電気工事会社の事業譲渡で従業員の同意は必要?説明前に揃える条件
記事中のモデルケースは、理解を助けるための架空の例です。 当社の成約実績ではありません。
「給料は変わらない。だから安心してほしい」。事業譲渡を前に、そう説明する場面を考えてみてください。社員が知りたいのは、給料だけでしょうか。
朝の集合場所が変わる。通う現場が遠くなる。家に帰れる曜日が変わる。ここに挙げたのは想定上の例ですが、働き続けられるかを考える材料です。「雇用を守る」という売り手の希望と、「そこで働きたい」という社員の判断は、同じ言葉だけではつながりません。
社員の返事が必要なのは、なぜか
厚生労働省の事業譲渡等指針は、労働契約の承継について個別の承諾を得ること、譲受先や労働条件等を十分説明して協議することを示しています。2026年5月25日から適用される改正後の全文を確認しました。株式譲渡、会社分割、合併まで同じ手続きとして説明しないことが前提です。
「全員を引き取ると買い手が言っている」だけでは、社員は自分の働き方を判断できません。とくに工事会社は、所属する営業所と日々の現場が違うことがあります。雇用契約上の勤務地、現場への移動、早朝集合、宿泊を伴う出張を分けて書き出します。
買い手と説明前に揃えたい表
次の表は、当社が説明の漏れを減らすために提案するものです。労働条件通知書や同意書そのものではありません。
| 項目 | 現在の条件 | 引継ぎ後の案 |
|---|---|---|
| 雇用主と所属先 | 会社名、営業所 | 新しい雇用主、配属先 |
| 仕事 | 工事・積算・保守等 | 担当業務と変わる範囲 |
| 賃金・手当 | 基本給、残業、出張等 | 項目ごとに比較 |
| 働く場所・時間 | 現場範囲、移動、休日 | 変更点と未定事項 |
| 勤続に関する扱い | 有休、退職金制度等 | 個別に確認する条件 |
未定の欄は「現状維持」と埋めず、「未定」として買い手への確認事項にします。資格の手当だけ残っても、出張の増加で働き続けられない人がいるかもしれません。社員本人が判断するための情報として整理します。
表を左右に並べると、「給料は同じ」という一言で隠れていた違いを探せます。逆に、何も変えないつもりでも、買い手がまだ決めていない条件が見つかるかもしれません。その空欄を先に埋めることが、説明を上手にするより役に立ちます。
社員が聞きたいことを質問した結果、予定どおりに進まない場合もあります。それを説明の失敗と決めつけず、双方が判断するために必要だった確認として扱います。
同意を集める順番だけで解決しようとしない
説明から返答までの時間、個別に質問できる相手、回答の記録を用意します。急いで署名してもらうことを目的にせず、何が決まり、何がまだ決まっていないかを共有します。個人の家庭事情や希望は、そのまま買い手へ広く渡さず、共有の必要性と範囲を確認してください。
指針は、承継を承諾しないことだけを理由とする解雇等についても注意を求めています。客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない解雇は認められません。労働条件を変えて承継する場合には、変更への同意も必要です。社員から返事がない欄を、退職扱いで埋めるような進め方はしません。
労働組合等との協議を含め、個々の会社で必要な対応は弁護士・社会保険労務士と確認します。この表だけで同意手続きが完成するとは扱いません。
資格のある人も、自分で働く場所を選ぶ
買い手の許可の都合で資格者を数える前に、本人がどこで働くことを承諾するかを確かめます。営業所技術者の体制と主任電気工事士は、移る人の資格、担当営業所、働き方と一緒に確認します。
社員にいつ話すかという全体の考え方は従業員の雇用を守りたい方へ、社員自身が後継者になる場合は従業員承継に分けています。
「給料は変わらない」と言う前に、左右の表で何が変わるかを確かめる。そうすれば、社員に答えを急がせる説明から、社員が自分で考えられる説明へ近づけます。譲渡条件の検討に戻ることになっても、それは雇用を守る話を、具体的な働き方の話に進めたということです。
参照した一次資料
- 厚生労働省 事業譲渡等指針 改正後全文 第2の1(2026年5月25日適用) (2026年10月16日確認)
知りたかったことは分かりましたか
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)