いちばん近い家族に、いちばん話せない。
配偶者にも、お子さんにも、まだ話していない。そうおっしゃる方は珍しくありません。話せない理由を否定するつもりはありません。話す前に整理しておくこと、切り出し方、反対されたときに確認することまで、順に並べます。
「家族にはまだ話していません」という相談は、珍しくありません
ご相談の場で、最初にこう切り出される方が少なくありません。「家内にはまだ話していないのですが」。
配偶者にも、お子さんにも話していない。そのことを、少し後ろめたそうに言われます。 ですが、家族に全部話してから相談に来る方のほうが、むしろ少数です。 会社のことをいちばん長く考えてきたのは社長ご本人で、 いちばん近い家族には、いちばん話しにくい。順番として、自然なことです。
話せない理由は、だいたい3つです
- 心配をかけたくない。「会社を売る」という言葉は、家族の耳には「経営が苦しいのか」と聞こえかねません。そう思わせたくない。
- 反対されそう。「お父さんの会社なのに」と言われるのが目に見えている。言い返す材料も、まだ自分の中にない。
- 自分の中でも決まっていない。売ると決めたわけではない。決まっていないことを話すのは、決まったことを話すより難しい。
どれも、家族を軽んじているのではなく、大事にしているからこその理由です。 特に3つ目は根が深く、「決まってから話そう」と思っているうちに、時間だけが過ぎていきます。
そこで、順番を変えることを提案します。家族に話すのは、決めてからでなくていい。 ただしその前に、自分の中の整理だけ済ませておく。 話しにくさの大半は、決めていないことではなく、整理がないことから来ています。
話す前に、自分の中で整理しておく3つのこと
- 会社の現在地。 いまの会社に、どれくらいの値が付きそうか。許可や資格が誰に紐づいているか。 企業価値の目安を出す診断(入力内容は送信されません)と、 承継準備チェックリストで概観できます。 正確でなくて構いません。「だいたいこのあたり」が言えれば十分です。
- 選択肢。 会社の行き先は「売るか、続けるか」の二択ではありません。 親族内承継、従業員承継、第三者承継、廃業。制度としては4つあります (この会社に残された道は、いくつあると思いますかに整理しました)。 二択で切り出すと家族も答えようがありませんが、 「道が4つあって、うちに残っているのはこれだ」と言えると、会話になります。
- 自分の希望。 何歳まで働きたいか。従業員・屋号・取引先のうち、何をいちばん守りたいか。引退したあと、どう暮らしたいか。 ここは社長にしか答えられません。そして家族がいちばん聞きたいのも、実はここです。
この3点がそろっていれば、家族会議は「相談」になります。 そろっていないと「報告」か「愚痴」になり、どちらも話がこじれやすくなります。
切り出し方の実例
正月やお盆など、家族が集まる機会は使えます。ただし、宴席の勢いでは話さないこと。 翌日の、落ち着いた時間のほうが向いています。切り出しの言葉は、たとえばこうです。
「会社を売ると決めたわけじゃない。ただ、70歳までにどうするかを考え始めていて、いま選択肢を調べている。一度、考えていることを聞いてほしい」
「継いでほしいという話ではないから、身構えないでほしい。ただ、会社の行き先を決める前に、おまえの考えを一度ちゃんと聞いておきたい」
共通しているのは3点です。「決めた」と言わない(決めていないなら、その通りに言う)。 結論ではなく経緯から話す。宣言ではなく、相談の形にする。 この形なら、聞いた側にも考える余地が残ります。
反対されたら、「何への反対か」を分けてください
それでも、反対されることはあります。そのとき必要なのは説得ではなく、仕分けです。 「反対」という一語の中身は、たいてい次のどれかに分かれます。
| よくある言葉 | 反対の中身 | 確認していただきたいこと |
|---|---|---|
| 「お父さんの会社なのに」 | 会社が消えることへの反対 | 屋号も雇用も残す形の譲渡があること。廃業とは別の話であること |
| 「変なところに買われたら困る」 | 相手が見えない不安 | 相手はこちらが選べること。渡したくない相手は、候補から最初に外せること |
| 「まだ元気なのに」 | 時期への疑問 | 承継の準備には年数がかかること。元気なうちに始めるのは辞めるためではなく、選べるようにするためであること |
| 「これからの生活はどうするの」 | 暮らしの心配 | 譲渡後に手元へ残る額は計算できること(手取りの計算に手順を書きました) |
| 「仲介はお金がかかるんでしょう」 | 費用の不安 | 当社の場合、売り手からは相談料・着手金・中間金・月額報酬をいただかず、成約時の成功報酬のみであること(手数料に全部書いてあります) |
反対の多くは、情報が足りないことへの、ごく真っ当な反応です。 「売却」という言葉だけが先に届くと、家族はそれを倒産や夜逃げと同じ棚に置いて心配します。 棚を分けてもらうだけで、話の温度は変わります。
それでも意見が割れたままなら、その場でまとめようとしないでください。決めるのは今日でなくていい。 進め方と期間を見ていただくと分かるとおり、考える時間は工程の中に十分あります。
家族と読むための3つの質問
ここから先は、ご家族と一緒に読んでください。 次の3つの質問に、順番に、全員が答えてください。正解を出す場ではありません。 答えが割れた場所が、次に話し合うべき場所です。
- この会社が10年後も続いているとしたら、誰が社長をしていると思いますか。 名前が挙がらなければ、それがいまの現在地です。 誰かの名前が挙がったなら——その人は、今日この話を知っているでしょうか。
- 会社を誰かに渡すとしたら、何だけは変わってほしくないですか。 従業員の雇用、社名、取引先との付き合い、地域での看板。一人ずつ挙げてみてください。 ここで挙がったものが、値段より先に決めるべき条件になります。
- 社長本人は、何歳まで、どんなふうに働きたいですか。 これは社長が答える番です。家族が本当に聞きたいのは会社の値段ではなく、この答えであることが多いのです。
3つとも、その場で答えが出なくて構いません。「宿題にして、次の食事でもう一度」でも立派な家族会議です。
このページを、そのまま食卓に持っていってください
このページは、ご家族と一緒に読める資料として書きました。 印刷して、食卓に置いていただいて構いません。 あわせて承継準備チェックリスト(登録不要で、そのまま印刷できます)と、 承継の読み物を添えていただくと、家族会議の材料はひととおりそろいます。
ご家族に話す前の段階でのご相談も受けています。 その旨をお伝えいただければ、ご指定の連絡先と時間帯以外にはご連絡しません。
売却をお決めでない段階で結構です。まず、上の3つの質問をご家族と一つずつ話すところから始めましょう。