盤メーカーが「忙しいのに金がない」のは、経営が悪いからとは限らない
盤メーカーが、忙しいのに現金が残らない。受注生産のお金の流れでは、材料と人件費が先に出て、入金は納品・検収のあとになるため、経営が悪くなくても起こります。金融機関向けの審査事典は、盤の現金回収に半年以上かかる場合もあると書いています。
受注生産の会社は、仕事が増えているときほど、手元の現金が減りやすい。
お金が出ていく順番と、入ってくる順番が逆
配電盤・制御盤は、在庫を作って売る商売ではありません。図面をもらってから作ります。お金の動きは次の順になります。
| 時期 | 出ていくお金 | 入ってくるお金 |
|---|---|---|
| 受注・設計 | 設計者の人件費 | なし |
| 材料手配 | 銅バー、機器、キャビネット、ケーブル | なし |
| 製作・配線 | 製造の人件費、外注の板金費 | なし |
| 納品・検査 | 現地調整の費用 | なし |
| 検収後 | なし | ここで初めて入金 |
審査事典は、収支のずれを、受注・設計・製造・検査・納品・検収を経て、掛取引で現金を回収するまでに時間がかかるためと説明しています。そのうえで、手形決済が根強く残っているため、さらに遅くなる場合もあると書いています。第14次の記述なので、いまの商習慣は取引先ごとに確かめる必要があります。
売上債権の回転期間の平均は92日で、約3か月。手形が絡む建設業向けの取引では、半年以上になる場合もある、というのが審査事典の描く時間差です。
平均的な盤メーカーは、売上債権に約8,000万円を置いている
審査事典には、TKC経営指標に基づく2018年度の平均値が載っています。316社の平均で、従事員は20.3名です。
売上債権は事典の貸借対照表の平均値(79,983千円)、「2倍」は当社の計算上の仮定です。回転期間が同じで、売上だけが2倍になった場合、増える売上債権は約8,000万円で、平均的な会社の現金預金(約7,130万円)より大きくなります。実際の資金需要は、仕入先への支払い(買入債務の回転期間は47.8日)や棚卸資産の増減でも動くため、この額とは一致しません。
売上債権は、売上は立ったのに、まだ回収していないお金です。受注が増えれば、この残高は売上に比例して膨らみます。黒字のまま現金が薄くなるのは、この仕組みです。
決算書では、作りかけの盤が仕掛品になる
作りかけの盤は、決算書の棚卸資産に入ります。審査事典の平均では、棚卸資産の回転期間は36.0日で、棚卸資産は総資産の約1割です。
決算書の上では在庫が膨らんだように見え、金融機関から指摘されやすい項目です。ただ、同じ金額でも、中身は二通りに分かれます。
- 受注済みの案件のために動いている材料
- 失注した案件や、仕様変更で止まった案件の材料
同じ仕掛品の金額でも、受注済みの案件のものか、止まった案件のものかで、意味が正反対になる。
前者は、これから請求できる売上の裏づけです。後者は、資産のように見えている損失です。二つが混ざったまま出すと、買い手は中身を確かめきれず、確かめきれない部分を評価から外す方向になりやすくなります。
黒字でも苦しい年、赤字でも健全な年
受注生産では、決算書の見た目と会社の実力がずれることがあります。
黒字なのに苦しいのは、伸びているときです。売上が増えるほど売上債権が膨らみ、利益は出ているのに現金が薄くなります。
赤字でも健全な年もあります。大型案件の納品と検収が期末をまたぐと、売上は翌期にずれる一方、その期の人件費などの固定費は当期に計上されます。回収は翌期に来ます。
審査事典も、損益計算書は単年度だけでなく、過去からの売上高、営業利益、経常利益の伸びを重点的に見るよう勧めています。出す側も、1年の数字ではなく、3期分の受注残と入金の並びで説明できるようにしておくと、赤字の年の理由を伝えやすくなります。
審査事典の2018年度の平均で、全企業(316社)と黒字企業(219社)を並べると、差が出る場所と出ない場所が分かれます。
| 指標 | 全企業 | 黒字企業 |
|---|---|---|
| 売上債権の回転期間 | 92.0日 | 92.7日 |
| 棚卸資産の回転期間 | 36.0日 | 33.7日 |
| 借入金は月商の何か月分か | 3.5か月 | 2.8か月 |
| 自己資本比率 | 43.6% | 49.5% |
| 売上高営業利益率 | 5.3% | 6.7% |
入金までの日数は、黒字企業も全企業とほぼ同じ。差が出るのは、借入の重さと利益率だ。
決算書で見られる点は4つ
金融機関向けの事典が重点確認を勧める項目と、ここまでの整理から、売却の場面でも説明を求められそうな点を4つ選びました(当社の見立てです)。
1. 仕掛品の内訳と滞留
いつから動いていない材料か。案件番号と紐づいているか。1年以上動いていないものがどれだけあるか。
2. 取引先ごとの入金サイト
ゼネコン経由、サブコン経由、直需で、入金までの日数が違うことがあります。事典は、現金回収が必要以上に長期化していないかを、キャッシュフロー分析で注意するよう書いています。どの商流の比率が高いかで、必要な運転資金の量が決まります。
3. 借入の中身
上の表のとおり、全企業の借入金は黒字企業より重くなっています。事典は、黒字企業以外は借入金、特に長期借入金への依存が大きいと指摘し、既存の借入が過大でないかを重点的に確認するよう書いています。運転資金として回っている借入と、過去の赤字を埋めた借入は、区別して説明する必要があります。
借入は、額の大小より、運転資金の分と赤字の穴埋めの分に分けて説明できるかが問われる。
4. 案件別の原価
出せると、赤字の年を「特定の案件で読み違えた」と説明できます。出せないと、収益力の判断は慎重になります。事典は、役員報酬が業績に対して過大でないかも確認する点に挙げています。平均では、売上高に対する役員報酬は、全企業で4.9%、黒字企業で4.5%です。
同じ論点は電材卸の在庫にもあります。金額が同じでも中身で評価が変わる構造は、電材卸の在庫は、棚卸金額ではなく「年齢」で見られるに書きました。
公表された買収の理由は、電装の内製化と海外展開だった
2022年6月、産業機械のメーカー商社であるリックスの連結子会社リックステクノは、石川県の制御盤製作会社CEMの全株式を取得しました(リックスから見て孫会社化)。CEMの売上高は2億2,100万円(2021年5月期)です。リックスは、産業機械の製造で電装部分の大部分を外注していることに課題を感じ、内製化を検討していたと、適時開示に書いています。
同じ年の8月、事典が代表的な企業に挙げる河村電器産業は、シンガポールの配電盤メーカーの発行済株式の70%を取得すると発表しました。目的は東南アジアでの事業拡大です。
リックスが公表した取得の理由は、電装を外注から内製に変えることだった。
どちらも公表情報に基づく紹介で、当社が関与した案件ではありません。設計者と取引先の側から見た盤メーカーの評価は、盤メーカーの値打ちは設備ではなく「図面を描ける人」にあるに書きました。
資材を掛けで出す側も、同じ時間差の中にいる
電材卸は、銅バーやキャビネット、機器を、掛売りで盤メーカーに出します。出荷して、請求して、回収するまでの間、立て替えているのは卸の側も同じです。時間差の苦しさは、盤メーカーに限らず、盤の周りの商流が共有している構造です。
自社でできる、3つの確認
- 直近3期の受注残と、仕掛品の案件別の内訳を、1枚に書き出せるか。
- 売上の上位5社の、検収から入金までの日数はいつか。手形は何割か。
- 借入のうち、運転資金として回っている分と、過去の赤字を埋めた分はいくらか。
三つが書き出せていれば、買い手に会う前に、決算書の見え方を説明する材料が自分で手に入ります。売却の価格の目安は、診断と電気工事会社の売却相場で、年買法の考え方から確かめられます。
参照した一次資料
よくあるご質問
仕掛品が多いと、評価は下がりますか。
借入が多いのですが、売却できますか。
案件別の原価管理をしていません。不利になりますか。
決算書は黒字なのに、手元にお金が残りません。会社に問題がありますか。
知りたかったことは分かりましたか
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)