電材卸なのに輸入者?自社で仕入れた電気用品を承継する前に確認すること
記事中のモデルケースは、理解を助けるための架空の例です。 当社の成約実績ではありません。
棚の商品を数え、仕入先の連絡先を渡せば、明日からも同じように商売を続けられる。承継の準備では、そう考えたくなるかもしれません。
ところが、国内の問屋から仕入れている商品と、自社が海外から直接輸入している商品では、確認する仕事が違います。会社では一緒に「仕入れ」と呼んでいても、電気用品安全法の上では、販売事業者なのか、輸入事業者なのかで担う役割が変わるからです。
承継前に知りたいのは、PSEマークの読み方だけではありません。その商品の販売を支えている届出や資料を、次の担当者が取り出せるか。次の注文を出すとき、誰が何を確かめるか。そこまでが引継ぎの対象です。
最初は、一箱をたどるだけでよい
次の場面は、確認の順序を考えるための仮想例です。倉庫に、いつも扱っている照明器具があります。箱には自社ブランドが付いていますが、担当者は「海外の取引先から買っている」としか説明できません。
ここで「自社ブランドだから製造者」「海外製だから自社が輸入者」と決めるのは早すぎます。
まず、その商品が誰から誰へ売られ、誰が輸入しているのかを、発注書、請求書、通関関係の書類などで確認します。国内の別会社が輸入した商品を自社が販売している場合もあれば、自社が輸入の主体となっている場合もあります。
ブランド名を眺めるより、実際の取引を一つたどるほうが、次の担当者が必要な資料を探しやすくなります。
ただし、電材と呼ばれる商品がすべて電気用品安全法の対象というわけではありません。対象になるかは、法令で定める品目や製品の仕様に沿って確かめます。本稿は個々の器具や盤の適用判定を行うものではありません。電気用品安全法第2条
「マークがある」と「その仕事を引き継げる」は別の確認
本稿は日本国内の会社が輸入・販売する場合を想定しています。電気用品の製造・輸入に関する届出事業者には、原則として、技術基準への適合、検査と記録の作成・保存などの義務があります。特定電気用品に当たる場合には、適合性検査や証明書の確認も関わります。販売の段階では、原則として必要な表示がない電気用品を販売したり、販売目的で陳列したりすることはできません。電気用品安全法第8・9・10・27条
日本品質保証機構も、製造・輸入事業者の仕事として、届出、技術基準への適合、検査記録、表示などを分けて案内しています。マークの写真一枚を残すだけでは、その仕事全体の引継ぎにはなりません。日本品質保証機構「電気用品安全法の概要」
承継準備としては、まず一商品について、次のつながりを確かめる方法があります。
これは法定の新しい様式ではなく、資料を探すための整理案です。
- 現物の型番や仕様から、該当する届出・検査資料へたどれる
- 届出や証明書の名義と、実際の事業者を照合できる
- 仕入先に仕様変更があったとき、誰が確認するか分かる
- 検査記録を保管している場所と、閲覧できる担当者が分かる
- 不明点が出たとき、仕入先・所管窓口・検査機関のどこへ聞くか分かる
資料が見つからないことと、直ちに違法と判断することも分けてください。
まず所在や対象範囲を確認し、販売を続けてよいか判断できないものは、社内の責任者から所管窓口や専門家へ確認する。経営者の経験だけで「今まで売れていたから」と結論を出さないための準備です。
会社の株を譲るのか、輸入事業を移すのか
株式譲渡で株主が変わっても、対象会社そのものが別法人になるわけではありません。会社法第3・127条一方、事業譲渡では、仕事の担い手を別の会社へ移すことがあります。この違いを飛ばして、「会社を売るので承継届を出す」と一括りにしないことが大切です。
電気用品安全法第4条は、届出に係る事業の全部の譲渡や、一定の相続・合併・分割による届出事業者の地位の承継を定めています。地位を承継した者には、遅滞なく、事実を証する書面を添えて届け出る規定があります。商品の一部や在庫だけを買うことまで、同じ扱いになるとは読み替えられません。電気用品安全法第4条
また、株式譲渡でも代表者や住所などの届出事項を変えるなら、変更手続の確認が別に残ります。どの事項が変わるかを整理し、第5条や関係規則に沿って確認します。同条には省令で定める軽微な変更の例外もあるため、変更の有無だけで届出要否を一律に判断しません。「株式譲渡だから何もしなくてよい」とも言い切れません。電気用品安全法第5条
契約方式を決める段階で、現在の届出名義、移す事業の範囲、変更する事項を所管窓口へ確認できる形にしておくと、売買契約と行政手続の認識差を減らせます。商品の表示を誰の名前へ、いつ変更するか、証明書をどう扱うかについても、一律の結論を出さず、商品と手続に応じて確認します。
引継ぎの試験は「次の発注」を説明してもらう
厚い資料の束を渡して終えるより、次の担当者に、これから発注する一商品を選んでもらうと、足りないものが見えてきます。
どの仕様を発注するのか。前回から変更はないか。対応する資料はどれか。到着後に何を確認し、記録はどこへ置くのか。不明点があれば誰へ連絡するのか。この流れを、実際の発注や出荷を行う前に説明してもらう方法です。
旧社長が横で答えを補わないと進まない箇所があれば、そこが引継ぎの残作業です。記録の不足なのか、専門知識の不足なのか、取引先への照会が必要なのかを分けます。新しい担当者へ責任だけを移さず、確認できる資料と相談先も渡します。
ここで見ているのは、在庫の値段とは別の継続条件です。在庫の動きや滞留については電材卸の在庫評価、メーカーとの契約については代理店契約の承継も合わせて整理できます。
「うちは卸だから」で確認を終えない
自社で輸入している商品があるのか、届出がどこにあるのか、すぐには答えられなくても、確認を始めることはできます。
最初から全商品を整理し切ろうとせず、代表的な商流と、担当者しか分からない商品を選んでみてください。
売却方法がまだ決まっていない段階なら、商流と資料の保管先を整理し、どの業務を残したいかを考えるところからで構いません。承継の相談窓口では、会社の引継ぎ条件と、行政・製品安全の専門家へ確認したい事項を分けて相談できます。商品ごとの適法性や必要手続は、所管窓口や専門家の確認を前提に進めます。
参照した一次資料
- 電気用品安全法第2条 (2026年10月19日確認)
- 日本品質保証機構「電気用品安全法の概要」 (2026年10月19日確認)
- 会社法第3・127条 (2026年10月19日確認)
知りたかったことは分かりましたか
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)