個人事業の電気工事店を引き継ぐには|屋号・登録・契約を分けて考える
記事中のモデルケースは、理解を助けるための架空の例です。 当社の成約実績ではありません。
屋号は残す。作業車と道具も渡す。お得意さんには、これからも同じように頼んでもらいたい。そこまで決めたとして、電気工事店の「引継ぎ」は終わったと言えるでしょうか。
個人で営む店には、会社の株式がありません。だから「株を売れば店ごと移る」と考えることもできません。それでも、株がないから渡せるものもない、とは限りません。店を一つの塊として見るのをやめ、許可・登録、約束、道具、人に分けると、残したいものの形が見えます。
屋号は一つでも、渡すものは一つではない
道具と車だけを渡すのか。受注中の工事も渡すのか。取引先や屋号も残したいのか。「全部」と言う前に、次の一覧を作ります。
- 登録証、建設業許可の有無、主任電気工事士の体制
- 受注中の工事、工期、未請求額、入金済みの前受金
- 工具・測定器・車両の所有者と、リースの有無
- 元請や施主との契約、仕入先との取引口座
- 引継ぎ後に本人が残れる期間と、担当できる仕事
これは譲渡契約書の完成形ではなく、相談の出発点です。事業で使っていても、借り物や契約上の制約があるものは、自由に渡せるとは限りません。
たとえば、屋号を使うことについて話がついても、作業車がリースなら、車を渡せるかは別の契約の話です。お得意さんが引継ぎを喜んでいても、受注中の工事を誰が完成させ、どこへ払ってもらうかは、改めて決める必要があります。これは特定の店の実話ではなく、確認する対象を分けるための例です。
登録電気工事業者には、事業全部の譲渡の規定がある
電気工事業法9条は、登録に係る事業の全部の譲渡等について、受け手による地位の承継と届出を定めています。現行の条文で条件と例外を確認できます。福岡県の手続き案内にも、承継として相続・譲渡・法人化等の様式が案内されています。
ここでいう承継は、登録に係る事業の「全部」の譲渡等が対象です。譲受人の欠格事由に関する例外もあります。同条3項では、承継の届出は原則として承継の日から30日以内で、相続の場合は相続の開始を知った日から数えると定めています。屋号の変更だけで済むわけではないため、譲渡の範囲、受け手の区分や要件、提出先を確認します。建設業許可を持つ「みなし登録」には同じ規定をそのまま当てはめず、登録区分の違いを先に確認してください。
建設業許可と、顧客の工事契約は別に残る
建設業許可もある場合、許可の承継手続きと、電気工事業法の手続きは別です。許可・登録の承継早見表で両方の列を確認し、許可行政庁に日程を相談します。先に廃業届を出すと選べる方法が変わるため、廃業届を出す前の確認も読んでください。
顧客との契約については、受注中の工事ごとに、契約の名義、引継ぎへの承諾、支払い先、工事後の対応を整理します。登録の届出を済ませれば、顧客への説明も終わるわけではありません。
株のない店にも、整理できる引継ぎがある
引継ぎ先が決まらないうちは、期限のある許可・登録と、完成を約束している工事を先に書き出します。そのうえで、店全体を渡す、工事や取引の一部を個別に引き継ぐ、受注を終えてたたむ方法を比べます。
個人と法人の税金や、負債を誰が負担するかは個別の確認が必要です。先に法人成りすれば必ず売りやすくなる、とも言えません。今ある登録と契約を持って、行政書士・税理士等に方法を比較してもらうための材料を揃えましょう。
屋号と道具を渡したら、店を渡したことになるか。いまなら、もう一つ聞けます。「残っている工事と、登録と、お客さんとの約束はどうするのか」。その質問を持って相談できれば、最初から「法人成りするしかない」「廃業するしかない」と道を狭めずにすみます。
参照した一次資料
- 電気工事業の業務の適正化に関する法律 第9条・第34条 (2026年10月16日確認)
- 福岡県 電気工事業登録について(承継・法人化の様式案内) (2026年10月16日確認)
知りたかったことは分かりましたか
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)