電設インフラの会社を、いま誰が買っているのか
「うちみたいな会社を、誰が買うんですか」
ご相談でいちばん多く聞かれることです。売り手の方が最初に知りたいのは、価格ではなく相手の有無なのだと思います。
公表されている事例から、いま実際に何が起きているかを整理します。
※ 以下はすべて公表情報に基づく業界動向の紹介であり、当社が関与した案件ではありません。
相場観が変わった2つの案件
大和ハウス工業 × 住友電設(2025年10月発表)
ハウスメーカーが、電気設備工事の大手を約2,920億円で買収しました。同社にとって過去最大の買収です。
狙いは明確で、データセンターと半導体工場の建設需要に対する施工力の垂直統合です。
建物を建てられても、電気を通す職人がいなければ完成しない。だから工事会社ごと買う。
きんでん × 弘電社(2026年5月発表)
電力系サブコン最大手が、電気設備工事会社にTOBをかけました。1株11,501円です。
興味深いのは弘電社の事業構成で、屋内線・送電線・発変電・通信・空調の工事に加えて、汎用電気機器・産業用電気電子機器・冷熱住設機器の商品販売事業も持っています。つまり「工事+電材販売」の複合体が評価された形です。
電材と工事は別物ではない、という当社の見方を裏づける事例でもあります。
なぜいま買われるのか
需要側:データセンターと再エネ
国内のデータセンター建設投資は、2024年の約4,000億円から2028年に1兆円超へ拡大すると予測されています(IDC Japan)。
半導体工場、再エネ、EV充電も含めて、電気を扱う仕事は今後10年増え続けます。
供給側:人が採れない
一方で、工事をする人がいません。
| データ | 数値 |
|---|---|
| 建設業就業者の55歳以上比率 | 36.7%(全産業32.4%) |
| 29歳以下 | 11.7%(全産業16.9%) |
| 人手不足倒産(2025年) | 427件で3年連続過去最多 |
| うち建設業 | 113件で初の100件超 |
仕事はあるのに人がいない。 だから「人ごと買う」。これが電設インフラのM&Aの根本的な動機です。
買い手が欲しいのは、売上や利益より、有資格者と、許認可と、施工実績です。
買い手の5類型
1. 同業(地域・技術者の補完)
最も件数が多い類型です。商圏が隣接していて、技術者を融通し合える相手。売り手の従業員にとっても、仕事の中身が変わらないため受け入れられやすい形です。
2. 電力系サブコン・大手設備工事会社
きんでん、クラフティア(旧九電工)など。全国展開を進めるなかで、地域の施工力を取り込みます。2026年3月期は電気設備工事大手5社のうち4社が増収増益で、買収余力が高い状態です。
3. 異業種大手(データセンター・半導体需要)
大和ハウス×住友電設が象徴する動きです。ハウスメーカー、不動産、商社が「施工力を買う」段階に入っています。
4. 電材商社(川上からの統合)
意外に思われるかもしれませんが、資材を納めている側が買うケースは多いのです。
- 藤井産業が、サンユウ(制御盤・分電盤の設計製作)の全株式を取得し子会社化(2018年12月)
- 因幡電機産業が、東光電機産業(2001年)、パトライト(2013年)、山根電業社(2021年)を買収
- 立花エレテックが、大電社をTOBで完全子会社化(2010年)、タカギコネクトを完全子会社化(2019年)
商流が既にあるので統合が進めやすく、商社側にとっては付加価値を上げる手になります。
5. 事業承継ファンド
地域の会社を複数集めて規模を作る戦略です。中小M&Aで増えている類型で、経営陣がそのまま残ることを前提にするケースもあります。
業種別に、誰が買っているか
| 売り手 | 主な買い手 |
|---|---|
| 電材卸・電設資材商社 | 同業商社、電力系サブコン、産業機器商社、ファンド |
| 配電盤・制御盤製造 | 電材商社、同業の盤メーカー、サブコン、装置メーカー |
| 計装工事 | サブコン、プラントエンジ、盤メーカー、計装メーカー系列 |
| 電気工事 | 同業、電力系サブコン、異業種大手、電材商社 |
| 消防設備 | 同業、電気工事会社、ビルメン、警備・防災大手 |
| 電気通信工事 | 同業、通信建設大手、ITインフラ、警備会社 |
業種をまたいで買い手が重なっているのが分かると思います。盤メーカーを探している電材商社が、電気工事会社にも関心を持つ。計装会社を探しているサブコンが、盤メーカーも見ている。
だから当社は、電設インフラの川上から川下までをひとつの商流として扱っています。業種で切ってしまうと、この重なりが見えなくなります。
「相手がいるか」を先に知る方法
掲載のご了承をいただいた買い手のニーズは、買い手ニーズ一覧に匿名で公開しています。
買い手の多くは、検討していること自体を明かしたがりません。だから公開されている一覧は、実際に動いている相手のごく一部です。
ご相談いただければ、非公開のものを含めてお探しします。
参照した一次資料
- 日経クロステック「大和ハウス工業が住友電設をTOB」 (2025年10月)
- 日本M&Aセンター「きんでんによる弘電社へのTOB」 (2026年5月)
- IDC Japan「国内データセンター建設投資予測」 (2024〜2028年予測)
- 帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年)」 (2025年)
- 国土交通省「建設業を巡る現状と課題」 (2024年)
よくあるご質問
うちのような小さな会社にも買い手はいますか。
大手に買われると、会社の名前は消えますか。
ここに挙がっている会社は、御社が仲介した案件ですか。
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)