電材卸の在庫は、棚卸金額ではなく「年齢」で見られる|銅建値の高騰で何が変わったか
記事中のモデルケースは、理解を助けるための架空の例です。 当社の成約実績ではありません。
電材卸の会社を譲渡するとき、貸借対照表の「商品」の行は、帳簿に載った金額のままでは評価されません。同じ金額でも、いま動いている定番品か、動かなくなった特注品や廃番品かで、価値が分かれるからです。さらにここ数年、電線の在庫は、銅建値の動きで、同じ数量を持つのに要る資金も、決算の利益の出方も変わりました。
譲渡の前にやることは、品種別の在庫年齢表を作ることと、棚卸資産の評価方法を確かめることの2つです。
棚卸金額は同じでも、中身で価値が分かれる
貸借対照表に「商品 8,000万円」と書いてあったとします。この8,000万円が何を意味するかは、中身で決まります。次の2社は、数字を仮定した例です。
| A社 | B社 | |
|---|---|---|
| 棚卸金額 | 8,000万円 | 8,000万円 |
| 中身 | 定番のケーブル・配線器具が中心。年8回転 | 過去の特注品・廃番品が半分。年2回転 |
| 帳簿の見え方 | 在庫は純資産の一部として載っている | 同じ。ただし半分は動いていない |
| 譲渡で問われること | 回転が速い在庫を、そのまま引き継げるか | 動いていない半分を、いくらと見るか |
供給力としての在庫と、売れ残っただけの在庫が、帳簿では同じ「商品」の行に並んでいる。
電材は、型番違い、色違い、長さ違いが無数にあります。一度使われなくなった規格は、二度と動かないことがあります。品種が多い商売なので、この差が金額に出やすくなります。
当社の診断が使う年買法は、純資産に営業利益×年数を足す計算です。純資産に在庫が入っているので、B社の動かない4,000万円を整理して純資産から外せば、純資産が4,000万円減り、年買法の計算に入る純資産も同じだけ減ります。買い手の評価は案件ごとに違いますが、帳簿の金額より中身が問われる、という構造は同じです。
銅建値は2019年度の約2.5倍になった
電線は、銅の値段を基準に販売価格が改定される商品です。日本電線工業会が公表する国内銅建値(出所はJX金属)の年度平均を並べます。
| 年度 | 国内銅建値(千円/トン) |
|---|---|
| 2019年度 | 681.6 |
| 2021年度 | 1,136.2 |
| 2023年度 | 1,261.7 |
| 2025年度 | 1,695.4(2019年度の約2.5倍) |
| 2026年度上期(4〜9月) | 2,278.3 |
| 2026年10月13日付 | 2,440 |
2025年度の中でも、動きは小さくありません。2025年4月の月平均は1,375.7千円、2026年3月は2,089.5千円で、1年のあいだに約1.5倍になっています。3月決算の会社なら、期首と期末で、電線の価格の基準になる建値がこれだけ違います。
銅10トン分の電線を在庫に持っている電材卸を仮定して、銅の地金代だけを見ます。
10トンは仮定の数量です。電線の価格には銅の地金代のほかに加工費などが入るので、銅の分だけを抜き出した試算です。
同じ数量の電線を持つのに、銅の分だけで、必要な資金が約3.6倍になっている。
数量が同じ在庫でも、運転資金の重さが違います。銅建値が高いいまは、電線を多く扱う電材卸ほど、同じ数量を仕入れるための資金が大きくなります。借入の額とその返済の見通しは、決算書の借入金の欄で確かめられます。
建値が動く年は、評価方法で決算の利益が変わる
棚卸資産の評価方法は、法人税法施行令第28条が、原価法(個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、最終仕入原価法、売価還元法)と、低価法の中から選ぶと定めています。評価方法を選んで届け出なかった会社は、第31条によって、最終仕入原価法で計算します。
最終仕入原価法は、期末に最も近い時に取得したものの1単位の取得価額を、期末の在庫の単価にする方法です。仕入単価が上がり続ける年は、期末の在庫が、直近の高い単価で評価されます。仮定の例で比べます。
売れた10巻の原価が小さくなる分、利益が大きく出ます。巻の価格は仮定です。
決算書の営業利益に、仕入単価が上がったことによる分が入っているかどうかは、評価方法で変わります。譲渡の価格を営業利益の数年分で考えるなら、評価方法の届出書の控えを、先に見ておく理由になります。
下がるときの扱いも、決まっています。法人税基本通達9-1-6は、棚卸資産の時価が、物価変動、過剰生産、建値の変更等によって低下しただけでは、評価損の計上ができる事実に当たらないとしています。評価損を損金にできるのは、災害で著しく損傷した、著しく陳腐化した、これらに準ずる特別の事実がある、という場合です(施行令第68条)。通達は、準ずる事実の例に、破損、型崩れ、「たなざらし」、品質変化を挙げています(9-1-5)。低価法を選んでいる会社は、別の計算になります(施行令第28条第1項第2号)。
売れ残った在庫を、評価損として落とせるかどうかは、事実の内容で決まります。個別の判断は、顧問の税理士に確認してください。
売上の伸びが、単価なのか数量なのかを分ける
日本電線工業会の統計では、銅電線の出荷量のうち、「建設・電販」向けは、2021年度の298.1千トンから、2025年度の271.5千トンに減りました。約9%の減少で、2025年度は前年度から4.1%減っています。
同じ期間に、年度平均の銅建値は1,136.2千円から1,695.4千円へ、約49%上がっています。
電線の売上高が増えた理由が、数量ではなく、銅の値段であることがある。
譲渡の資料では、主要な電線の品種について、売上を数量と単価に分けた表を付けておくと、買い手が売上の伸びを読み違えません。伸びたのが単価だけなら、同じ水準の利益を保つための運転資金も、増えています。
在庫が多いこと自体は、悪ではない
電材卸の競争力は、必要なときにすぐ出せることです。翌朝の現場に間に合わせられるかで、工事店は仕入先を選びます。そのための在庫は、事業の供給力そのものです。
買い手が見たいのは、その在庫が回っているかどうかです。見る切り口は4つあります。
| 切り口 | 見ること |
|---|---|
| 在庫年齢 | 出荷実績が2年以上ない在庫が、棚卸資産の何割か |
| 定番品の回転率 | 主力商材が年に何回転しているか。回転が速いほど、少ない運転資金で回る |
| 廃番・規格変更 | メーカーが生産終了した商品、法改正で使えなくなった規格 |
| 預かり品と所有権 | 得意先の預かり品、メーカーの委託在庫が、帳簿に混ざっていないか |
譲渡の前に、3つ用意する
品種別の在庫年齢表を作る
完璧なシステムは要りません。主要な品種について、直近1年の出荷実績と現在庫を突き合わせるだけでも、動いていないものは見えます。表計算ソフトで足ります。
買い手に聞かれて「分かりません」と答える状態を、先になくしておく。
長期間動いていない在庫を、先に整理する
処分すれば損が出るので、抵抗感はあると思います。譲渡の交渉で指摘されてから整理するより、先に整理して、評価損として扱えるかを税理士に確かめておくほうが、数字の説明がしやすくなります。処分が難しいものは、譲渡の対象から切り離す設計もあります。
回っている在庫を示す資料を用意する
回転率、出荷頻度の上位品目、緊急出荷に応じた実績を、一覧にします。在庫が供給力であることの根拠になります。
在庫より先に、メーカーとの取引口座が問われる
電材卸の譲渡では、在庫の話と同じくらい、メーカーとの特約店口座の行き先が問われます。口座は、会社がメーカーと結んでいる契約の上に成り立っています。株式譲渡なら会社が変わらないので、契約は原則そのまま続きます。事業譲渡だと、契約の当事者が変わるので、買い手の会社で口座を開き直すことが多くなります。ただし、契約に、会社の支配権が変わったときに解除できる条項があれば、株式譲渡でも条件が変わります。
この条項は、メーカーとの契約書を見ないと分かりません。電気機器商社・代理店の場合は、電気機器・産業用機器商社の事業承継とM&Aに詳しく整理しています。
卸売業の社長の平均年齢は、建設業や全業種平均より高い
帝国データバンクの2025年の調査では、卸売業の社長の平均年齢は61.5歳で、建設業の60.5歳、全業種平均の60.8歳を上回っています。同じ調査の後継者不在率は、全国で50.1%、建設業で57.3%です。
卸売業の場合、社長の年齢だけでは、承継の緊急度は決まりません。後継者がいる会社でも、在庫の整理と評価方法の確認は、承継の前に済ませておく項目です。
在庫の話は、在庫を持っている側が分かる
当社は1950年から電設資材を扱う電材卸です。この記事の見方は、在庫を持って商売をする立場から、譲渡の場面に当てはめたものです。数字は、日本電線工業会、国税庁、帝国データバンクの公表資料に限って使っています。
参照した一次資料
- 日本電線工業会「国内銅建値(月平均)推移表」(出所:JX金属) (2019年度〜2026年10月13日)
- 日本電線工業会「電線統計(銅電線の出荷量)2025年度」 (2025年度)
- 国税庁「法人税基本通達 第2款 棚卸資産の評価損」(9-1-4〜9-1-6)
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」(第28条・第31条・第68条) (2026年10月14日に確認)
- 帝国データバンク「全国『社長年齢』分析調査(2025年)」 (2025年)
- 帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」 (2025年11月)
よくあるご質問
在庫を減らしてから売ったほうがいいですか。
銅建値が上がった今、在庫の評価は上がりますか。
在庫年齢を出すシステムがありません。
預かり品や委託在庫はどう扱われますか。
知りたかったことは分かりましたか
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)