消防設備の会社が買われるのは、26年間ずっと業者数が増えていないから
消防設備の会社の社長さんは、点検の売上を低く見ていることがあります。
「点検なんて、単価の安い仕事ですから」
買い手は逆に見ています。
工事の売上は毎年ゼロから積み直す。点検の売上は、来年もそこにある。
26年間、業者数がほぼ変わっていない
国土交通省が毎年公表している建設業許可業者数の調査に、この業種の特殊さがそのまま出ています。
令和8年3月末時点で、全国の建設業許可業者は483,823業者。ピークだった平成12年3月末と比べて117,157業者、19.5%減っています。
業種別に見ると、減り方はもっと極端です。
| 業種 | 平成12年3月末 | 令和8年3月末 | 26年間の増減 |
|---|---|---|---|
| 建築工事業 | 226,778 | 140,967 | -37.8% |
| 土木工事業 | 167,891 | 130,833 | -22.1% |
| 造園工事業 | 35,033 | 24,070 | -31.3% |
| 消防施設工事業 | 16,013 | 16,075 | +0.4% |
(国土交通省「建設業許可業者数調査」令和8年3月末現在)
建築が4割近く消えるなかで、消防施設工事業は26年間で0.4%しか変わっていません。
増えてもいない。減ってもいない。
これは市場が停滞しているという意味ではありません。プレイヤーの数が固定されている、という意味です。
増えない理由は、資格と法律の両側にある
なぜ新規が入ってこないのか。
消防設備士という資格の壁があります。 消火設備や自動火災報知設備の工事・整備には、甲種・乙種の消防設備士が必要です。取得には実務と試験が要り、思い立ってすぐ増やせるものではありません。
そして、そもそもの仕事の量が景気ではなく法律で決まっています。
消防法により、防火対象物の関係者は消防用設備等を定期的に点検し、その結果を消防長または消防署長に報告する義務を負います(総務省消防庁「消防用設備等の点検基準、点検要領、点検票」)。
つまり、建物が建っている限り点検は発生し続けます。景気が悪くても、テナントが替わっても、点検の義務はなくなりません。
需要が法律で保証されていて、供給者の数が26年間増えていない。買いたい側から見れば、これほど分かりやすい市場はない。
買い手にとっては「入れない市場への切符」
消防施設工事業の許可業者は16,075業者で、建設業の全許可業者の3.3%にすぎません。29業種のなかで3番目に少ない業種です(少ないのは清掃施設372業者、さく井2,216業者、そして消防施設)。
参入したい会社にとって、選択肢は2つしかありません。
- 有資格者を採用し、実績を積み、顧客を一から開拓する
- すでにやっている会社を買う
有資格者が採用市場にほとんど出てこないことを考えると、現実的なのは2です。
だから買い手が来ます。
- ビルメンテナンス会社:すでに建物に出入りしている。消防点検も自社で持ちたい
- 警備会社:防災と防犯は同じ建物の同じ担当者が窓口。まとめて取りたい
- 設備工事会社:工事は請けられるが点検の資格者がいない
- 同業の消防設備会社:エリアを広げたい。有資格者が欲しい
買い手が実際に見る4点
1. 点検契約の件数と継続年数
何件の建物を、どの周期で点検しているか。そして何年続いているか。
10年続いている契約は、翌年も続く可能性が高いと見られます。ここが工事売上との決定的な違いです。
2. 契約が書面になっているか
長い付き合いで、口頭のまま続いている契約は珍しくありません。ですが買い手は書面がないと売上として計算に入れにくくなります。
承継を考えるなら、まず既存の点検先と書面を交わし直すこと。これは今日から始められて、確実に評価を上げます。
3. 消防設備士の人数と年齢
社長だけが有資格者という会社は、この業種では非常によくあります。退任と同時に点検が継続できなくなるため、残留期間の設計か、承継前の有資格者確保が論点になります。
同じ構造の論点は電気工事会社にもあり、社長が引退すると建設業許可が消える会社があるに書きました。
4. 点検から改修工事につながっているか
点検で不良が見つかれば改修の提案ができます。この転換率が高い会社は、点検が単なる作業ではなく営業の入口として機能しています。買い手が最も評価する形です。
「後継者がいない」相談が最も多い業種
帝国データバンクの調査によれば、全業種の後継者不在率が50.1%まで下がったなかで、建設業は57.3%と全業種で最も高い水準にあります(「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」)。
消防設備工事もこの建設業に含まれます。
業者数が26年間増えていないということは、新しく始めた人がほとんどいないということでもあります。裏を返せば、経営者の年齢層がそのまま上がってきたということです。
同じ悩みを抱えた会社が周囲に多いということは、買い手にとっても選択肢が多いということです。だから、整理ができている会社から順に条件の良い相手と話が進みます。
資材を納めてきた側から見ています
私たちは1950年から電設資材を扱ってきました。
自動火災報知設備の受信機も、感知器も、非常放送の設備も、電設資材の商流に乗って現場に届きます。消防設備の会社がどこから何を仕入れ、どの建物に納めているか——その流れを、資材を納める側として日常的に見ています。
点検台帳の整理も、有資格者の確保も、売却を決めてからでは間に合いません。ですが今から始めれば、1年で形になります。
売却をお決めでない段階で結構です。まず、点検契約の一覧を一緒に作るところから始めましょう。
参照した一次資料
よくあるご質問
点検だけで工事はほとんどしていません。それでも売れますか。
消防設備士が社長だけです。不利になりますか。
顧客リストが紙の台帳しかありません。
買い手はどんな会社ですか。
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)