盤メーカーの値打ちは設備ではなく「図面を描ける人」にある
配電盤・制御盤のメーカーを譲るとき、工場の設備より先に、図面を描ける人が何人いて何歳かが問われる、と当社は考えます。次に問われるのは、図面を出してくれる取引先がどれだけあるかです。金融機関向けの審査事典も、この業種の事業性評価の着眼点として、まず取引先とのチャネルを挙げています。
受注生産だから、価値が人に寄る
盤の製造は、図面をもらってから作る受注生産です。審査事典(『第14次業種別審査事典』)は、見込生産が難しいため規模の経済が働きにくいと、推測しています。設備を増やしても、それを使いこなす人がいなければ、受注は増えません。
盤の設計は、単線結線図を読み、シーケンスを組み、部材を選び、収まりを決め、客先の要求と法規の両方を満たす仕事です。これを一人で通せる人が社内に何人いるか。その人たちが何歳か。
受注生産の盤メーカーでは、設計を通せる人の数と年齢が、そのまま会社の値打ちを左右する。
審査事典は、着眼点に取引先のチャネルを挙げている
金融機関が融資の判断に使う審査事典は、配電盤・電力制御装置製造業の事業性評価の着眼点を、こう書いています。
見込客となりうるゼネコン・ハウスメーカー等建設業者、電気工事事業者、設備機器メーカー等、あるいは部材メーカー、キャビネットメーカー等とのチャネルを豊富に有しているかが着眼点となりうる
着眼点に挙がっているのは、図面を出してくれる取引先の広さです。同じ項で、現金回収に時間を要するため黒字倒産のリスクに注意が必要な一方、長期借入金に頼りすぎていないかも確認すると書いています。
事業性評価の着眼点の筆頭に、金融機関向けの事典が挙げるのは、設備ではなく取引先のチャネルだ。
事業所の約3分の2が、従業者20人未満
審査事典に載る2017年の工業統計(従業者4人以上の事業所)では、配電盤・電力制御装置製造業の事業所数は2,234でした。
| 従業者の規模 | 事業所数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 4〜9人 | 853 | 38.2% |
| 10〜19人 | 599 | 26.8% |
| 20人未満の合計 | 1,452 | 65.0% |
| 事業所数の合計 | 2,234 | 100.0% |
20人未満の合計は、事典の事業所数を足して当社で計算した値です。
市場そのものは縮んでいません。日本配電制御システム工業会(JSIA)の統計で、閉鎖形配電装置・分電盤・監視制御装置・その他の制御装置の合計金額は、2021年度の615,466百万円から、2025年度の765,179百万円(約7,650億円)になりました。4年で約24%の増加です(増加率は当社計算)。同ページの問い合わせ先に経済産業省の生産動態統計調査が載っているので、生産金額の統計とみられます。
後継者はいるのに、設計者が足りなくなる会社
帝国データバンクの2025年調査で、製造業の後継者不在率は42.4%と、8業種の中で最も低くなっています。建設業は57.3%で最も高い業種です。製造業全体の値で、盤メーカーだけの数字ではありません。
たとえば、子が継ぐと決まっている盤メーカーを考えます。盤を設計できるのは社長と、もう1人の職人だけです。その職人は来年65歳になります。受注はあるのに、設計できる人が足りなくて応えられない。
この会社の問題は後継者ではなく、設計力をどう確保するかだ。
選べる道は一つではありません。設計者を採用する、社内で育てる、設計力のある相手と資本提携して人を融通し合う、会社ごと譲る。売る選択は、そのうちの一つです。
買い手が見る5つの点
次の5点は、審査事典の記述と受注生産の仕組みから、当社が整理したものです。買い手に尋ねた調査の結果ではありません。
| 点 | 買い手が確かめること |
|---|---|
| 設計者の人数と年齢構成 | 設計を通せる人が1人しかいなければ、その人の退職は事業の停止を意味する。複数いるなら、年齢が分かれているか |
| 図面資産 | 過去の図面が検索できる形で残っているか、特定の設計者の頭の中にしかないか。譲渡のあとに同じ盤を作り直せるかが決まる |
| 納入先の種類 | 事典が挙げる相手は、建設業者、電気工事事業者、設備機器メーカー、部材メーカーやキャビネットメーカー。1種類に売上が集中していれば、その相手の方針ひとつで売上が動く |
| 品質の第三者証明 | 事典は、設計力に加えて、ISO9000シリーズやJSIA優良工場の認定で品質管理体制を強化する必要があると書く。JSIA優良工場は、品質システムだけでなく配電盤類の技術力も顧客に評価してもらうことに主眼を置いた、工業会独自の制度 |
| 案件別の原価 | 受注生産では案件ごとに利益率が違う。どの盤が利益を出し、どれが赤字かを説明できるかで、決算書の数字の信頼性が決まる |
五つのうち、決算書に載るのは案件別の原価だけだ。残りの四つは、書き出さなければ買い手に伝わらない。
公表されている買収の例には、電装の内製化を理由に挙げたものがある
盤メーカーを買った例を、買い手が公表した資料で見ます。
- 制御機器や受配電機器の販売と、自動制御盤の設計・製作・メンテナンスを行う産業システム事業を持つ上場会社の藤井産業は、2018年12月に株式会社サンユウを買収して100%子会社にしました。有価証券報告書の沿革は、目的を機器制御事業の基盤強化としています。サンユウの事業は、産業機械の電気設備工事と、制御盤・分電盤の設計・製作です(有価証券報告書の関係会社の欄)
- 産業機械のメーカー商社であるリックスは、2022年6月14日、石川県白山市のCEMの全株式を、子会社のリックステクノを通じて取得しました。CEMは産業用機械の制御盤の製作を事業とし、売上高は221百万円(2021年5月期)でした
- 事典が代表的な企業に挙げる河村電器産業は、2022年にシンガポールの配電盤メーカー Syntech の発行済株式の70%を取得しました。目的は東南アジアでの事業拡大です
リックスの公表資料は、取得の理由を明確に書いています。産業機械の製造で電装部分の大部分を外注していることに課題を感じ、内製化を検討していたところ、念願の機電一体が実現できる、というものです。
リックスは、売上2億円余りの制御盤会社を、電装の外注をやめるために買った。
三つの買い手は、制御機器の販売会社、産業機械の商社、同業の盤メーカーとばらばらで、公表された目的も、機器制御事業の基盤強化、電装の内製化、東南アジアでの事業拡大と違います。盤を作る会社を自社の内側に置こうとしたのは、前の二つです。いずれも公表情報に基づく業界動向の紹介で、当社が関与した案件ではありません。
盤の据付まで請けているなら、製造と工事に売上を分けて確かめる
現場での据え付けや結線が、電気工作物を設置・変更する電気工事に当たるなら、電気工事業を営むことになり、電気工事業法の登録が要ります(同法第2条・第3条)。建設業許可を受けていれば、登録に代えてみなし登録の届出になります。建設業許可そのものは、1件の請負代金が500万円未満の軽微な工事だけなら不要です(建設業法施行令第1条の2)。
「製造業のつもりでいたら、工事業も兼ねていた」という状態は、譲渡の準備で整理が漏れやすい箇所です。売上を製造と工事に分け、工事の1件ごとの請負金額を確かめます。許可と届出の扱いは、許可・資格の承継早見表とみなし登録電気工事業者のコラムにあります。
自社でできる、3つの確認
- 設計を通せる人が何人いて、それぞれ何歳か。
- 売上の上位5社は、どの種類の取引先か。
- 直近の3年で、案件別の利益を説明できる資料があるか。
三つが書き出せていれば、買い手に会う前に、評価される点と弱い点が自分で見えます。企業価値の目安は診断で、手順は相談から成約までの流れで確かめられます。
参照した一次資料
- 『第14次業種別審査事典』5067 配電盤・電力制御装置製造業(金融財政事情研究会)
- 日本配電制御システム工業会(JSIA)「統計 監視制御装置・その他の制御装置・合計」 (2025年度まで)
- 日本配電制御システム工業会(JSIA)「JSIA優良工場認定制度」
- 帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」 (2025年)
- 藤井産業株式会社 有価証券報告書(第72期。沿革・関係会社の状況) (2026年6月24日提出)
- リックス株式会社「当社連結子会社による株式会社CEMの株式取得(孫会社化)に関するお知らせ」 (2022年6月14日)
- 河村電器産業 ニュースリリース(Syntech Switchgear & Engineering の株式取得) (2022年8月24日)
- e-Gov法令検索「電気工事業の業務の適正化に関する法律」(第2条・第3条) (2026年10月14日に現行版を確認)
- e-Gov法令検索「建設業法施行令」(第1条の2) (2026年10月14日に現行版を確認)
よくあるご質問
後継者はいます。それでもM&Aを考える意味はありますか。
工場や設備は評価されないのですか。
赤字の年があります。売れますか。
盤を現場で据え付けています。建設業許可は要りますか。
知りたかったことは分かりましたか
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)