会社を譲ると有給休暇は消える?電気工事会社が残日数のほかに引き継ぐ記録
記事中のモデルケースは、理解を助けるための架空の例です。 当社の成約実績ではありません。
「社長が代わったら、残っている有給休暇はどうなるのですか」。従業員からそう聞かれたとき、給与ソフトの「残り12日」という数字だけでは、説明しきれないことがあります。
いつ付与した休暇なのか。いつまで使えるのか。今年は何日取得したのか。承継後に予定している休みは、誰まで伝わっているのか。少人数で現場を回す電気工事会社では、こうした情報が欠けると、従業員への説明と現場の人員配置の両方が止まります。
承継の準備では、まず雇用関係と年休の取扱いを確認し、その判断に使える記録をそろえましょう。残日数を別の表へ写すだけでは足りません。
「譲ったからゼロ」「必ずそのまま」のどちらも先に決めない
株式の持ち主や代表者が変わっても、雇用主である会社が同じなら、まず従前の雇用関係を前提に確認します。一方、事業譲渡で別の会社へ労働契約を移す場合には、個々の従業員の承諾や労働条件の説明が問題になります。厚生労働省の事業譲渡等指針も、十分な説明と協議を求めています。厚生労働省「事業譲渡等指針」
ここで「別会社になるから勤続年数も年休もゼロ」と機械的に処理しないことが大切です。年休の継続勤務は、形式だけでなく実質的な労働関係に基づいて判断されます。事業譲渡での具体的な扱いは、働き方の連続性や契約内容などを踏まえて、社会保険労務士や弁護士に確認してください。厚生労働省の一般的な説明だけで、個別の承継案件の結論までは決まりません。厚生労働省「年次有給休暇の付与日数」
従業員への説明・承諾の進め方は、事業譲渡と従業員の同意についての記事で扱っています。本稿では、その説明の土台になる年休記録に絞ります。
残日数の隣に、六つの情報を置く
年次有給休暇管理簿には、労働者ごとの基準日、取得日数、取得日付を明らかにする必要があります。電子的な管理でも構いませんが、必要なときにいつでも出力できる仕組みにしておくことが前提です。厚生労働省「年次有給休暇管理簿」、同「休み方に関するマニュアル」8頁
承継時には法定の記録に加え、次の情報を一人ずつ照合すると、数字の意味を説明しやすくなります。以下は引継ぎのための整理案であり、法定様式ではありません。
| 確認する情報 | 引継ぎで確かめたいこと |
|---|---|
| 入社日・継続勤務の取扱い | 勤続期間の判断に使った資料はどこにあるか |
| 基準日と付与日数 | 次回はいつ、どの取扱いで付与する予定か |
| 付与年度別の残日数 | 合計の内訳と、各付与分の有効期限を説明できるか |
| 取得した日付・日数 | 本人の申請、勤怠記録、管理簿が一致しているか |
| 承認済みの取得予定 | 承継後の現場配置に反映されているか |
| 未確定の項目 | 誰が、何を調べ、いつまでに回答するか |
たとえば、残日数が同じ12日でも、前年分が多い人と今年の付与分が中心の人とでは、先に確認すべき期限が違います。合計だけを新システムへ入力すると、この違いが見えなくなります。
付与日を全員一律にしている会社でも、入社時期による例外や、制度変更前からの経過的な取扱いがないか確認します。古い台帳を無条件に正解とするのではなく、就業規則、付与通知、取得記録を突き合わせてください。
年5日の確認は、残日数とは別に行う
法定の年休が10日以上付与される労働者については、基準日から1年以内に5日の年休を取得させる義務があります。本人の請求による取得や計画年休で取得した日数は、その5日から差し引きます。「5日分が残っているか」と「必要な5日を取得できているか」は、違う確認です。厚生労働省「休み方に関するマニュアル」7〜8頁
説明用の仮例として、4月1日が基準日の従業員が、10月の承継時点で年休を3日取得している場面を考えます。確認したいのは、残日数だけでなく、その取得実績と、翌年3月31日までの取得予定です。承継した日を起点に、以前の取得記録を切り捨てて集計し直す処理は避けましょう。雇用主が変わる案件では、移行期の管理方法も専門家と確認します。
現場責任者が「休みを聞いていない」、事務担当者が「すでに承認済み」となる事態を防ぐには、承認済みの予定も引継ぎ対象に入れます。ただし、現場へ共有するのは配置に必要な情報に絞り、この確認表に私的な事情や詳しい休暇理由まで書き込まない運用にしましょう。
ソフトを替える日は、数字を固定して照合する
年休データの移行で困るのは、旧担当者と新担当者が別々の時点の数字を見ていることです。次のように、確認の順番を決めておくと食い違いを追いやすくなります。
- 「何月何日までの取得を反映した数字か」を決め、元データを保存する。
- 移行対象者と付与年度別の内訳を、旧担当者と新担当者で照合する。
- その後に取得・取消し・修正があった分は、差分として別に記録する。
- 新しい管理簿を出力し、合計だけでなく基準日と取得履歴も確認する。
- 従業員からの照会先と、誤りが見つかった場合の訂正手順を知らせる。
これは新しいシステムを導入する場合に限りません。紙の台帳を引き継ぐ場合も、最終記入日と未反映の申請が分かれば、後任は続きを管理できます。
なお、年休管理簿の保存期間は本則5年ですが、当分の間は3年とされています。保存期間の起算や対象期間を確認し、ソフトの解約前には必要な記録を出力できるか確かめてください。担当者が退職してログインできなくなる場合にも注意が必要です。厚生労働省「改正労働基準法等に関するQ&A」6〜7頁
従業員には、決まったことと確認中のことを分けて伝える
説明の準備が整ったら、本人ごとに「確認時点の残日数」「次の付与予定」「承認済みの休み」「照会先」を示します。まだ判断できない項目には確認期限を付け、曖昧なまま「今までどおりです」と言い切らないほうが、後の行き違いを防げます。
承継を急ぐあまり、「残りはお金に替えて終わらせる」と約束するのも避けてください。あらかじめ買い上げる約束によって法定の年休を減らしたり、取得を認めなかったりする取扱いはできません。和歌山労働局「年休の買上げに関する相談」
まずは従業員一人分について、残日数の根拠と次の付与予定までたどれるかを試してみてください。そこで見つかった不足を全員分へ広げれば、集める資料が具体的になります。
雇用関係や他の引継ぎ項目も含めて整理したい場合は、承継準備のチェックリストと照らし合わせ、未確定の点を相談フォームにまとめてお寄せください。
※制度・資料の確認日:2026年10月22日。個別の年休の取扱いは、承継方法、雇用の実態、契約内容に応じて専門家に確認してください。
参照した一次資料
- 厚生労働省「事業譲渡等指針」 (2026年10月23日再確認)
- 厚生労働省「年次有給休暇の付与日数」 (2026年10月23日再確認)
- 厚生労働省「年次有給休暇管理簿」 (2026年10月23日再確認)
- 同「休み方に関するマニュアル」8頁 (2026年10月23日再確認)
- 厚生労働省「改正労働基準法等に関するQ&A」6〜7頁 (2026年10月23日再確認)
- 和歌山労働局「年休の買上げに関する相談」 (2026年10月23日再確認)
知りたかったことは分かりましたか
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)