電材卸のM&Aで売掛金はどう見る?入金予定と取引継続を分ける確認表
記事中のモデルケースは、理解を助けるための架空の例です。 当社の成約実績ではありません。
売掛金が1,000万円ある二つの電材店を比べる仮例です。一方は全額が来月の支払期日前。もう一方は、納品分の一部について返品の話が続き、入金額がまだ決まっていません。決算書の同じ「1,000万円」を、同じように引継ぎ資金へ数えてよいでしょうか。
ここで必要なのは、強引に値段を下げる材料でも、「昔からの客だから大丈夫」という気合でもありません。いつ、いくら入る予定なのか。金額が決まっていない理由は何なのか。残高を、入金までの道筋に戻すことです。
「昔からの客」と「期日どおりの入金」は別の証拠
次の欄は、買い手や税理士に説明するための当社の整理案です。相手先ごとの評価を一律に決める基準ではありません。
| 欄 | 記入する内容 |
|---|---|
| 請求の根拠 | 納品書、検収、請求書の番号 |
| 支払条件 | 締日、支払日、支払方法 |
| 期日後の状況 | 入金履歴、督促、先方回答 |
| 金額が動く理由 | 返品、値引き、リベート、相殺の相談 |
| 担保等の有無 | 保証、債権譲渡等について確認する資料 |
「昔からの相手だから回収できる」と「支払期日どおりに入金している」は、別の説明です。滞留していても直ちに全額が回収不能とは限りません。逆に、期日前だから問題がないとも言い切れません。記録と見通しを分け、評価は税理士等と検討します。
売掛金を誰に残すかは、譲渡の方法で整理する
会社の株式を売る場合と、事業や資産を別の会社へ移す場合では、確認する契約が異なります。事業譲渡なら、どの売掛金を対象にするか、譲渡前後の請求と入金をどちらが扱うかを、契約で明確にする必要があります。
民法には、債権譲渡とその対抗要件の規定があります。請求権を譲ることと、譲った事実を相手や第三者に主張できることは別です。467条は原則として譲渡人からの通知または債務者の承諾を求め、債務者以外の第三者との関係では確定日付のある証書を要件としています。別途、債権譲渡登記の制度等もあるため、使う手続きは専門家に確認します。
譲渡を制限する約束がある場合も、単純に「無効」「制限があるから絶対に譲れない」のどちらかに決められません。466条は譲渡の効力と、事情を知る譲受人等に対する債務者の履行拒絶等を分けて定めています。条文に例外もあるため、実際の条項と回収への影響を確認します。「売掛金も譲る」と契約に一言書けば、請求先への対応がすべて終わるわけではありません。
仮例の二店に戻ると、支払期日前の店も「全額確実」とは決められません。返品協議中の店も「全額ゼロ」とは決められません。違うのは、確認すべき問いです。前者は通常の支払実績と期日、後者は返品の範囲と合意内容。その違いを説明できることが、残高だけを渡すより大切になります。
回収と、これからも買ってもらえるかは別に聞く
過去の売掛金が回収できることと、譲渡後も得意先が注文することは別です。会社の価値を説明するときは、過去の債権の整理と、今後の取引継続の条件を分けます。社長個人だけが知る価格の約束や、口頭の返品条件があれば、書面やメールを探して整理します。
仕入側の取引が続くかは、代理店契約・仕入口座の承継の確認になります。倉庫の在庫は在庫の評価で別に整理します。どちらも、売掛金が多いからという理由だけで一緒に高く評価するものではありません。
最後に残るのは、誰が請求し、誰が照合するか
請求書を誰が出すか、振込先変更をいつ誰が案内するか、誤入金があったときに誰が照合するかを決めます。取引先へ通知する時期と内容は、秘密保持と契約確認を済ませてから決めてください。買い手候補の段階で、得意先へ勝手に連絡するものではありません。
最初の準備は、残高一覧に支払日と確認資料を添えることです。電材卸の承継を検討する場合も、この一覧があれば、決算書のどの数字がまだ確認中かを具体的に話せます。
同じ1,000万円なら同じ価値か。今度は「支払期日、請求の根拠、金額が動く事情を見ないと分からない」と答えられます。今日一社分だけでも、請求書と入金記録と担当者のメモを並べてみてください。会社を売らない場合にも、次に何を確認すべきかが残る作業です。
参照した一次資料
- 民法 第466条・第467条(債権譲渡) (2026年10月16日確認)
知りたかったことは分かりましたか
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)