電設インフラの会社を、いま誰が買っているのか|2026年10月の公表情報から
2026年10月時点で、公表資料から確認できる電設インフラの買い手は、3つの動きにまとめられます。大手設備工事会社の中期経営計画に書かれたM&A方針、異業種大手による住友電設の買収、きんでんによる弘電社の完全子会社化です。買い手の発表資料に出てくる言葉は、売上の大きさより、施工体制や担い手の確保です。
小さな電気工事会社や電材商社を、どんな業種の会社が何件買ったのか。この内訳を示す公的な統計は、確認できませんでした。以下は、公表されている資料に書かれたことに限って整理します。
以下はすべて公表情報に基づく業界動向の紹介であり、当社が関与した案件ではありません。
大手5社の中期経営計画は、成長投資の用途にM&Aを書いている
上場している設備工事会社は、中期経営計画で、成長投資の使い道を公表しています。電気設備・通信の大手5社の記載を並べます。
| 会社 | 計画の期間 | M&Aに関する記載 |
|---|---|---|
| きんでん | 2021〜2026年度 | 2026年度に連結売上高7,000億円程度・営業利益500億円程度をめざし、成長投資に「事業基盤の整備・拡充(M&A含む)」を挙げる |
| 関電工 | 2024〜2026年度 | 総額1,250億円程度の投資のうち、事業投資550億円程度の用途に「M&A・アライアンスによる事業領域拡大・既存事業深化」 |
| 日本電設工業 | 2024〜2031年度 | 累計750億円の成長投資の用途に「施工体制強化や新規事業に通じるM&A」と「協力会社へ採用や事業承継などの支援の強化」 |
| エクシオグループ | 2026〜2030年 | 5年累計3,000億円の成長投資のうち、事業成長・拡大投資1,000億円程度の用途に「新たな技術領域の補完や担い手確保等に向けたM&A」 |
| コムシスHD | 2025〜2030年度 | 6年間で成長投資2,000億円以上。M&Aの規模によっては追加の資金調達 |
日本電設工業の計画には、協力会社の「事業承継」と「後継者問題の解消」が、支援する項目として書かれている。
日本電設工業の計画の図は、協力会社の体制強化の柱として、採用の支援、教育の支援、事業承継を並べ、事業承継の説明に「後継者問題の解消」「技能継承」と書いています。同社は、協力会社に起きる後継者問題を、自社の施工能力の問題として扱っています。
計画に書かれた方針は、個別の会社を買う約束ではありません。
大和ハウス工業の住友電設買収は総額約2,920億円で、親会社向けの価格は約3割低かった
2025年10月30日、大和ハウス工業は、住友電設の普通株式を公開買付け(TOB)で取得すると発表しました。1株9,760円です。日経クロステックは、公開買付けと、親会社の住友電気工業が持つ株(50.66%)の自己株式取得を合わせた総額を約2,920億円と報じています。内訳は、公開買付けが約1,700億円、住友電設による自己株式取得が約1,220億円です(公開買付けの買付代金は、大和ハウスの発表資料で1,694億円余と確認できます)。
親会社の住友電気工業は、公開買付けには応募しません。住友電設が、住友電気工業の持ち分を自己株式として取得する形をとり、その価格は1株6,877円です。少数株主向けの9,760円より、約3割低い金額です。
大和ハウスの発表資料は、この差の理由を書いています。住友電気工業には、法人税法のみなし配当の益金不算入が適用されることが見込まれます。そこで、自己株式取得で住友電気工業が受け取る税引き後の手取りが、公開買付けに応じた場合の税引き後の手取りと同額になるよう、価格を計算した、という説明です。
価格の差は、売り手ごとの税の扱いを揃えるための計算です。売り手にとっての価値は、額面の価格より、税を引いた手取りで比べます。
買い手が挙げた理由は、はっきりしています。同じ資料に、データセンター・半導体工場等の建設・開発を強化するには、安定した工事体制の確立、特に専門性の高い技術力等を有する設備会社の確保が大きな課題の一つだと書かれています。投資先の検討は、2023年4月から幅広く進めていた、とも書かれています。
個人の社長が株式を売る場合の手取りは、会社売却の手取りの計算で、1億円を例に順に引いています。
きんでんは弘電社を完全子会社にした。弘電社は工事と商品販売の両方を持っていた
きんでんは、2026年5月25日に弘電社への公開買付けを発表し、7月13日の決済で弘電社株を3,714,499株(42.53%)取得して関連会社にしました。9月30日付で、一連の取引を完了し、弘電社は、きんでんの完全子会社になりました。
親会社だった三菱電機の持ち分(51.36%)は、きんでんが直接買ったのではありません。弘電社が自己株式として取得する形で、その資金のために、きんでんが弘電社の第三者割当増資を引き受けています。
弘電社の事業は、電気設備工事(屋内線、送電線、発変電、通信、空調の設計・施工)と、商品販売(汎用電気機器、産業用電気・電子機器、冷熱住設機器等の販売)の二つです。設立は1917年です。
工事会社の決算書に「商品販売」の事業がある。電材を売る側から見ると、工事と資材は同じ取引先の中でつながっています。
M&A件数は3年連続で最多になり、公表案件の約8割は国内企業同士である
レコフデータの集計では、2026年1〜9月の日本企業のM&A件数は3,883件でした。前年同期の3,699件から5.0%増え、3年連続の最多です。金額は22兆8,024億円で、21.1%減っています。
件数の内訳は、国内企業同士(IN-IN)が3,090件で、約8割(当社計算で79.6%)を占めます。海外企業が日本企業を買う案件(OUT-IN)は326件でした。いずれも公表された案件の集計で、公表されない小さな案件は含みません。
小さな会社の動きは、公的な窓口の数字で見ます。事業承継・引継ぎ支援センターの令和7年度の実績は、次のとおりです。
| 項目 | 令和7年度 |
|---|---|
| 新規相談者 | 24,030者(開設以来初の24,000者超) |
| 第三者承継(M&A)の成約 | 2,265件(過去最多) |
| 成約した譲渡企業のうち、売上1億円以下 | 68.5%(当社合算) |
| 成約した譲渡企業の業種:建設業 | 11.1% |
| 同:卸・小売業 | 17.4% |
窓口で成約した譲渡企業の約7割は、売上が1億円以下だった。
売上1億円以下は、売上3,000万円以下の36.9%と、3,000万円超1億円以下の31.6%を足した値です。建設業と卸・小売業が成約の業種に入っていることも、この資料から分かります。ただし、電気工事業や電材卸だけの件数は、資料に出ていません。
需要は増え、人は足りない。買い手の言葉は「担い手」に集まる
買い手が人と施工体制を求める背景は、公表されている数字からも読めます。
需要の側では、IDC Japanが、国内の事業者データセンターの新設・増設にかかる建設投資が、2028年に1兆円を超えると予測しています。電力広域的運営推進機関は、2025年度の需要想定で、データセンターと半導体工場の新増設分だけで、2034年度に最大需要電力715万kW(うちデータセンター616万kW)を上乗せしました。
人の側では、総務省の労働力調査(2025年平均)から当社が計算すると、建設業就業者478万人のうち55歳以上が約36.6%、29歳以下が約11.9%です。全産業では、55歳以上が約32.8%、29歳以下が約17.0%です。帝国データバンクによると、人手不足倒産は2026年度上半期(4〜9月)に225件で、4年連続で年度上半期の過去最多でした。建設業は70件で最も多く、前年同期より17件増えています。
電気工事業者への経産省のアンケート(令和6年度)では、電気工事士などの人手が「大いに不足・やや不足」と答えた事業者が7割でした。6割超が採用活動をしている一方、8割近くが採用目標に届いていません。
| 見るもの | 数字 |
|---|---|
| 建設業就業者の55歳以上(全産業) | 約36.6%(約32.8%)※当社計算 |
| 建設業就業者の29歳以下(全産業) | 約11.9%(約17.0%)※当社計算 |
| 人手不足倒産(2026年度上半期) | 225件、うち建設業70件 |
| 電気工事士などの人手が不足している事業者 | 7割(経産省アンケート) |
採用で埋まらない人手を、会社ごと迎えることで埋める。買い手の発表資料に「担い手確保」「設備会社の確保」という言葉が出てくるのは、この需給の裏返しです。
買い手の型は、公表資料から3つ読める
小さな会社の買い手の内訳は公表されていないので、ここでは、一次資料で確かめられた動きを型に分けます。
| 型 | 公表資料で確認できた動き | 資料にある買い手の言葉 |
|---|---|---|
| 大手の設備工事会社 | きんでん、関電工、日本電設工業、エクシオ、コムシスの中期経営計画 | 「事業基盤の整備・拡充」「施工体制強化」「担い手確保」 |
| 異業種の大手 | 大和ハウス工業による住友電設の買収 | 「安定した工事体制の確立」「設備会社の確保」 |
| 親会社が外す上場子会社を取り込む同業大手 | きんでんによる弘電社の完全子会社化 | 一連の取引で、弘電社の株主をきんでんだけにする |
このほかに、同業の地元の工事会社、電材商社、ファンドが買い手になる筋もあります。ただ、当社が公式の開示で件数や条件を確かめられた具体例は、この記事に載せていません。
電材商社が買い手になる筋は、取引の構造から説明できます。電材卸は、工事会社へ資材を納め、締め支払いの取引で与信を見ます。取引先の支払いの様子から資金繰りが見え、扱う資材の種類も分かる立場です。盤メーカーや計装会社は、資材の仕様で電材卸と商流がつながっています。商流がすでにある相手とは、統合の話が具体的になりやすいと考えられます。ただし、この筋の件数や条件を示す公表資料は、確認できていません。
売り手の側で、いま確かめられること
買い手の動きは、売り手が自分の会社に当てはめて読むことができます。次の3つです。
- 買い手が言う「担い手」とは、建設業許可の経営業務の管理体制、営業所技術者、主任電気工事士のような、届出に載る人です。許可と資格者の行き先は、許可と登録がどの方法なら残るかにまとめています
- 売上1億円以下の会社も成約している、という窓口の数字を、自社の規模と並べてみます。同じ規模の会社の動きは、小さな会社の売却にあります
- 価格は、国の集計が示す倍率と、その幅の理由を先に読んでおきます。電気工事会社・電材卸の売却相場に書きました
買い手のほうの記事もあります。許可付きの会社を引き継ぐ条件は建設業許可は買える?に、買い手として探している方は買い手として登録するに案内があります。
掲載に同意いただいた買い手のニーズは、買い手ニーズ一覧に匿名で載せています。公開している一覧は、ご同意いただいたものだけです。
参照した一次資料
- きんでん「株式会社弘電社の完全子会社化に関するお知らせ」 (2026年9月30日)
- 大和ハウス工業「住友電設株式会社の株式に対する公開買付けの開始、及び連結子会社化に関するお知らせ」 (2025年10月30日)
- 日経クロステック「大和ハウス工業が住友電設をTOB」(総額約2,920億円の報道) (2025年10月)
- きんでん「中期経営計画(2021〜2026年度)」
- 関電工「中期経営計画(2024〜2026年度)」 (2026年4月28日更新)
- 日本電設工業「中期経営計画(2024〜2031年度)」 (2025年6月12日)
- エクシオグループ「中期経営計画(2026-2030)」
- コムシスホールディングス「2030ビジョン」 (2025年5月9日)
- レコフデータ/マールオンライン「2026年1-9月期のM&A件数」 (2026年10月2日)
- 中小機構「令和7年度 事業承継・引継ぎ支援センターの実績について」 (2026年5月29日)
- 電力広域的運営推進機関「全国及び供給区域ごとの需要想定(2025年度)」 (2025年1月22日)
- IDC Japan「国内データセンター建設投資予測」 (2025年4月(2028年までの予測))
- 総務省統計局「労働力調査 基本集計 2025年平均」(第II-2-1表) (2025年平均)
- 帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2026年度上半期)」 (2026年10月7日)
- 経済産業省 電気保安制度ワーキンググループ(第16回)資料1-2(電気工事業者へのアンケート) (2026年2月公表(令和6年度調査))
よくあるご質問
うちのような小さな会社にも買い手はいますか。
大手に買われると、会社の名前は消えますか。
ここに挙がっている会社は、御社が仲介した案件ですか。
電材商社や同業の工事会社が買い手になった例の件数は分かりますか。
知りたかったことは分かりましたか
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)