計装工事会社は「どの建設業許可で成り立っているか」で承継の難易度が変わる
計装工事の会社を継ぐとき、最初に確認することがあります。
決算書ではありません。
「御社は、どの建設業許可で工事を受けていますか」
これです。
計装工事業という建設業許可は、存在しない。
建設業許可は29業種に分かれていますが、その中に「計装工事業」という区分はありません。
では計装工事の会社は何の許可で仕事をしているのか。実際の工事内容に応じて、電気工事業・管工事業・機械器具設置工事業・電気通信工事業などの許可を使い分けています。
これは業界団体の入会要件からも読み取れます。日本計装工業会は正会員の条件を、こう定めています。
建設業の規定に基づく電気工事業、管工事業、機械器具設置工事業、及び電気通信工事業の許可を受け、計装工事業を営む法人及び個人
つまり「計装の会社」とひとくちに言っても、その土台になっている許可は会社ごとに違うということです。
土台の許可が違うと、買い手が変わる
ここが承継の実務で効いてきます。
| 軸にしている許可 | 現場で強い領域 | 相性の良い買い手 |
|---|---|---|
| 電気工事業 | 制御盤まわり、配線、電源設備 | 電気工事会社、盤メーカー、電材商社 |
| 管工事業 | 空調・給排水の自動制御 | 空調サブコン、設備工事会社 |
| 機械器具設置工事業 | プラント機器の据付・調整 | プラントエンジ、機械商社 |
| 電気通信工事業 | 遠隔監視、ネットワーク計装 | 通信工事会社、システム系 |
同じ「計装工事会社」でも、電気工事業を軸にしている会社と管工事業を軸にしている会社では、高く評価する相手がまったく別になります。
売却の相談を受けたとき、私たちが決算書より先に許可証を見せていただくのはこのためです。誰に持っていくかが、ここで決まります。
計装は「境界」にあるから、人が採れない
計装が電気でも管でもないということは、その両方が分かる人でないと務まらないということでもあります。
現場では、電気の配線を追いながら、流量や圧力の制御ロジックを理解し、機械の据付精度まで見ます。この横断的な技能は、学校でも会社の座学でも身につきません。現場で年数を重ねるしかない。
だから採用市場にほとんど出てきません。
数字で見ると、計装士(1級・2級)の累計合格者は32,000人を超えているとされています(計装士会サイトに、日本計装工業会の発表として掲載)。計装士会の会員数は全国で2,396名です。
一見すると多く見えますが、これは制度が始まってからの累計です。すでに引退された方を含みます。
機器は買える。図面も買える。買えないのは、現場で調整できる人だけ。
買い手は「施工できる会社」を探している
計装の商流には、こういう構造があります。
- 機器メーカー・商社:センサーもコントローラも売れる。しかし据え付けて調整する部隊がいない
- 盤メーカー:盤は作れる。しかし現場に据えて他設備とつなぐところができない
- サブコン・プラントエンジ:元請はできる。しかし計装の実施工を外注に頼っている
全員が同じところで詰まっています。施工できる会社が足りない。
実際、2025年2月には計装・空調機器の商社である東テクが、神戸市の計装工事会社である三王機工の全株式を取得して子会社化したことを公表しています。機器を売る側が、施工する会社を丸ごと取り込んだ形です。
「うちみたいな小さい計装屋に買い手なんて」と言われることがあります。ですが買い手が欲しいのは規模ではなく、現場を納められる人の集まりです。
承継で実際につまずく3点
1. 経営業務の管理責任者が社長だけ
建設業許可を維持するには、経営経験のある常勤役員が必要です。社長しか要件を満たしていない会社は、社長が退任した瞬間に許可が維持できなくなります。
許可がなければ工事が受けられません。買った意味がなくなります。
同じ論点は電気工事会社にも共通するので、詳しくは社長が引退すると建設業許可が消える会社があるに書きました。
2. 計装士が社長本人
資格は個人に帰属します。会社には移りません。
社長が計装士で、他に有資格者がいない場合、退任は技術力そのものの喪失を意味します。残っていただく期間を契約で設計するか、承継の前に有資格者を確保するかの二択になります。
3. 設定値が図面ではなく頭の中にある
計装は現場ごとの調整が多く、最終的な設定値が図面に反映されていないことがあります。
「あの工場のあのラインは、この係数でないと動かない」——それが誰か一人の頭の中にしかないと、買い手は引き継げるかどうかを判断できません。
調整履歴や設定値を記録に残すこと。これは売却が決まってからでは間に合いませんが、いま始めれば1年で形になります。
建設業の後継者不在率は、全業種で最も高い
帝国データバンクの「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」によれば、全業種の後継者不在率が50.1%まで下がったなかで、建設業は57.3%と全業種で最も高い水準にあります。
計装工事もこの建設業に含まれます。
つまり、同じ悩みを抱えた会社が周囲に多いということです。買い手から見れば選択肢が多い状況でもあります。だからこそ、許可の構成と有資格者の状況を整理できている会社から順に、条件の良い相手と話が進みます。
資材を納めてきた側から見ています
私たちは1950年から電設資材を扱ってきました。計装の現場に入る盤も、電線も、センサーの端子台も、日常的に見ています。
計装会社が「電気工事業の許可で受けているのか、管工事業なのか」——それが商流のどちら側の会社と縁が深いかを意味することも、実務として知っています。
売却をお決めでない段階で結構です。まず、御社の許可証と有資格者の状況を一緒に見るところから始めましょう。
参照した一次資料
よくあるご質問
計装工事業という建設業許可は存在しますか。
計装士の資格は承継のときに引き継げますか。
買い手はどんな会社になりますか。
社員数が10名以下でも相手にされますか。
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)