消防・電気工事の部門だけ譲って会社は残せる?共通の人・車・事務所を分ける準備
記事中のモデルケースは、理解を助けるための架空の例です。 当社の成約実績ではありません。
電気工事と消防点検を同じ会社で営んでいる。消防の部門は譲りたいが、電気工事と会社は残したい。こうした希望は、承継方法を考える出発点になります。ただし、部門名だけで譲る範囲が決まるわけではありません。
次の場面は説明用の仮想例です。両部門が事務担当者1名と営業車、倉庫を共用している会社を考えます。消防の売上だけを別会社へ移したつもりでも、翌月に誰が点検報告書を作り、電気工事の請求書を発行するのでしょうか。部門を分ける準備は、こうした共通の仕事を見つけるところから始まります。
会社を残す希望と、譲渡の手法を分けて考える
株式を譲ることと、事業の一部を譲ることは違います。
日本政策金融公庫の総研レポートも、株式の取得と事業の譲渡を分け、事業譲渡には一部譲渡と全部譲渡があると整理しています。日本公庫総研レポート「M&Aに取り組む中小企業の実態と課題」4〜5頁
これは手法の基本的な区別を確認するための2016年の資料です。現在の個別手続を判断する資料とはせず、残したい事業、契約、資産、負債等を確認し、適する方法を専門家と検討します。
「会社を残せば今と同じ費用で続けられる」「事業譲渡なら過去の責任を全部外せる」とは限りません。譲渡対象の設計だけでなく、残る会社の運営費や債務への対応も確認が必要です。
以下は専門家への相談資料を作るための整理案です。契約や許認可の移転可否を、この一覧だけで決めるものではありません。
共通のものを、移す・残す・当面共用に分ける
最初の一覧には、顧客との契約、車両・工具、事務所・倉庫、電話、業務ソフト、請求・入金管理などを並べます。それぞれに、誰の名義か、どちらの部門が使うか、譲渡後の希望を書く欄を設けます。
例えば車両を買い手へ渡す案なら、残る電気工事部門の移動手段も同時に考えます。倉庫を売り手に残す案なら、買い手が一時的に使うのか、別の場所を用意するのかを確認します。売上比率で費用を半分にしただけでは、車や倉庫そのものは半分になりません。
取引先との口座と、銀行の預金口座も区別します。同じ取引先に両部門の請求がある場合は、どの契約の、いつの仕事を、誰が請求するのかをたどります。預金口座やログイン情報を部門の備品のように渡す発想にはせず、請求先・入金先の切替や手続を金融機関等と確認します。
希望が決まらない項目は「共用」として放置せず、確認する相手と決定が必要な時期を付けます。所有者、契約名義、実際の利用者が違うものは、その違いを消さずに残してください。
人を移す前提にせず、両方の仕事量を見る
共通の事務担当者が消防部門へ移ると、残る会社の請求や給与事務が止まるかもしれません。反対に売り手へ残れば、買い手側で点検日程の調整や報告書作成を担う人が必要です。
担当業務を棚卸ししても、それだけで本人の勤務先や労働条件を決められるわけではありません。厚生労働省の改正後の指針は、事業譲渡で労働契約を承継する際の個別の承諾と、真意による承諾を得るための説明・協議を示しています。会社分割には別の枠組みがあります。事業譲渡等指針・第2の1、会社分割と事業譲渡の制度案内
準備では、誰がどの作業をしているかと、本人の希望、決まっている条件、まだ協議していない事項を分けます。
詳しくは従業員への説明と同意を参照してください。
資格を持つ社員を両社の予定に重ねて載せることにも注意が必要です。
実際の勤務と、それぞれに必要な資格・体制を確認します。建設業許可の承継には事前認可等の要件があり、登録電気工事業の承継も対象事業の範囲や届出を確認する必要があります。部門を譲る契約だけで手続が済むと考えず、所管行政庁・行政書士等へ早めに相談します。近畿地方整備局・認可申請の手引き1〜3頁、宮城県・登録電気工事業者承継届
各資料の窓口や提出方法を全国共通とは扱わず、自社の許可・登録区分で確認してください。建設業許可付きの会社を引き継ぐ条件も参照できます。
当面の共用には、終わり方まで必要になる
例えば、分離した初日から全てを別々にできず、一定期間は売り手が事務を支援する案を考えるとします。これは本稿の検討例で、必ず利用できる制度や標準契約を示すものではありません。人の働き方、情報の取扱い、委託できる範囲を専門家と確認するところから始めます。
検討するなら、何を、誰が、いつまで担い、費用や責任をどう分けるかを明確にします。単に「引継ぎには協力する」では、毎月の報告書作成がいつ終わるのか分かりません。買い手側で担当者を育成するのか、別の委託先へ替えるのか、支援終了の条件も専門家と詰めます。
点検から改修工事へつながる顧客では、次の見積を誰が受けるか、問い合わせをどこへ案内するかも課題です。今後も双方が同じ顧客と仕事をする場合は、残す事業と競業制限等が矛盾しないか、契約前に確認してください。
譲る側だけでなく、残る側の翌月を確かめる
部門別の損益表を作るときは、これまでの共通費の配分と、分離後に必要になる費用を分けます。売上が減っても事務所家賃が同額なら、残る会社の負担割合は変わります。買い手側にも新しいソフトや事務担当者が必要なら、その費用を落とせません。
譲りたい部門、残したい事業、共通で使うもの。相談窓口へ相談する際は、この三つの概要をお伝えください。最初から取引先名や口座情報を送る必要はありません。翌月の受注、作業、請求、支払を両方の会社でたどり、未決定の箇所を見つける。そのうえで、法務・税務・許認可の専門家と実行可能な方法を検討しましょう。
資料確認日:2026年10月21日。本稿は一般的な準備の説明で、個別の法務・税務判断を行うものではありません。
参照した一次資料
- 日本公庫総研レポート「M&Aに取り組む中小企業の実態と課題」4〜5頁 (2026年10月21日確認)
- 事業譲渡等指針・第2の1 (2026年10月21日確認)
- 会社分割と事業譲渡の制度案内 (2026年10月21日確認)
- 近畿地方整備局・認可申請の手引き1〜3頁 (2026年10月21日確認)
- 宮城県・登録電気工事業者承継届 (2026年10月21日確認)
知りたかったことは分かりましたか
執筆:松本電業株式会社(電設承継パートナーズ)