額(譲渡額か総資産額か)、発生するタイミングを確認するよう求めています。契約書の専任条項、テール条項、直接交渉の制限も同じ確認事項です。

「5%」を聞く前に、最低手数料と基準額を聞く。

中小M&Aガイドライン第3版は、仲介者に契約前の書面説明(17項目)を求めています。口頭で「後で説明します」と言う相手には、書面で出してほしいと伝えて構いません。基準の違いで支払額が変わる仕組みは、レーマン方式の基準を見るで、当社の手数料は手数料のページで、買い手側の分まで公開しています。国の登録制度のサイトには、株式価値と手数料の簡易計算ツールもあります。

3. 会社名と担当者名を名乗らない相手は、そこで切ってよい

M&A支援機関協会の広告・営業規程は、広告の中で会社名や屋号など、広告主体を特定できる名称を示すよう会員に求めています。広告主体を偽ったり隠したりして誘導することも、禁止です。さらに、買い手候補が関心を持っているかを確認していないのに、そういう企業がいる、依頼を受けていると偽ることも禁じています。

電話口で「ある上場企業様が御社に関心をお持ちです」と言われたら、確かめることは決まっています。会社名、担当者のフルネーム、その関心を持つ企業はどう確認したのか。答えがあいまいなら、そこで切って構いません。担当者の資格や経験年数を聞くことも、国のチラシが挙げている確認事項です。

社名と担当者名を言えない相手に、決算書の数字は渡さない。

4. こちらの情報を、どこまで出すかを書面で決める

面談で数字を聞かれても、秘密保持の取り決めが済む前に決算書や取引先の名前を出す必要はありません。協会の規程は、会員に、広告や営業を通じて依頼者の秘密情報が漏れないよう注意を払うことを求めています。ただし規程が縛るのは協会の会員だけで、会員は2026年9月30日時点で272社(協賛会員を含む)です。会員でない相手には、規程の保証がありません。

宛名が代表者個人のお名前なら、個人情報保護法の対象にもなります。本人は、事業者が保有している自分の個人データの開示を請求できます(第33条)。利用の停止を請求できるのは、法の定める違反があるときなどに限られます(第35条)。使える場面は限られるので、請求の可否は個別の事情で変わります。

5. 断ったあとも続く営業と、即答を迫る営業は、国も協会も問題にしている

協会の規程は、特定の相手に向けた広告で、契約するかどうかを判断する時間を与えず即答を迫ること、契約しない旨や営業を受けたくない旨を示されたのに続けること、迷惑な時間帯や長時間の対応を強いることを禁じています。ただし規程は、「すべての広告・勧誘を将来にわたって拒否する」といった明確な意思表示がない限り、将来にわたる広告がすべて禁じられるわけではない、とも書いています。「今回は結構です」では足りず、「今後も不要です」まで言い切る理由は、ここにあります。2024年5月の国の周知文も、契約しない意思を示したのに続く営業が散見されると書きました。

この5項目は、当社にもそのままあてはまります。当社も仲介を営む立場ですが、M&A支援機関登録制度には登録していません。1項目目は満たしていないということです。手数料と登録の状況は手数料のページに出しています。

断る言い回しは、短く、記録が残る形にする

法律の面で、一つ知っておいてください。特定商取引法には、断られたら再び勧誘してはならないという規定があります(訪問販売は第3条の2、電話勧誘販売は第17条)。ところが同法は、営業のために結ぶ契約には適用されないと定めています(第26条第1項第1号)。会社宛のM&Aの営業は、原則としてこの規定の外にあります。止める力になるのは、国の指針と、業界団体の自主規制と、こちらが出す意思表示の記録です。

断る意思は、言うだけでなく、記録に残る形で伝える。

9月1日の国の公表は、注意を受けた1社に対して、営業先が停止の意思を示したときの記録基準をつくり、記録して、組織で共有する体制を求める通知を出したと書いています。「今後の案内は不要です」と伝えた日時と相手が書面やメールに残っていれば、相手がその基準どおりに動いているかを、あとから確かめる材料になります。窓口に知らせるときの証拠にもなります。

電話

「ご連絡ありがとうございます。当社はM&Aを考えていません。今後は電話、郵送、メールのいずれも、ご案内は不要です。念のため、御社名とお名前を教えてください。」

社長が不在のときの事務の方や、電話に出たご家族向けには、さらに短くできます。

「社長は不在です。M&Aのご案内は受けない方針ですので、今後のご連絡はお断りします。会社名とお名前をお願いします。」

切ったあとに、日時、社名、担当者名、用件を紙に1行メモしてください。電話番号は着信履歴に残ります。

手紙・FAX

返事は書かなくて構いません。止めたいときは、短い書面を1通、書留かFAXで送ります。

拝啓 貴社からのご案内を拝受しました。当社はM&Aを検討しておりません。今後、郵送、電話、FAX、メールのいずれによるご案内も不要です。本書をもって、営業を受けたくない旨をお伝えします。  令和 年 月 日 (社名・代表者名)

控えを取り、届いた手紙は封筒ごと保管します。

メール・問い合わせフォーム

件名:ご案内停止のお願い / 本文:「ご連絡をいただきましたが、当社はM&Aを検討していません。今後のご案内は、メール、電話、郵送とも不要です。このメールを、停止の申し出として記録してください。」

メールは、送った日時がそのまま記録になります。「聞くだけでも」と言われたら、「検討の予定がないので結構です」と同じ文を繰り返してください。理由を説明するほど、反論の余地を渡します。

断っても止まらないとき、窓口は2つある

国の窓口は、M&A支援機関登録制度の「情報提供受付窓口」です。ホームページのフォームから、匿名でも情報を送れます。9月1日の公表は、同窓口で受けた情報が、登録支援機関へのヒアリングや、注意、対策の指示、場合によっては社名公表や登録取消しに使われると書いています。窓口に知らせたことだけを理由に、仲介契約の秘密保持義務違反として不利益に扱わないことを、登録支援機関は登録時に誓約しています。

この窓口は、紛争の解決や個別の助言をするところではありません。調査の有無や結果を知らせてもらえるわけでもありません。

その9月1日、中小企業庁は、過去に注意を受けていた登録支援機関1社(東京都)について、営業先が示した停止の意思が適切に反映されずに営業が行われたとして、改めて注意を出したと公表しました。社名は出さず、所在地の都道府県名だけが公表されています。同様の事案が再び確認されれば、社名の公表や登録取消しを含む対応を検討するとされています。止まらない営業は、国が実際に動いている問題です。

もう一つは、M&A支援機関協会の「苦情相談窓口」です。幹事会員と正会員の支援を対象に、営業の訪問、電話、メールを受けた方の苦情も受けています。こちらも仲裁や紛争解決の機関ではなく、会員に内容を伝えて対応の検討を促すのが主な役割です。契約をめぐる個別の争いは、国の窓口も、弁護士など士業に相談するよう案内しています。

どちらの窓口も、争いを裁く場所ではなく、相手への注意につなげる場所。

家族が手紙を見つけたときは、売る話かどうかを先に聞かない

配偶者や子が、封筒や不在着信を先に見つけることがあります。社長に最初に聞くことを、順番に並べます。

  1. 差出人の社名を、国のデータベースで検索する(社長に聞く前でできる)
  2. 封筒と便箋を写真に撮り、元の場所に戻す
  3. 社長には「この会社を知っているか」と聞く。売る気があるかは、あとでよい
  4. すでに何かに署名や押印をしていないか確かめる。秘密保持契約や仲介契約は、署名した時点から義務が生まれる
  5. 本人の意向を確かめる前に、家族から返事や電話をしない

家族が最初にするのは返事ではなく、控えと確認。

社長の意向を確かめる前に連絡すると、会社の意向として受け取られかねません。4のとおり、怖いのは手紙そのものではなく、紙への署名です。本人が断りたいなら、上の文例を一緒に清書して送れば足ります。家族の側から社長にどう切り出すかは、家族に話すとご家族の方へに書きました。

話を聞いてもよいのは、この条件がそろったとき

断るのが正解とは限りません。会社を渡す先を探すなら、仲介会社の話を聞くのは自然な行動です。条件を決めておけば、聞くことで損をしません。

  • 国のデータベースに登録があり、第3版対応の表示がある
  • 会社名、担当者のフルネーム、連絡先を、メールか名刺で書面に残してくれる
  • 最初の面談では、何にも署名しない。秘密保持契約と仲介契約は、持ち帰って読む
  • 手数料(料率、最低手数料、基準額、時期、買い手側からの受取額)を、面談前に書面で出す
  • 同じ話を別の人にも聞く。顧問税理士や事業承継・引継ぎ支援センターに、契約書の案を見てもらう(契約書のセカンドオピニオン)

条件が1つでも欠けたら、聞く前に断る側へ戻る。

電話一本で何かが決まるわけではありません。どこから義務が生まれ、どこまでなら降りられるかは、相談から成約までの6段階で時系列に整理しています。売る以外の道(親族や社員への承継、廃業、現状維持)も、同じ重さで別のガイドで扱っています。

手紙の差出人が信頼できるかを、自分の言葉で確かめたいだけなら、名前を言わずに質問できます。

確かめたいことだけ聞く(匿名の質問箱)

そのうえで、当社のような仲介の話を聞いてみたくなったときは、ご相談の窓口があります。

参照した一次資料

よくあるご質問


登録されていない会社から手紙や電話が来たら、無視してよいですか。
登録の有無だけで営業の良し悪しは決まりません。ただ、国の情報提供受付窓口は、未登録の支援機関の案件は窓口で対応しにくい場合があると注記しています。登録がない相手には、何にも署名せず、断りの連絡を記録に残す形で伝えるのが基本です。話を聞くかどうかは、本文の「話を聞いてもよい条件」で決めてください。
断ったのにまた手紙や電話が来ます。どこに知らせればよいですか。
登録M&A支援機関なら、M&A支援機関登録制度の情報提供受付窓口に、匿名でも情報を送れます。M&A支援機関協会の会員なら、協会の苦情相談窓口が、営業行為を受けた方からの相談も受けています。どちらも紛争解決や助言をする窓口ではなく、相手への注意や確認につなげる窓口です。いつ、誰に、どう断ったかの記録を添えると伝わります。
M&A仲介に国家資格はありますか。
確認できた公的資料の範囲では、仲介者を国家資格として位置づけた制度は見つかっていません。中小企業庁は2025年4月に、専門人材向けの使命・倫理・スキルマップを公表しています。2025年10月の東京商工リサーチの記事は、アドバイザー資格制度を2026年度にも創設する予定と報じていますが、開始されたかどうかは一次資料で確かめられていません。担当者の資格や経験は、本人に聞いて確かめます。

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執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)

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