電材卸の朝一便・緊急便は採算が合うか|配送サービスを承継前に整理する
記事中のモデルケースは、理解を助けるための架空の例です。 当社の成約実績ではありません。
※本文の配送場面・金額は説明用の仮定です。実在する会社の実績や料金相場ではありません。確認日:2026年10月19日。
朝の積み込みが終わったところへ、部材を一本だけ現場へ届けてほしいという電話が入る。配達に出れば、工事を止めずに済みます。ただ、誰かがカウンターを離れ、別の納品が後ろへずれるかもしれません。
電材卸を継ぐ話で配送を見直すとき、こうした一便を「昔からのサービス」で終わらせると、次の経営者は残す理由も変更する理由も説明できません。朝一便や急配が支えている注文と、そのために使う時間を同じ場所へ並べる。そこから引継ぎを始めます。
配達回数だけでは、残したいサービスが分からない
一日の便数が同じでも、決まった順番で回る便と、注文のたびに出発する便では段取りが違います。
通常便に積める小口品と、車両や人員を追加する長尺物・重量物も、同じ一件にはできません。
まず通常便、締切後の追加便、時間指定便、休日・時間外対応に分けます。ただし、その区分だけで赤字客を決めるのは早計です。朝の納品を条件にまとまった材料注文を受けているなら、一本の配送伝票だけでは取引全体の意味を見失います。反対に、注文書にない階上搬入や長い荷待ちが毎回発生しているなら、売上総利益だけでは負担が見えません。
九州電設資材卸業協同組合のお願いでは、平地での引渡し、早めの発注への協力とともに、直送・チャーター、休日・時間外搬入、重量物等の費用負担を求めています。これは同組合の要請です。全国一律の料金や、取引先に当然請求できる法的根拠を示したものではありません。それでも、自社の納品条件を言葉にする際の具体的な手掛かりにはなります。
最初は、普段の一週間を注文番号でつなぐ
大掛かりな配車システムを先に導入する必要はありません。本稿で提案するのは、配送記録と売上伝票を注文番号でつなぐ方法です。通常の週に加え、月末や大きな現場への納品が集中した週も見て、特殊な一週間だけで判断しないようにします。
記録するのは、出発・帰着、顧客、現場、届けた注文、便の種類、走行・待機・積卸しの時間、同乗者、追加費用です。予定外の便には理由も残します。顧客からの追加注文、自社の積み忘れ、仕入先の分納では、改善する場所が異なるからです。
時間の記録は配送担当者を責めるためではありません。
現場の入口が分からなかった、受取担当者が不在だった、荷姿が車両に合わなかった。そうした理由を集めると、料金の話をする前に、注文時の確認で減らせる仕事が見つかります。社長が自分の車で運んだ分も、記録から落とさないことが大切です。
一便の追加負担と、会社全体の採算を二段階で見る
仮に、ある臨時便にひも付く商品の粗利が4,000円、走行・積卸し・待機に合計90分かかったとします。比較のための人件費を1時間2,000円、追加の燃料・駐車費を800円と仮定すると、その便に対応させた負担は3,800円です。残り200円という計算になりますが、これを会社の最終利益とは呼べません。車両や倉庫、受注事務の費用をまだ含めていないためです。
同時に、この便をやめれば人件費3,000円が必ず現金で浮く、とも限りません。固定給の社員が通常便の合間に走っていたなら、短期的には支出が変わらないこともあります。空いた90分を別の配送や営業に使えるか、残業を減らせるかまで確認します。
本稿の経営上の検討案として、まず追加便が増やした支出と拘束時間を見ます。
次に、月単位で車両費、人員、倉庫作業等を含む配送全体の費用と照合します。顧客別に配賦する場合は、時間、距離、積載など、どの基準で分けたかを残してください。すでに運賃を差し引いた粗利から同じ費用を再度引く二重計上にも注意が必要です。配賦方法や会計上の数字は税理士等と確認します。
お客さまが残してほしいのは、速さか、確実さか
集計の次に聞くのは「急配を有料にしてよいか」だけではありません。何時までに届けば仕事が進むのか、注文をまとめられるか、受取場所を変えられるか。顧客が本当に必要とする条件を確認します。毎回の即出発より、翌朝の確実な納品を望む取引もあるかもしれません。これは自社の顧客に聞くべきことで、業界全体の傾向と決め付けられません。
改善案は、通常便の締切を明確にする、現場ごとの受取窓口を決める、特殊な搬入を個別見積にする、といった小さな条件から比べられます。急配を残す場合も、誰が受け、誰が判断し、対応できないときに何を案内するかを決めておけば、社長の即答だけに頼らずに済みます。
条件変更は、既存契約とこれまでの約束を確かめ、対象先・説明者・開始時期を決めて進めます。M&Aを理由に一斉変更する前に、変更後も必要な注文が続くかを慎重に見ます。記録から得られるのは交渉材料であり、相手の同意そのものではありません。
外注するときも、同じ仕事同士で比較する
外部物流という選択肢もあります。コイズミ物流の電材物流サービスには、午前中納品や夜間・早朝の入庫、現場への時間指定納品が案内されています。こうしたサービスが実在することと、自社の地域・荷姿・価格条件で利用できることは別です。
見積を比べるなら、配送料だけでなく、積み込み準備、伝票、現場連絡、再配達、破損時の対応、休日の扱いまで揃えます。
自社便で営業担当が行っていた商品説明を、外注先も担うとは限りません。その仕事が社内に残るなら、外注費に加えて考えます。
自社便をすべて残すか、すべて手放すかの二択にせず、定期便を共同化して急な現場対応は残すなど、業務ごとに検討できます。車両が一台減る見込みだけで、同じ納品品質や利益が実現するとは説明しないようにします。
次の経営者に渡すのは、ルート表と変更の前提
承継資料では、現在の配送条件、担当者と代行者、便別の時間・費用、顧客と合意済みの条件、まだ試していない改善案を分けます。
「買収後に配送費を削減できる」という期待を、実績利益に混ぜないためです。
配送の強みを説明したいなら、まず一便を選んでください。その便が支える注文と、待ち時間を含む仕事量をたどれれば、「何を残したいか」を具体的に話せます。電材卸の事業承継を考えるときも、その記録が出発点です。相談窓口では、最初から顧客名や単価表を揃えるのではなく、残したい配送サービスと、負担が分からない便の概要から整理できます。
配送と一緒に保有する商品の動きは、在庫評価の確認で整理します。
参照した一次資料
- 九州電設資材卸業協同組合のお願い (2026年10月19日確認)
- コイズミ物流の電材物流サービス (2026年10月19日確認)
知りたかったことは分かりましたか
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)