盤メーカーの支給材・預かり在庫は誰のもの?会社承継前に分けたい所有権と棚卸
記事中のモデルケースは、理解を助けるための架空の例です。 当社の成約実績ではありません。
工場に置いてある部品を数えれば、会社の在庫が分かる。盤メーカーでは、それだけでは足りないことがあります。顧客から届いたPLC、自社で購入した遮断器、外注先へ渡した端子台。同じ案件の部品でも、持ち主と保管場所がそろっているとは限りません。
会社の承継を考えるときは、棚卸金額を買い手へ示す前に、誰の物を、どの約束で預かっているかを整理します。数える対象と、自社の資産として評価する対象を区別できるようにするためです。
「有償支給」の呼び方だけで所有者を決めない
この記事では、発注元が加工や組立のために渡す材料・部品を「支給材」と呼びます。代金のやり取りがある有償支給と、無償支給があります。さらに工場には、修理・調査のために預かった盤や、顧客から保管を頼まれた予備品が置かれることもあります。
確認の出発点は、基本契約、個別注文、支給品の受領書です。
有償か無償かに加え、所有権がいつ移るのか、他案件で使えるのか、残った材料をどう返すのかを読みます。
例えば、佐藤鉄工が公開する取引基本契約書には、有償・無償を問わず、支給材等の所有権を発注側に置く条項があります。これは一社の契約例で、すべての取引に共通する規則ではありません。「代金を払う支給材なら必ず自社所有」と決めず、自社の契約を確認する必要があります。佐藤鉄工「購買・外注取引基本契約書」第13~17条
会計処理も別に確認します。ASBJの収益認識の適用指針第104項は、有償支給について、支給元が買戻義務を負うかどうかに応じた支給元側の処理を定めています。支給を受ける側の処理を、この条項だけで決めることはできません。自社が採用する会計基準、契約の実態、これまでの処理を顧問税理士等に見てもらいましょう。企業会計基準適用指針第30号・第104項
数えるときは、棚から案件へたどる
次の場面は説明のための仮想例です。
ある制御盤会社で、顧客から受け入れた制御機器が10台ありました。棚には3台、組立途中の盤には5台、外注工場には2台あります。倉庫だけを数えると7台不足して見えますが、実際には保管・使用場所が分かれているだけかもしれません。
反対に、組立途中の盤を完成品と同じ金額で評価し、そこに顧客所有の機器代まで含めると、自社が負担した原価や所有する材料を説明しにくくなります。現物確認の後で、支給材、自社購入材、加工費を資料上で結び付ける必要があります。
承継準備の実務上の方法として、支給元と案件ごとに、次の情報を一つの一覧へ集めることを勧めます。
- 品名・型式・製造番号など、現物を特定できる情報
- 受入数と、使用・返却・不良・破損の記録
- 倉庫、組立中の盤、外注先など現在の所在
- 所有権の根拠となる契約と、確認が終わっていない事項
- 残材の返却先、報告の期限、顧客側の担当窓口
同型の機器を自社でも購入しているなら、型式だけの集計では足りません。顧客名や案件番号を現物と記録の両方に付け、どちらの材料を使ったかまで追えるようにします。システムの導入前でも、箱や棚の表示と受払記録をそろえるところから始められます。
顧客の残高と自社の現物を、同じ日で合わせる
承継前の確認では、直近決算の棚卸表を渡して終わりにしないことが大切です。
その後も部品は入荷し、組み込まれ、外注先へ動きます。いつの数量を比較しているかが違えば、正しい記録同士でも一致しません。
基準日を決め、その日の自社記録、現物、顧客へ報告した残数を突き合わせます。外注先には同じ基準日時点の数量と所在を確認し、移動中の物があれば出荷・受領の記録で補います。調査日と実際の引渡し日が離れる場合は、その間の増減も残します。
差があったら、「調整」とだけ書いて数字をそろえないようにします。受領記録が未入力なのか、組込済みなのか、破損したのか、まだ所在が分からないのか。未解消のものは担当者と次の確認日を付けます。引継ぎ時に必要なのは、整った数字に加えて、残っている問題が見える記録です。
顧客への照会を承継準備の一環として行う場合は、誰が何を説明するかも決めておきます。数量確認の連絡から、まだ公表していない売却の話が意図せず広がらないよう、説明時期と秘密保持を調整します。
引き継ぐのは部品と、その管理の約束
承継方法を検討するときは、譲る範囲を先に確かめます。日本政策金融公庫の解説は、譲渡契約の主な項目として、株式譲渡では譲渡予定の株数、事業譲渡では譲渡対象の資産・負債の範囲を挙げています。日本政策金融公庫「事業を譲り受けたい方」契約締結の項
部品を預かる会社を変更する予定がない場合でも、報告担当や工場責任者を交代するなら、顧客へ残数を報告する仕事を後任へ渡します。
契約に通知・承諾の定めがあるかも確認してください。
事業譲渡なら、顧客所有の材料を自社の売却資産に混ぜず、誰がどこで保管を続けるか、移動や引渡しにどんな手続が要るかを別に整理します。売り手と買い手の間だけで決めても、顧客との約束が整うとは限りません。弁護士等と契約関係を確認し、必要な同意や手続を進める順序を決めます。
数量不足や破損の可能性が残る場合は、買い手への説明にも含めます。原因の調査、顧客との協議、費用負担について、何が確定し、何が未定なのかを分けると、売却後の担当者が同じ調査を繰り返さずに済みます。
まずは一社分の支給品から整理する
最初から全倉庫を作り直す必要はありません。
支給額や数量の大きい顧客を一社選び、契約書、受払簿、現物の所在を並べてみてください。そこで合わない項目を、承継前に調べ直す資料の手がかりにします。
材料費と入金の時間差を整理する場合は、盤メーカーの仕掛品と資金繰りも合わせてご覧ください。自社所有の商品については、電材卸の在庫評価と在庫年齢も参考になります。支給材の所有・管理を整理した後で、会社が持つ在庫の価値を検討する順序です。
顧客の物がどれだけ混じっているか分からない、外注先の在庫まで手が回らない。そうした段階でも、承継の相談窓口で準備の順番を整理できます。契約や会計の判断が必要な部分を切り分け、次の経営者が受け取れる資料へ整えていきましょう。
参照した一次資料
- 佐藤鉄工「購買・外注取引基本契約書」第13~17条 (2026年10月19日確認)
- 企業会計基準適用指針第30号・第104項 (2026年10月19日確認)
- 日本政策金融公庫「事業を譲り受けたい方」契約締結の項 (2026年10月19日確認)
知りたかったことは分かりましたか
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)